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蒸気の心臓─機工幻想譚─  作者: らふぃお
第2章、夢と決意を乗せて
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81. 離宮密会録

秘密の会合が行われる離宮の一室に、重い扉がわずかに軋む音とともに遅れて現れた影。

 

ゆっくりとした歩みは、老いを感じさせぬ均整と風格をたたえ、まるでこの静まり返った空間そのものを従わせるように円卓へと向かっていく。


バーン。キョウ。ドルトン。ウリアル。

 

彼らは顔を上げることなく、ただひたすらに深々と頭を垂れ続ける。


「頭をあげてくれんかのう? ここに集まる時は、我々は皆、同じ立場……そう決めた。じゃろう?」


低く、しかしよく通る声が室内を震わせるように広がった。

その言葉に四人は立ち上がり、再び円卓に座った。


現れた老人は優しく微笑むと、ゆっくりと円卓の一角にある椅子へと腰を下ろした。


アークライン帝国・先々代皇帝——、バスタード・アークライン。


彼こそが、この帝国を裏から守る秘密組織、赤の頭目だった。


齢八十を越えその見た目からは衰えの影など一片も見えず、声は凛と、眼光には鋼のような光が宿っている。

 

彼が椅子に腰を落ち着けるだけで、円卓全体がわずかに重力を増したような錯覚すら覚える。


「新人のお二人さん。そんな驚かんでいい」


その一言に硬直していたガルドとターニアの表情が僅かに解けた。

バーンとウリアルは新人の二人の肩を軽く叩き、円卓へ座るように促した。


全員が席に着くと、バスタードは両手を組み、ゆっくりと口を開いた。


「グレンダからの通信があってな。どういう経緯かは知らぬが……レオナールとシンジュの関係を知ったらしい。あやつらも近くククルカンへ向かうようだ」


言葉が落ちた瞬間、場の空気は一段階緊張を増した。


「へえ。それならついでに魔女殿に、軍派閥へのエーテル技術の漏洩を止めることも頼んでみたらいいんじゃないかな?」


軽い口調のキョウが言うと、バスタードはわずかに目尻を緩めた。


「ふふ。実はのう……グレンダはその事を危惧し、キョウ殿が提案したことと同じことを先に申し出てくれたわ」


バスタードの声に、長い歳月を共にした者にしか向けられない温かみが滲む。


「終戦後、アルディス復興の時に王族の身分を捨てても、この国を守ることを常に考えておる。よくできた“妹”じゃよ」


「蒸気の魔女殿が……先々代皇帝の妹……ですか!?」


ガルドが目を見開く。


「なんじゃ、知らなかったのかい。彼女が我々に協力してくれるのは、そういった理由からなんじゃよ」


ウリアルが肩を竦めて答える。


「しかし……魔女殿がそう言ってくれたのであれば、ククルカンの件は何とかなりそうですな」


ドルトンが言うと、バスタードは深く頷いた。


「うむ。シンジュの件も、エーテルと“心臓”の繋がりの件も、グレンダは任せろと言っておる」


その瞬間、バスタードの目がキラリと光る。

 

「それにな……なにより今はあやつの元にはスモーク・ウォーカーがおる……。あの若者なら、大丈夫じゃろう」


バスタードの口ぶりには、シアンへの絶対的な信頼すら感じられた。


「それなら私達はシンジュ博士とは別の、レオナールの別の友人の手がかりを探せばいいわけね!」


ターニアが前のめりになって言うが、一同は口々にうなるばかり。


その沈黙を破ったのは、やはりこのバスタードだった。


「バーンよ。お主とシンジュ以外に、レオナールと懇意にしておった者はおらんか? よーく記憶を呼び起こしてみてはくれんかの」


問われたバーンはしばらく目を閉じ、拳を握りしめ——そして静かに口を開いた。


「……一人だけ、思い当たる人物がいるのですが」


皆の視線が集中する。


「名は……ロディアノス」


バーンはその名を口にした瞬間、僅かに喉を鳴らした。

 

「ですが彼はエルディア大戦の時に“意思の鋲”によってオートマトンに意識を移し……その時に肉体を捨てました」


赤一同の表情が曇るなかで、バーンはさらに言葉を続けた。


「ですが彼は……終戦後は意思の鋲の技術と共に、南のセルジュ砂漠へ遺棄されました」


「セルジュ砂漠か……」


バスタードが深くつぶやく。

その表情には、老いた体に隠しきれぬ重い記憶が滲む。


「あの禁断の地ですね。大戦の頃、バルナスが残した傷跡が、今もなお残る場所」


ガルドが険しい顔で続けた。


「そういえば最近、砂漠付近の街の者達が噂しているそうだよ。『時折、砂漠内で大量のオートマトンが現れる』とね」


キョウの言葉に、一同の背筋が粟立つ。


「それともう一つ。『その集団に未知の光を見た』……とも。こうなると、その光……心臓と何らかの繋がりがあるかもしれないね」


キョウの目が鋭く光った。


「なんと! それなら直ちに、ワシとターニアが調査に向かおう!」


ウリアルが立ち上がり、椅子をきしませる。


「ふむ。ならば集まったばかりだが、早々に会合はここで切り上げよう」


バスタードが最後に告げる。


「バーンとガルドは、引き続きレオナールの交友関係を調べてくれ。ドルトンは軍の動きを追って監視を。キョウは心臓に関する独自の情報収集を頼む」


そして彼はゆっくりと全員を見渡した。


「皆の者。この国の為、なにより…帝国の民の平和のためにも……よろしく頼むぞ」


その一言で、空気が締められ、会合は静かに幕を下ろした。

 

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