第21話 高等召喚術
フランク王国が誇る学園都市は、国立魔法学園、王立アカデミーを中心としたこの世界で唯一の学園都市である。
緑豊かで広大な敷地の中央に伸びるメインストリート。その終点には魔法学園とアカデミーがさながら城の様にそびえ立つ。そしてメインストリートを挟んで学生寮、各研究施設、図書館、体育館、劇場、更には病院やショッピングセンターといった施設が点在し、それぞれの施設は惜しみのない予算と世界最高峰の技術で建てられている。ここに集い学ぶ者にとっては最高に恵まれた環境であった。
そんな中、コロッセウムと呼ばれる屋外施設は校舎から少し離れた小高い丘に建っていた。
屋外での魔法使用時に使われるこの建物は、大理石で出来た円形の大舞台を高く壮麗な円柱が囲む。
フランク王国建立以前からあると言われ、古の賢者が魔方陣として使ったとも言われるこのコロッセウムは、今は風雨に晒されるままとなっていた。
そのコロッセウムの舞台を今日は大勢の魔法学園の生徒達が囲んでいた。どの子供も目を輝かせ舞台上を一心に見つめている。その視線の先には数人の男女が並んでいたーーーー。
「ユーリ、ほら、急いで!」
メイベルはにっこり笑って私の手を取ると駆け出した。
雲一つない快晴の空の下、中庭の芝生を抜けメインストリートを横切って、メイベルは止まることなく駆けて行く。
そういえば前世は病気がちで体育の授業も、運動会の練習さえ参加した事はなかった私。友達と一緒に手を繋いで走るのって生まれて初めてだ! 嬉しくて一人でにやにやしちゃう。
「ねえねえメイベル、私達どこへ行くの?」
「コロッセウムよ。今から高等召喚術のオリエンテーションがあるの。前年度の成績優秀者が召喚獣を呼び出して見せてくれるのよ。すごいんだから!」
むむ? 高等召喚術? 召喚獣??
訳のわからないままメイベルの手をぎゅっと握ってついて行く。やがてメイベルはようやく立ち止まると目の前にある小高い丘の上を指さした。
「ほら見て、あそこよ」
「……うわあ、なにあれすごーい!」
丘を見上げる先には高い円柱に囲まれた円形の大きな石造りの舞台があって、既に沢山の生徒達が集まっているのが見える。えーっと確かにローマにあんな感じのあったよね。遺跡? 遺跡なの?
「よかった、まだ始まってないみたい。ユーリ前の方に行きましょう」
メイベルは舞台に近づくと目敏く人垣の隙間を見つけて、私の手を引っ張るように強引に舞台の前まで行った。
円形の舞台の上には先生らしき年配の男の人と、その横に生徒が並んでいるのが見える。ネイビーのネクタイやリボンを付けてるから3年生みたい。
暫くすると舞台上の先生らしき男の人はぐるりと舞台の周りを見回して、一つ頷いてから良く通る大きな声でしゃべり始めた。
「ようこそ新入生の皆さん、そして2、3年の皆さん。私は今年度高等召喚術を担当するレイモンド・ハーネストです。今日は皆さんに高等召喚術の授業の様子をお見せしようと思います。さて、召喚術とはどのような物か、皆さんお分かりですか」
そう言ってレイモンド先生がぐるっと舞台の袖を見まわすと、何人もの生徒が一斉に手を挙げた。ええっ、みんな知ってるの? もしかして分かってないのは私だけ!?
思わず焦る私をよそに、先生は満足そうに頷いた。
「流石皆さんよく勉強しているようですね。召喚術とは幻獣や精霊を呼び出し、使役する術の事を指します。高等召喚術はその中でも更に特殊な魔術を使い、高位の幻獣や精霊を召喚します。新入生の皆さんはまず通常の召喚術の授業を取ってくださいね。ここにいる2,3年の生徒さんは既にほとんどの人が召喚術の単位を取得済みかと思いますが……」
言われてみれば舞台の周りを囲む生徒のリボンやネクタイは、新入生のワインレッドも、2年生の水色も、3年生のネイビーも混じってる。ということは新入生以外の人は、みんな既に召喚術の授業を受けてるってことだよね。……ちょっと安心したかも。
「さて、ここに並ぶ彼等は前年度の私の授業を履修した生徒たちです。1年間私の元で学んだ彼らの成果を今日はここで発表してもらいましょう。ではまずフラン、お願いします」
先生がそう言うと、一人の女生徒がにこやかに笑ってお辞儀をした。ふわふわした蜂蜜色の髪の、とても可愛い女の子。
フランさんは舞台の中央にある魔方陣の前に立つとブレザーのポケットから杖を取り出した。そして一転笑みを消して真剣な表情になると、高い声で呪文を唱えた。
「私フラン・ボヌールは古の盟約に基づき召喚する。汝が力を示せ、セイレーン!」




