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復讐は、冷やして食すのが一番美味い  作者: 結翔 〇
第2章 混乱 ― 過去と違う現在 ―

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[31] ル・サロン・ド・リス――マシュー

 王都。

 ル・サロン・ド・リスの1階。

 扉が開いた。

 遮られていた音が、一度に流れ込んでくる。

 低く抑えられた笑い声。

 同じ旋律をゆるやかに繰り返す弦の音。

 4人の男が入ってきても、サロンの客は一瞥するだけですぐに視線を戻す。

 目元に黒いドミノをつけたマシューは、そこが気に入っていた。

 誰も第2王子だと気にも留めない。

 隣には、補佐官のルシアン・セレス伯爵と後方に護衛騎士が二人控えていた。

 客と変わらぬ装いだが、護衛騎士は、その視線だけが休まない。

 それも、この場では当然のことだ。

 灯りは柔らかく、影は薄く伸びていた。

 何かを隠すには丁度いい。

 奥の壁際には、見覚えのある男が3人の女を相手に談笑していた。

「見覚えのある顔だ」

「ラナー侯爵家次男のレイモンド様です」

 マシューは頷き、奥の扉を開けて廊下に出た。

 静寂の中、マシューたちの足音が響く。

 しばらく歩くと、正面に引き戸の扉があった。

 ルシアンが開け、護衛騎士の1人が入り、合図でマシューたちが中に乗り込んだ。

 わずかな間を置いて、床が静かに持ち上がった。

 だが、これも魔石が尽きれば、ただの重たい箱に過ぎない。

 3階に着くと、すぐに目的の部屋へ向かった。

 中には執務用の机と椅子、打ち合わせ用のソファとテーブルがあるだけ。

 マシューは一人掛けのソファに座って、足を組む。

 ドミノをルシアンに渡す。

「連れてこい」

 数分後、護衛騎士が戻ってきた。

 担いでいた男を床に下ろす。

 両手と両足は縄で固く縛られ、黒い布を頭からかぶせられた男が床に横たわる。

 護衛騎士は男の両ひざを並べて地につけさせ、上半身を直立させてから、かぶっていた黒い布を取った。

 すると、猿轡をされた男が顔を出した。

 男の目は涙で汚れ、額からは汗が流れ落ちていた。

「待たせたな。パウル・レスラー」

 アカデメイアの研究員だった。

 マシューの合図で猿轡を外されたパウルの口から唾液があふれ出た。

 マシューは眉間に皺を寄せた。

「……パウル、お前の借金は増えるばかりじゃないか」

 指先でひじ掛けを軽く叩く。

「も、申し訳ごじゃりません」

 パウルは、長く咥えていた猿轡のせいで呂律が回っていなかった。

「お前の働きでギャンブルの借金を帳消しにしようと言ったのに……」

 パウルの瞳が揺れる。

「報告書のクィーン・ウシュの魔石が1ルーブルには大いに興味が湧いた。だが、もう一方が1000分の2の重さとは、話にならない」

 マシューは笑みを浮かべた。

「しかも、1ルーブル取れても随分と粗悪な魔石だというじゃないか。人間より魔虫や魔獣のほうが魔石が大きくて良質かもしれないと言ったのは、お前だろう?」

 マシューは急に立ち上がった。

 パウルは、近づいてくるマシューに気圧されて尻もちをついた。

「も、も、申し訳ございません」

 マシューの足が鋭く振り抜かれた。

 鈍い音が響く。

 パウルの体がくの字に折れ、次の瞬間、床に吐瀉が散った。

 パウルは言葉にならない声を漏らしながら、身を縮めた。

「魔虫のサンプルが少なく……」

「あれだけ、実験用の人を用意したのに成果を出せず、次に魔虫のサンプルが足りないと文句を言うつもりか」

 パウルは床にひれ伏し、身を縮めながら真っ向から否定した。

「いいえ、滅相もない!」

 マシューがパウルの頭をめがけて、足を思い切り上げる。

 だが、ルシアンが止めた。

「殿下、これ以上は……実験も遅れが出ます」

 マシューは、踵を返すと一人掛けのソファに座った。

「ふむ……」

 マシューは、背もたれから体を離し前傾した。

「良質な魔石が必要なのだ。地から生まれる魔石と同等の品質が……わかるだろう?」

 パウルは顔を少しだけ上げ、大きく頷いた。

 マシューは目を細めた。

「実験の一つが競技大会だったのに。クィーン・ウシュの魔石を持って帰ってきたのは、サイラスのチームだけだったじゃないか」

 マシューは頭を傾げた。

「他のサンプルはどうしたんだ。ハーラクに放したんだろう?」

「国王様が1体のみと」

 ルシアンが答えると、マシューの唇だけがわずかに歪んだ。

「……そうか」

 マシューのその一言で温度が下がった。

「殿下、お人払いを」

 ルシアンはマシューを見つめた。

 マシューは眉一つ動かさず、手で払った。

 ルシアンはマシューと二人きりになると、ハーブティを淹れなおした。

 マシューは香りを楽しみ、口をつけた。

「お前のお蔭で、だいぶ落ち着いた。ありがとう」

「殿下は生真面目すぎるのです。あのような下賤な者にお心を割けば、お疲れにならぬはずがありません。さあ、上着を」

 ルシアンは上着を掛け、肩に触れた。

 マシューは目を閉じ、息を漏らした。

 ルシアンはマシューの肩を揉みながら顔を寄せた。

「殿下、イアン村で実験をするようです」

 マシューのまつ毛の影が、わずかに揺れた。

「兄上が参加するのか」

 ひじ掛けに置いた手が拳を作る。

「……大変危険な実験のようです。そのようなイベントでは何が起こるかわかりません」

 マシューはルシアンの手に自身の手をそっと置いた。

 ルシアンが囁く。

「優位な局面がすべてを決めるのです」

 マシューは頷いた。

「ああ……その通りだ」

 マシューは振り向くと、ルシアンの癖のある巻き毛を指に絡ませた。

 ルシアンは満足そうに微笑んだ。

「これから、どうすべきだ?」

「僭越ながら、パウルはもう役に立たないでしょう。次席のフリーダ・ボックにやらせてはいかがでしょうか」

「確か……植物学に精通している平民の女ではなかったか?」

「ええ。パウルは彼女の成果を自分のものにしていたようですから」

「……決まりだな。あとは、傭兵団に人身売買組織のリストを渡して実験を続けるだけだ」

「おっしゃる通りです。殿下」

「……ルシアン、体が怠い」

「では、隣の部屋へ行きましょう。ゆっくりマッサージして差し上げます」

 ルシアンはマシューの手を引き、隣の寝室へ消えた。

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