表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
蒸気の心臓─機工幻想譚─  作者: らふぃお
第2章、夢と決意を乗せて
PR
90/117

90. 決意と三人の絆

アルディスの街に、ようやく夜の帳が退いていく。

薄青の光が家々の屋根を照らし、街路の石畳をゆっくりと照らし出す。

その光が窓から差し込むと同時に、シアンは目を開けた。


「……あんまり寝てねぇのに、なんかスッキリしてる」


昨夜はリベラルナックルとの対話が長く続き、ほとんど寝ていない。

けれど胸の中に残っていた靄は、すっかり消えていた。

 

シアンは左手の蒸気兵装、リベラルナックルを見つめる。


「……お前のおかげで悩みも不安も吹き飛んだよ」


そう呟き、シアンはベッドから勢いよく立ち上がった。身体をぐっと伸ばし、両頬を軽く叩く。


「よし……やっぱりあいつらに嘘はダメだよな!!」


気合とともに玄関を飛び出し、朝の空気を切るように走り出す。

 

向かう先は自分の大切な居場所、スチーム・フィールド。


街は朝の活気を迎えつつあり、露店の主人がシャッターを開け、蒸気管の弁を回す音があちこちから響く。

白い蒸気が上空へ舞い、朝日に照らされ輝いていた。

 

シアンはそれらを横目に走り抜ける。

心の中では、昨夜の対話が何度も反芻されていた。

 

やるべきことは決まった。後は、進むだけだ——。


スチーム・フィールドの扉を開けると、既に二人が待っていた。

 

「おはよう!カイ、ルシア!」


「おはよう兄貴! 出発の準備、全部出来てるよ!」


カイが工具を片付けながら笑顔で振り返る。


「おはようございます。私の方も準備は完了しています」


ルシアは背負い鞄の紐を締め直しながら、落ち着いた微笑みを見せる。


「よし、じゃあすぐにでも──」


言いかけたシアンは、一度息を飲んだ。


「……その前に、言わなきゃいけないことがある」


二人はシアンを見つめる。

シアンは視線をさまよわせたあと、ゆっくりと言葉を吐き出した。


「昨日……俺、嘘ついた。ばあちゃんがククルカンに行けない理由。本当は──ばあちゃん、具合がかなり悪いんだ」


二人の表情が固まる。


「ええ!? グレンダさん、腰を悪くしたんじゃないの!?」


カイはあわてふためき、工具を落としそうになる。


「いや……俺も昨日初めて知ったんだけど、どうやら心臓が悪いらしくて。お前らが買い出しに行ったあと倒れて……」


「そ、それなら! 誰かが側に付いていた方がいいんじゃ……!」


ルシアは慌てながらそう口にしたが、シアンは静かに首を横に振った。


「俺もそう思った。でもな──」


一度深く息を吸う。


「ばあちゃんは、俺たちを信じてくれたんだ。三人で行けって。その信頼を裏切りたくない」


頭を下げるシアン。


「……本当にごめん。お前らを安心させたくて嘘をついた。でも、やっぱり本当のことを伝えておきたくて……」


しばしの沈黙。

だがその沈黙を破ったのは、カイの小さな声だった。


「……顔、上げてよ兄貴」


シアンが顔を上げると、カイは苦笑していた。


「実はね、昨日兄貴が家に帰ってから……お姉ちゃん、ずっと言ってたんだ」


そうして、カイはシアンにグッと顔を近づけた。


「“シアンさん、絶対に何か隠してる”……って。それで僕たち二人で、最悪のケースまで想像してたんだよ」


ルシアも静かに頷いた。


「グレンダさんが倒れたのは心配です。でも……グレンダさんが私たちを信頼して送り出してくれたのなら、それに応えるべきです」


ルシアはシアンの方を見て、少し照れたように、けれど真っ直ぐ言う。


「それにシアンさん、言いましたよね。私とカイくんはシアンさんが守ってくれるって」


その言葉にシアンの目が大きく見開かれる。

それと同時に左手のリベラルナックルを強く握りしめた。


「ああ、絶対に守るよ」


「なら、言葉を言ってくれた貴方を……私は信頼します」


胸が温かくなり、シアンは息を呑んだ。


「それじゃあ……」


「行こうよ兄貴!」


カイは元気よく言い、スチーム・フィールドの外へ走り出した。


「手がかりを掴んで、元気な姿で帰ってこよう! それでグレンダさんを安心させよう!」


振り返りながら、カイはにっこりと笑った。


「飛行場でタカカゲさんが待ってるよ! 早く!!」


「……あ、ああ!」


返事をするその横にいたルシアがそっとシアンの側に寄った。


「シアンさん、今度から隠し事はなしですよ。昨日は……なんだかずっと胸がざわざわしちゃって」


照れながら言うルシアに、シアンはバツが悪そうに頭をかいた。


「悪かった……あの時は本当に、どうしたら不安にさせないかって考えて、つい……」


その真っ直ぐな不器用さに、ルシアはふっと柔らかく笑う。


「……やっぱりシアンさんは優しいですね」


「え? な、なんだよ急に」


「なんでもありません」


ルシアはいたずらっぽく笑い、シアンの手を取る。


「さあ、行きましょう。飛行場へ!」


三人は駆け出す。

朝焼けの街を、強い決意が風を切るように走り抜けていく。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