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蒸気の心臓─機工幻想譚─  作者: らふぃお
第2章、夢と決意を乗せて
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78/113

78. 静かなる余韻、夜を進む灯

戦いが終わり、月明かりすら霞むほどの静寂が戻ったルーグレムのアジト。

崩れ落ちたコンクリート、ねじ曲がった鉄骨、そして黒煙の匂い。


その中を、シアンとアマテラスがゆっくりと歩いていく。


アマテラスは周囲を見渡しながら、目を丸くして感嘆の声を漏らした。


「す、すごい壊れようですね……まるで怪物同士が戦ったような……」


そう呟いた直後、ハッとして手を振る。


「あ、あわわ! 違いますよ! 決してシアンくんを怪物とは思ってなくて!」


シアンは苦笑する。


「ははっ、別に気にしてないさ」


異端の怪物ディルモット・ユークリウスを倒した──

その事実は否定のしようがない。


しかし、シアンの声には何の誇りも、得意げな響きもなかった。

ただただ、終わった戦いの余韻だけがあった。


二人はしばらく瓦礫の間を抜け、やがて一つの壊れた扉の前へ辿り着いた。


ディルモットが自ら破壊した部屋の扉。

歪み、木片と鉄くずが混ざり合った、無残な残骸。


「ここに鍵があるって言ってた。探そう」


シアンがそう言って踏み入る。


中は意外にも整えられていた。

小さな机、棚、そしてアイアンスパートを収納していたと思われるスペース。

攻撃的な印象とは裏腹に、生活感さえ漂うほどの整理された空間だった。


シアンとアマテラスは無言で手分けして探し始める。

部屋に残された痕跡は、ディルモットという人間の“内側”をわずかに物語っていた。


シアンは棚の上に置かれた写真立てを手に取った。


そこに写っているのは──

 

まだ若かったディルモット、隣で肩を組むラッドベイルのボス、楽しそうに笑う仲間たち。


その笑顔は、あの暴力と虚勢に満ちた姿とは似ても似つかない。


(……あいつは、ずっと仲間を探してたのかもしれない……)


誰かに認められたくて。誰かと並びたくて。

強さを求めたのも、虚勢を張ったのも、すべてはひとりぼっちを恐れたから。


写真を見つめるシアンの手が止まっていると、背後から声がした。


「シアンくん! 鍵がありましたよ!」


アマテラスが小さな金属の鍵を掲げて走り寄ってくる。

間違いなくそれはタカカゲの飛行船の鍵だった。


「これで……これでタカの飛行船が動かせます!」


明るく笑うアマテラス。

シアンも小さく頷き返す。


「よかった……じゃあ、飛行場に行こう」


二人はアジトを後にし、夜の貧民街を歩き出した。


歩きながら、アマテラスがシアンに問いかけた。


「それにしてもシアンくん。外に倒れていたあのアイアンスパート……あれを装着したディルモットを倒せたんですね。どうやって倒したんですか?」


「ああ、あれは——」


シアンは口を開きかけた瞬間、あの時のことを思い出した。


【お前は、もう答えを持っている】


はっきりと耳で聞いたような助言の声。

鼓膜を震わせたはずなのに、不思議と輪郭が曖昧だ。


「そういえばアマテラスさん。俺とディルモットが戦ってる時、何か言ったりしました?」


アマテラスは首を傾げた。


「いえ、僕やラッドベイルの方たちが着いた頃には、もう君たちの戦いは終わっていましたよ?」


「……そうですか」


シアンは目を伏せる。


では、あれは誰の声だったのか。

 

自分の幻聴か、それとも──あの場に、誰か“見えない存在”がいたのか。


その疑問は胸に沈んだまま、言葉にならなかった。


二人は夜の道を抜け、飛行場へ向かう。


――同じ頃。


夜の飛行場の格納庫では、タカカゲの壊れた飛行船を前にグレンダ、カイ、ルシアが懸命に修理を続けていた。


「カイ!そっちはどうなんだい!?」


ガンガンと金属音が響く中、グレンダの声が飛ぶ。


「うん!こっちは思ったより簡単そう!」


カイは額に汗を浮かべながら答える。


「お姉ちゃん、ちょっと大変かもだけどそこを押さえててね!」


ルシアは慣れない手つきながら必死に応える。

煤で汚れた鼻先が黒くなっているのに気づかず、真剣な目だけを輝かせていた。


グレンダはそんな二人を見て、ふっと笑う。


「……さて、そろそろアイツも戻ってくるだろうさ。言い出しっぺはアイツだ。戻ってきたらたっぷり働いてもらわないとねぇ」


ニヤリと笑ったその直後、胸を押さえて顔をしかめた。


ギリ、と奥歯を噛む音がする。

額に、いつもの労働の汗とは異なる冷たい汗が伝う。


(……全く、こんな時に……でもまだ倒れるわけにはいかないね……)


自分を叱るように眉をひそめ、グレンダは耐える。

そして再び工具を握った。


目的はただひとつ。

この飛行船、タカカゲの夢を直し、この船に乗せてもらいククルカン渓谷を目指す。


そのために、グレンダは痛む胸を押して修理を続けた。

夜は更け、格納庫の明かりが静かに揺れている。


――その光へ向かい、シアンとアマテラスは歩を進めていた。

 

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