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如何物喰い  作者: 蓮の華
遭遇、変異。そして、切り裂くもの
16/51

一章 幕間 ある一室の話

「…それで?」


「えっと…ですから…その」


小綺麗な室内。

とある施設の一室。


年齢の割にはガッチリとした体格の壮年のスーツ姿の男性が苛ただし気に頬杖を付き、冷や汗を流す小太りな男を詰問していた。


「マスコミへの根回しも、警察への根回しも、実際の修繕費も掛かってるんだぞ?本部もカンカン、身元不明とはいえ人的被害も出てる」


「……はい」


「はい、じゃない。何をしてたのか聞いているんだ」


「……すみませんでした」


「食人鬼取り逃がしたと思ったら、今度は初動遅れで鎌鼬の被害?それでもプロなのか?」


「……弁解の余地もなく」


「……はぁ。もういい、とっとと始末書纏めろ」


「……はい」


肩を落として部屋を出る小太りな男。




広くはないが整理整頓された室内はこの部屋の主の性格をよく表している。


壮年の男性は備え付けの電話で何処かへ連絡すると、再び机の上の資料に再度目を通す。



『食人鬼についての報告書』


◯月◯日、以前よりこの周囲に高い妖力反応があり周囲警戒に努める。

◯◯市◯◯在住、30歳代男性が自室にて会社でのパワーハラスメントを苦に首吊り自殺。その死体を媒介に食人鬼として現界。男性は行方不明として処理。


現界により周囲の妖力反応が著しく低下したのを監視員が確認。現場に急行した調査員が周辺住民に被害が出る前に接触、隔離に成功。


食人鬼の個体能力は媒介によって千差万別であるが、今回の個体は中の下程度と想定される。

陰陽員三名が討伐に当たり、すぐに致命傷を与える。しかし個体能力なのか著しい再生能力を持ち、油断した陰陽員一名が重傷、一名が軽傷。調査員が意識不明の重体。

妖力によって凄まじい再生力を発揮する事を確認。戦闘している間に再生力は低下。頭部全損、右左上肢切断、右下肢亜切断、体幹に著しい損害を与えるが、◯◯市内へ逃げ込まれ、消息を絶つ。


すぐに本部へ連絡。本部付き陰陽員、調査員も捜索に加わるが、元から霊脈が近く周囲の妖力濃度が高かった為に、薄まった妖力は追跡するには不十分で即日発見に至らず。


翌日、同市在住専門調査員へ調査依頼、妖力跡を辿り、同日の日付が変わる頃に消息を絶った地点とは大幅に離れた国道◯号高架下◯◯トンネルにて食人鬼の痕跡と思われる妖力跡発見。専門調査員により消滅を確認。


現場には多量の人間の痕跡。出血からして死亡し補食されたと見られる。現在身元確認中だが、行方不明届けは出ておらず、周辺の独居老人、住所不定者と推測される。追捜査中。


