39.覚醒の閃光
唸るような轟音が腹の底まで響く。
スピアーの投げた手榴弾の衝撃によって大空洞の岩盤を揺るがす。
地響きが連鎖し、大空洞全体が悲鳴を上げるように唸り始めた。
「やだっ!? こんな脆い場所だったの!?」
スピアーの目が一瞬だけ上を向く。
「……ちょっとやりすぎたみたいね」
鍾乳洞のように張り出した天井が、軋みながら亀裂を広げていく。
岩の断面から砂と粉塵がぱらぱらと降り、続いて拳大の岩塊が落下した。
この大空洞は地下の湿気と熱による風化で限界まで蝕まれていた。
スピアーの起こした今の爆発が、その均衡を完全に崩してしまった。
カイとルシアは慌てて身を伏せる。
天井から崩れた鋭い破片が落下し、地面に突き刺さる。
耳をつんざくような轟音が続く中、ルシアは息を整え冷静に視線を巡らせた。
(このままじゃ……崩落に巻き込まれる)
彼女は咄嗟に判断する。
来た道を戻れない、その途中には錆翼のラルゴが腕を組んで立っている。
見渡す限りでは他に上に帰れるような場所はない。
だが、このまま逃げ場を見つけねば全員瓦礫の下だ。
ルシアは一瞬、深く息を吸い込んだ。
そして、瞳に光を宿す。
(……そうだ。ここに降り立った時、感じたあの空気の流れ)
大空洞に下りた時最初に気づいたことを今一度思い出す。
長い階段を下りて到達したこの場所、動力プラントからここに繋がる扉も長年ピタリとふさがっていた。
それなのに空気は淀まず新鮮で、かすかに風も感じることがあった。
つまりは確実に外部へ通じる何かがあると彼女は推理した。
「……カイくん!」
轟音の中、ルシアが叫んだ。
「覚えてますか、私がここに来た時に言ったこと! たぶん外部と繋がる何かがあるはずです!」
カイはすぐにはっとし頷く。
「お姉ちゃんの言いたいこと分かっちゃった。兄貴が時間を稼いでくれてるうちに、それを探せってことだね!」
「ええ! 手分けして探しましょう! あなたは――」
ルシアが言いかけたその瞬間――。
「カイ!!」
戦場の中心から、シアンの声が響き渡った。
「俺の工具箱の中に“アレ”がある! 渡せ!!」
カイはシアンの必死な表情を見るなり、それが何を求めているのか瞬時に悟り、表情を凍らせた。
「ま、まさか……兄貴、アレはダメだよ! まだ試作段階だし、この前だって暴走しかけたじゃないか!」
大きく首を横に振り、シアンのしようとしていることに対しカイは反対をする。
だがシアンはそれでも叫びながら左手をねだるように差し出す。
「いいから寄越せ! 今使わなきゃ、いつ使うってんだ!!」
シアンの声は焦りを帯びていた。
左手からは明らかに異常な蒸気の噴出音、軋むような金属の悲鳴――Mark.IIIが限界を迎えつつある。
それでもシアンの身を案じカイが躊躇していると、ルシアが彼の肩に手を置いた。
「カイくん、出口は私が一人で探します! だからシアンさんを!」
その瞳には一片の迷いもなかった。
「ぐぐぐッ……! わ、わかった!」
カイは渋々頷き、すぐさまシアンの工具箱を掴む。
震える手で中をかき分け、蒸気で温まった金属部品を探り当てた。
「どこだ……! どこだッ!?」
その間にも、戦いは続いていた。
スピアーの刃が空気を切り裂き、振動が地面にまで伝わる。
シアンの左腕は軋み、蒸気の噴き出しが止まらない。
「ほらほら! どうしたのさっきまでの余裕は!」
勢いを落とし防戦一方のシアン、対してスピアーはここぞとばかりに攻め続ける。
Mark.IIIへのダメージを最小限に抑えようとし左手を庇うシアンに、スピアーの振動刃の攻撃が徐々に当たり始める。
肩、右腕、腿、を掠める攻撃、致命傷に至らないがそれでも切りつけ火傷を負わせるそれはシアンを苦悶の表情にさせる。
「チッ……くそったれが!」
「そう! アタシが見たかったのはその顔よ!」
スピアーはシアンの懐に潜り込み振動刃を大きく振るった。
その攻撃を上体反らしで回避し、そのままバク転して距離を取る。
「待ちなさい!」
「しつけえんだよッ!」
叫びながらシアンは左手の最後の蒸気圧を一気に解放しながら地面を叩いた。
爆発的な蒸気が床を叩き、白い雲を生む。
開放された蒸気圧の反動を利用して、シアンは空高く舞い上がる。
「チッ! 上に逃げるなんて!」
その瞬間、離れた場所からカイの声がシアンの耳に届く。
「兄貴! あったよ!!」
カイが全力で声を張り上げながら、片手で掴んだ何かを掲げる。
その手に握られた銀色の金属製カートリッジ。
掲げられたカートリッジを見てシアンはがむしゃらに叫ぶ。
「でかした! 寄越せ早く!」
「もう! どうなっても知らないからね!」
カイはそう言うと全身の力を込めて、シアン目掛けて投げた。
金属部品はまっすぐシアンに飛んでいくと、シアンは空中でそれを掴み取る。
「ナイスだぜカイ!! そして……頼むぜ、Mark.III!!」
叫びながら、左腕の空になった蒸気のカートリッジ、ヴェイパーコアを掌からひねって外す。
——そして。
カイの放ったそのカートリッジを装着した。
カチリ、と乾いた装着音が小さく鳴る。
次の瞬間、爆発にも似た閃光が左手から放たれ大空洞を照らした。
白く輝く光粒が、左手からみるみる溢れ出し、蒸気を押しのけて広がっていく。
まるで霧の中に星を散りばめたような幻想的な光。
スピアーが思わず目を細める。
「な、何よ! その光……!?」
震える声。
その光は、蒸気でも火花でもない。
“何か異質なもの”——まるで生きたエネルギーのように空気を満たしていた。
シアンの表情が光に照らされる。
その瞳には、決意と闘志、微笑みが再び宿っていた。
「いくぜ! 《エーテルコア》!!」
その宣言と同時に、爆ぜるように左手が輝き出す。
白光がシアンの全身を照らし、蒸気の中に巨大な影を映し出す。
それはまるで人の域を超えた光の奔流だった。
「行くぜ! こっから反撃開始だッ!」
崩れゆく空洞の中で、神秘の光が脈動する。




