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復讐は、冷やして食すのが一番美味い  作者: 結翔 〇
第2章 混乱 ― 過去と違う現在 ―

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[30] 地下の執務室―― テオイ

『第2章 混乱 ― 過去と違う現在 ―』は、残り4話で終了し、第3章は5月より公開予定です。

第2章の残り4話は、ピオニーの視点を離れ、三人称限定で描かれます。

――ピオニーが狙う者たちが何を考え、何を進めているのか。どのような状況にあるのか。

それらが明らかになります。

 王都。

 レオヴァル宮。

 部屋の奥に置かれている寝台は、壁に寄り添うというより、そこに据えられていた。

 四隅に立つ柱は天井へ届くほど高く、蔦と獅子の彫刻が絡み合うように刻まれている。

 その上に渡された天蓋からは、深い色の布が静かに垂れ下がり、寝台を覆い隠している。

 テオイはベッドから降り、鏡の前に立った。

 侍従が軽装の洋服を着せ始める。

「ん……殿下……」

 寝ぼけた声が、背後の寝台から聞こえてくる。

 シルクの掛け布に包まったダリアン・レノドンの寝言のようだ。

 テオイは一度だけ寝台へ視線を戻した。

 あの深窓の令嬢とは似ても似つかない、警戒心の欠片もないその寝姿に、眉を寄せた。

「まったく……私の寝室でよく眠れるものだね」

 テオイは舌打ちをし、秘書官のエドガー・シュタイン伯爵に合図を送る。

「ヴァイバーナンの客だし、ラーケル宮にでも捨て置いて」

 エドガーが「はい」と返事をすると、他の侍従がベッドクロースを床に敷いた。

 シーツに包まれたダリアンをベッドクロースに置くと、即席担架が出来上がった。

 エドガーが扉を閉めると静寂が再びやってきた。

 テオイは、書棚にある本を取り出した。

 すると、書棚の一部が音もなく後退し、隠されていた扉が現れた。

 テオイは扉を開け、ランプを持ったエドガーを先頭に階段を降りた。

「確か、今日で3日目だったよね」

 テオイの問いにエドガーは「はい」と短く答える。

 通路を歩くと、鉄の扉があった。

 扉を抜けた瞬間、明るく広い空間が現れた。

 石壁に半分囲まれた室内の中央に、椅子が一脚だけ据えられていた。

 背は高く、肘掛けには獅子の彫刻が施されている。

 深い色の布が張られたその椅子は、もはや椅子というより、小さな玉座だった。

 テオイは椅子に座り、頬杖をついて、笑った。

 少し離れた先には、競技大会で平民に優勝をさらわれた、かつて赤の騎士団団長候補だったサイラス・クラークがいた。

 今やその面影は薄く、両膝をついたまま、微動だにしない。

 衣服はところどころ破れ、露出した皮膚には細かな傷がいくつも走っていた。

「面を上げて。サイラス。今の気分はどう?」

 サイラスが顔を上げる。

 右頬には石榴ざくろのように赤い肉をはみ出した深い傷が這っていた。

「……まだ、やれます」

 言葉とは裏腹に、声はほとんど擦れていた。

「ほぉ……そうか。確か、1日目は」

「ヤトゥシュ(蚊の魔虫)でございます」

 エドガーが記録を読み上げるように答える。

 テオイは目を細めて笑った。

「ああ、数匹用意したといっていたね。刺された箇所が相当腫れたと聞いた。だが、今は、ほとんど腫れは無いじゃないか」

 サイラスは頭を下げた。

「殿下から賜ったポーションのお蔭でございます」

「ふうん。で、2日目は?」

 テオイがひじ掛けに肘を置き、指先で頬を支える。

「クィーン・ウシュ(女王蟻の魔虫)と戦わせました。競技大会の報告書通りでございます」

 エドガーは間を置かず、事務的に答えた。

 テオイが目を輝かせた。

「そうか! 生きているということは、クィーン・ウシュを倒したの?」

 サイラスが渇いた唇を震わす。

「はい、殿下」

「サイラス、どうだった? クィーン・ウシュは? 再生した?」

「え?」

 サイラスは顔を上げた。瞳がわずかに揺れ、見開かれる。

 言葉を飲み込んだのか、唇がかすかに震えていた。

「殿下。再生しないほうを選びました」

 エドガーが抑揚のない声で告げた。

「ああ、そうだった。すぐに死なれても困るし……頬に傷があるけど、それもポーションで治りそうだね」

「はい、仰る通りでございます」

 テオイの問いにエドガーは即座に答えた。

 テオイは愉悦を滲ませて笑った。

「うん。良かった。サイラス、今日は最後の試験だよ」

 サイラスの表情はさらに硬くなり、目が泳いだ。

「最後の試験はとても危険だからね。精鋭も二人つけるよ。でも、これで合格になれば、君は、赤の騎士団の候補生に復帰できる」

 テオイは顎をわずかに上げた。

「君のご両親も喜ぶね。ああ、もちろん、嫌なら嫌だと言ってほしい。僕は無理強いは嫌いだから」

 サイラスは俯いた。体が微かに震えている。

「これに合格したら、イアン村にも行ってほしいのだよ。君の評判を貶めた平民と深窓の令嬢や留学生も向かっているようだよ。あ……いや、もう到着したかな?」

 サイラスの震えが止まった。

 テオイは、冷えた笑みを浮かべた。

「聞いたところによると……令嬢たちはデュラス伯爵の屋敷で、またもや功を残したらしい」

 サイラスが顔を上げた。瞳は怒りでぎらついていた。

「……やります。やらせてください」

 テオイは特別な玩具を見つけた子供のように笑った。

 エドガーをちらりと見る。

 エドガーはすぐに頷き、従者へ命じた。

「下のコロセウムへお連れしろ」

 サイラスの姿が見えなくなると、エドガーはサイラスが跪いていた、その背後のカーテンを引いた。

 カーテンの奥は、ガラスで覆われていた。

 テオイが立ち上がってガラスに近づく。

 見下ろすと、異形の屍と化した男が鎖でつながれていた。

 テオイは、呟いた。

「エドガー、彼は、『あれ』に勝てるかな」


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