食人鬼消滅理由は不明。

フリーの退魔師が行った可能性あり。周囲にはフリーとされる退魔師の報告なし、こちらも追調査中。

補食したが重症で再生が間に合わなかった可能性あり。

偽装の可能性あり。種族、個体特性としてそういった能力は確認できないが、周囲の厳戒体制継続。


厳戒体制により、鎌鼬被害への対応に影響。鎌鼬に関しては報告書参照。


確定被害:国道◯号高架下トンネルの一部崩落。清掃。

推測:人的被害二名~




「……はぁ」



壮年の男性は深くため息を付く。

深く刻まれた眉間の皺を解しながら、もう一つの報告書を手に取る。




『鎌鼬についての報告書』


◯◯市□□公園。◯月×日。

公園遊具に不自然な切り傷がつけられる悪戯被害報告が警察付け調査員から当局に上げられる。

調査員、並びに監視員は厳戒体制につき初動が遅れる。食人鬼の報告書参照。


周辺住民からのSNS上への写真投稿によりすでに情報リークあり。悪戯被害として公表。


即日調査員を派遣、周囲には妖力反応なし。

周辺の痕跡から鎌鼬の被害と推測。

物損被害ということから、若い個体と推測。捜索幅を近郊の森林へ拡大。


調査員二名が捜索に参加。調査員不足。食人鬼の報告書参照。


同月△日。

深夜未明に再び物損被害あり。

同公園、修繕中のブランコ一台大破。ジャングルジム一基大破。地面に多くの打撲跡。

公園内に成人男性用と思われる服が散乱、血痕付着。


妖力跡が薄く、当局捜査員では調査することが出来ず。

食人鬼の件により調査依頼され、厳戒体制に参加されていた専門調査員へ連絡。鎌鼬と思われる妖力跡、消滅を確認。


消滅理由は不明。

服の断片、遊具の大破等周囲の状況から何者かと争った事が推測される。

この周囲にはフリーとされる退魔師の報告はなし。追調査中。


遊具の切り傷からのみ妖力反応検知。その他の痕跡からは妖力、霊力反応なし。

すでに公表された事例のため、ブランコについては情報操作のみ。細かく散断されたジャングルジムのみ処分。


悪戯被害として警察へ調査依頼。現在追加情報なし。追調査中、順次中止予定。


確定被害:ブランコ一台、ジャングルジム一基、公園敷地陥没。

推測:人的被害一名~






「……はぁぁぁ」



深く、深くため息を付く壮年の男性。

分からないことが多い怪奇被害。災害として扱われることが多く何もかもが不明といったことも良くある。

しかし、今回の件はマスコミが報道するまで到っていた。男の頭痛を加速するには充分すぎる事案。


「普段は暇なくらいなのに、何故悪いことは重なるのか…」


眉間の皺は伸びることなく、依然として深く刻まれている


「……このフリーの人、存在するならうちに来て欲しい」


壮年の男性は報告書に合った人物を夢想する。


「ほんとに人が足らん…」


遂には机に突っ伏す壮年の男性。




コンコンと、扉がノックされる。




ガバッと起きた男性はすぐに立ち上がり、来客を迎え入れる。


「失礼します」


入ってきたのは若い女性。


「今回は本当に助かりましたよ!さぁ、どうぞどうぞ!」


喜色満面。壮年の男性が女性を大袈裟に迎え入れ、備え付けのソファーの上座を指し示す。


「…恐縮です」


それに素っ気なく答え着座する女性。


「流石は本部付き確定の専門調査員!お見事な手腕で!人手が足りなくて本当に助かりましたよ!!」


「……恐縮です」


「聞けばこの辺りの大学に通ってるらしいではないですか!どうですか?当局を希望なされては!」


壮年の男性がうら若き女性に向けるには必死すぎる態度。女性は若干引きながら答える。


「…元より本部配属が確定してますから、それはちょっと……」


「そんなこと言わずに!本当に助けると思って!!」


大柄な体格を小さく小さく縮めて頭を下げ、もはや土下座する勢いの壮年の男性。

女性はドン引きした。


「……本部局長に言って下さい」


「あっはい、無理ですね」


秒速で諦めた男性。


「…とりあえず厳戒体制こそ敷きましたが、ほぼ確定的に消滅しているでしょう」


「そうですか…。それは良かった…ホントに…」


肩の力を大袈裟に抜く男性。


「ですが、鎌鼬の件も合わせても、不明な人物が気になるところですなぁ」


「…えぇ、いるかもどうかわかりませんが」


「確か妖力も霊力も反応なかったと?」


「はい、ついでに言えば神力、魔力も。公園の陥没跡から何も感じられませんでした。物理的なものでしょう」


「物理的…ってそれは逆にとんでもなく不自然なのでは?」


「はい、そうです。また別の妖怪が絡んでいた方がまだ納得いきます」


「相変わらず分からないことが多いですな…」


「そもそも怪奇に対して現代科学は追い付いていなさ過ぎますから。ようやく妖力や霊力を関知できるようになっただけ昔よりはマシでしょう」


「私みたいな戦闘職は配属になった頃なんか足を使うのが基本でしたからな。はっはっは」


何故か自慢気な壮年の男性に、女性は胡乱な視線を向ける。


「感知や捜索が、陰陽師や霊媒師に頼るだけだった頃と比べれば大幅な進歩です」


「ですなぁ、時代は変わるものです」


天井を仰ぎながら染々とする壮年の男性。


「それでは、私は辞させて頂きます。一週間も拘束されてたまったものではありません。期末考査も近いのに…」


「はっはっは!落第しても本部配属が決まっているのですから辞めてしまえばいいでしょう!」


女性は男の物言いにピクリと眉を上げるが、ため息を溢すだけで何も言わなかった。


女性は扉に向かい、途中で振り返る。


「……ところで、鎌鼬の件なのですが」


「はい?」


「世間的に公表されたのはどの辺りまででしょう」


「あぁ、ブランコが倒されたって事だけだったはずです。元より老朽化で錆びていたところで、悪戯で縄で引き倒された事になっています」


「……ではジャングルジムの方は?」


「あれは人の仕業とするには不可能でしたからな、作業班が完全に根本から撤去して無かったことにしました」


「……そうですか」


「はい。何か気になる事でも?」


「……いえ、なにも」


それだけ言って出ていく女性。

その後ろ姿に、最後に壮年の男性は声を掛けた。



「いつでも我々は待ってますぞ!是非とも我が局へ!名無専門調査員殿!」

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