40.エーテルの輝き、そして決着
シアンは光を放つ左手でゆっくりと拳を作り構えた。
「いったい貴方、何したっていうの……」
その言葉にシアンはニヤリと笑い口を開く。
「軍人さんなら、この光がなんなのか察しがつくだろ?」
「まさか、その光――!?」
スピアーの瞳が驚愕に染まる。
シアンの左手からあふれ出す光の粒子。
それは今まで見たことのない、白色の未知の輝き。
形容できないほど美しく、そしてどこか神聖な輝き。
後方で戦況を見守っていたラルゴはその光に目を丸くし、重低音の声でつぶやく。
「あの白い光……! もしや――エーテルか?」
その言葉を口にした瞬間、武人である彼の両腕の蒸気兵装が低く唸りをあげた。
——エーテル。
それはアークライン帝国の北方、ククルカンにて地下深くで偶然発見された「白電鉱石」から抽出された新エネルギー。
蒸気よりも、電気よりも、はるかに強大で純粋な力を秘めた“未知の燃料”。
だが、不安定極まりなく、まだ制御を完璧にできていない。
エーテルを専門とする研究者を除いては王侯貴族と、軍の一部の者にしか存在を公にされていない物質。
それが今、目の前で光を放っている。
「エーテルなんて……! どうしてそんな代物が貴方の手にあるって言うの!?」
スピアーの叫びが、空洞の反響で歪む。
シアンはわずかに笑い、左手を突き出した。
「へっ……。こっちにもいろいろ秘密の流通ルートがあってね」
左腕の表面に走る亀裂から、粒子がこぼれ出す。
白い光が霧のように広がり、空洞を満たしていく。
シアンは左手のMark.IIIに一瞬だけ視線を移す。
「あんたが振動刃を使ってくれたお陰で、相棒が喜んでるぜ」
本来ならエーテルの膨大なエネルギーを、シアンの左手で制御することはほぼ不可能だった。
だが、スピアーの振動刃によって内部機構の締め具が緩み、結果として力が外部へ“漏れる”ことで奇跡的な安定を保っていた。
まさに、偶然としか言いようのない奇跡。
暴走と紙一重の状態で、シアンはその力を自らの手に宿していたのだ。
「それでも関係ないわ! 今さらそんな力を使ったところでッ——!」
スピアーは叫び、振動刃を構えて突進する。
高熱と振動の刃が光の粒子を切り裂き、火花が舞う。
「なら、最終ラウンド開始だなあッ!」
繰り出された振動刃をシアンは叩いて起動を逸らす。
先程までの防御一辺倒が終わる。
シアンの左手が唸りを上げ、残像を残すような連撃を繰り出す。
その一撃ごとにスピアーの体勢がわずかに揺らいだ。
「くっ……! なんなのよ、この力は!」
スピアーの声に焦りが混じる。
一方のシアンは、ようやく笑みを取り戻していた。
「隠し球を出したんだ、今度はこっちの番だ!」
一進一退の攻防。
金属音と熱風が交錯し、床の岩盤が砕け散る。
スピアーの呼吸は乱れ、動きにも焦燥がにじむ。
その口から、ついに本音が漏れた。
「貴方たちなんかには分からないのよ……! なぜ私たちが“蒸気の心臓”を必要としているのか!」
「どうせ、アークライン帝国軍の力を見せつけるための戦争のきっかけにするために使うんだろ!」
シアンの声が響く。
「そんなもん、理解する気もねぇよ!」
「違う! そんな単純な理由じゃない!」
スピアーは怒号を放った。
「だからこそ……貴方たちは何も知らずに、この国で幸せに暮らしていればよかったの!」
シアンはその必死な顔を見て、相手にも何か理由があることをすぐに察した。
「すまねえ……。それでも、俺はこれからアンタらのやる事を止めなきゃなんねえんだ!」
シアンは低くつぶやき、左拳を握りしめた。
白色の光の粒子が渦を巻き、義手が高鳴る。
「俺が大切にしているものを……守るためにッ!!」
白い閃光とともに、拳が走る。
Mark.IIIの鋼の拳がスピアーのみぞおちにねじ込まれた。
「ぐはっ――!」
スピアーは思わず悶絶する。
衝撃が空気を裂き、身体がたたらを踏む。
だが、膝をつくことはしない。
「ぐぐ……ッ……。あと……一歩だったようね、スモーク……ウォーカー……!」
血を吐きながらも、スピアーは笑おうとする。
そのとき、ねじ込まれた左手から甲高い稼働音が鳴り響く。
シアンは宣言する。
「二発目の衝撃にご注意ください――ってな!!」
「な、なん…ですって……!?」
「セカンド・パイル!」
光の粒子が弾け、内部機構の伸びきっていたピストンが一気に収縮する。
ワンテンポ遅れた衝撃が、スピアーの身体に叩き込まれる。
「――ッ!!」
声を出すこともままならぬまま、衝撃がスピアーの身体を弾き飛ばし、後方のラルゴの足元へと転がった。
「スピアー!!」
ラルゴは急いで彼を抱え声をかけるが、意識は完全に刈り取られている。
静寂。
光の粒子がふわりと漂い、戦場を包む。
「……終わりだ」
シアンは突き出したままの左手から噴き出す光を見つめ、息をつく。
白光がその金色の瞳を照らし幻想的に輝かせた。




