第12話 仲直り 前篇
結局ルツとは仲直りしないまま、というか一方的に私が口をきいてないだけなんだけど、いよいよ明日は学校へ入学する日になってしまった。
その日の夜、最後に大事な話があるということで私はエリスさんとルツに呼ばれた。
「ユーリさん、学園へ行くにあたって幾つか注意点があります。まずは名前です。学園内では貴女はユーリ・フォン・ヴァルトと名乗ってください。対外的に私は貴女の後見人になります。つまりユーリさんは私の養女ということになりますね」
「ええっ! 養女!? ということは、……エリス……おとうさん?」
私がそういうとエリスさんはにっこり笑いました。
「ふふ、貴女にお義父さんと呼ばれるのは魅力的ですね。でも学園内ではエリス先生と呼んでくださいね。その次、貴女が竜だということは絶対に人に話してはいけません。また自分から話さなくても貴女が竜だということがわかってしまえば、その時点で学校生活は終わりになります。これはとても大事なことです。くれぐれも気を付けてください」
「……はい」
「そして最後に、基本的に学校は週末がお休みになります。自宅が近い人は家に帰っているようですが、ここエルフの郷は学校からは遠いので貴女が週末毎にこちらに来ることはできません。またルツは特殊な事情があって簡単に学校の敷地内に入る事が出来ません。……つまり次にルツに会えるのは約3か月後の長期休暇ということになります」
「え……」
「……あとは学園に着いてから説明した方がいいでしょう。今日はもうゆっくり休んで明日からに備えてください」
エリスさんはそう言って優しく微笑むと私とルツを残して部屋から出て行った。
私はエリスさんの話を聞いた後、呆然と立ちつくしていた。だってエリスさんにそう言われるまで、私はルツとしばらく会えなくなるなんて全然考えてなかった。学校に行けることが嬉しくて、大事なことを後回しにしてた。
私はあの時危ないところをルツに助けてもらって、エルフの郷でお世話になって、入学準備までしてもらって……。でもそれをしてくれたのは全部ルツなんだ。ルツがいなければ私はここにいることだって有り得なかったのに。
今まで私は何をしてたんだろう。勝手にすねて、一人で怒って……。きちんとお礼を言った?お金だって手間だっていっぱいかかってるはず。
「ルツ、あの……」
「……少し外にでよう。おいで、ユーリ」
エルフの郷は深い森の中にある。
エルフの家は外から見ると全く普通の木に見えるんだけど、魔法を使って中を亜空間っていうのと繋げているらしい。
そして深い森の中央にはユグドラシルの大樹がどんとそびえ立つ。
私は初めてこの樹を見た時、その巨大さと綺麗さにびっくりした。大人が10人手を繋いでも届かない程太い幹。見上げると白銀に輝く葉が優しくそよぎ、ところどころ薄ピンクの可愛い花が咲いている。
ルツは私の手を取ってユグドラシルの前に来ると、その姿を竜に変えた。
まるで今まで窮屈な格好をしてたとばかりにルツは背中の翼を広げると、長い尾を優雅にゆらした。見上げるほど大きな身体は黒くきらきらと輝く宝石のような鱗に包まれていて、金色の縦に光る瞳孔がゆらめく黒いキャッツアイのような瞳がじっと私を見つめている。
まるで全身宝石のような神々しい姿に見とれて、私は声も出せずにルツを見つめていた。
「私が怖いか、ユーリ」
「ううん、そんなことない。すごく綺麗だから……びっくりした。私、竜になったルツを見るのは初めてだね」
「……そうか、ならよかった。少しじっとしていろ、樹の上まで行こう」
ルツはその手でそっと私を掴むと、翼を広げてゆっくり飛び上がった。そして樹の中ほどにある太い幹に私を座らせると、自分もいつもの姿に戻って隣に座った。
「学校は楽しみか?」
「うん……」
そう聞かれて私は初めて理解した。今までルツがずっとそばにいてくれてたことで、どれだけ私が甘えていたか。
きっと私が楽しい事しか考えてなかったのは、ルツやエリスさんが私の知らないところで色々してくれてたから。そんなことも気が付かずに、私はルツがそばにいるが当たり前のように思ってた。
さっきエリスさんに言われて初めて気が付いた不安。……明日からルツはいない。
気が付くと私はぽろぽろと涙を零していた。
「ル、ルツ……ごめん……なさい……」
「何故泣く? ユーリ」
ルツはそういうと私の頬の涙をそっと手で拭いてくれた。




