第28話 理事長室 2
「それともルツはユーリの正体が露見して、この学園にいられなくなればいいと思っているのですか?」
私の問いに、ルツは凍りつく様な鋭い視線を返しました。
「……ユーリがあれだけ楽しみにしていたものを今更取り上げるような真似はしない。ただ私自身もユーリの力に関しては掴みかねている」
「どういう意味ですか?」
「ユーリは私の知る竜とは違う。エリスも知っている通り我々竜は卵から孵る。だが竜同士の生殖行為から卵が産まれる確率は極めて低く、更に言えばこの世界に現存する竜は私しかいなかった」
「まさか、そんな……」
確かに数百年生きてきたエルフの私ですらルツ以外の竜の存在を知りません。ですがそれは滅多に人前に姿を現す事の無い、竜の習性故の事だと思っていました。
「本当にルツ以外の竜はもう存在しないのですか? 貴方の知らない竜がいるという可能性は?」
「有り得ない。竜は互いの存在がわかる。交流は無かったが、私の知る最後の竜の気配が途絶えたのは今から約10年前だ」
「10年前というと、もしかしてあの邪竜討伐ですか……。いえ、だとしたらユーリの卵は一体誰が生んだというのですか」
「……わからん。私が知りたい位だ」
ユーリの卵は、失われた大陸にある朽ちたユグドラシルの洞にあったと聞きました。
ルツの話を聞く限りでは、ユーリは2か月前、丁度エルフの郷のユグドラシルに蕾が付いた時期に卵から孵ったそうです。ですが、だとしたらユーリの卵は一体どこからこの世界にやって来たのでしょう。
「そもそも竜は生まれた時から竜だ。誰に教わらずとも己の魔力を操り世の理を知る。竜が前世の記憶、しかも人間だった記憶を持つなど……。だが、だからこそ私がユーリに己の魔力に関して教える事は非常に難しい。ユーリが何が分からないのか、何が出来ないのか私には理解出来ないのだ」
ルツはそう言ってユーリが寝ている部屋の方を向くと、それきりむっつりと黙り込んでしまいました。その不機嫌そうな顔に私は一つ溜息を吐くと、ルツの向かいにのソファに座りました。
「とりあえずユーリは早急に魔力の扱いについて学ぶ必要があります。私が考えるに、彼女は初めて魔力を学ぶ人間の子供と同じ扱いが必要なのではないでしょうか。ルツ、本当なら貴方はこの学園にはいない筈なのですから、これは私の仕事ですよね?」
私もルツの視線を追い、ユーリが寝ている部屋のドアを見ました。
ユーリは私が結界を解いたと同時に意識を失い、急激に失われた魔力を生成する為か今は深く眠りについています。
あの時魔力放出が止められず途方にくれるユーリを前に、そして私の前で顔色を失い力なく崩れ落ちるユーリの姿に、私がどれだけの恐怖を覚えたか……。恐らくユーリもルツも知る事はないでしょう。
尊き存在が目の前で失われるのではという恐怖感と、私が守らなけえればという使命感。そしてそれ以上に感じたのはーー私が初めて感じる感情でした。
ふふ、学園に入る上での手続上養女にしましたが、どうやら私自身も既に名目上とは言えない程ユーリに過保護になっているのかもしれません。
「義理とは言え私はユーリの父親なのですから」
私は無言のまま不機嫌そうにじっと睨むルツに、にっこりと微笑んだのでした。




