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蒸気の心臓─機工幻想譚─  作者: らふぃお
第1章、運命の鼓動
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38/113

38.赤熱の刃と軋む左腕

赤熱を帯びた閃光が弧を描く。

大空洞は先程までの白煙に代わって熱気が辺りを包む。


振動音が骨の奥まで響き渡るその中心で、シアンとスピアーが攻防一体を繰り広げる。


スピアーの手にあるのは——振動刃。

刃が震えるたび、空気が焼けるような金属音を放つ。

超振動を起こし、赤熱した刃が空間に残光を描き視界に焼き付く。


「ほらほら! さっきまでの威勢はどうしたのかしらッ!」


振動刃を振り回しながらスピアーが間合いを詰める。


「クソッ! まさか振動刃とはな……! 相性最悪だぜ!」

 

受け止めた瞬間に義手が軋み、これは受け続けたらまずいと悟って以降は回避主体になる。

 

シアンの左手のMark.IIIはグレンダとカイの合作、高出力が出せる強固な蒸気兵装。

だが今は、スピアーの振動刃の攻撃を受けるたびに軋み、接合部から白い蒸気が漏れ出していく。


「くそッ! もう影響がッ!」


「そうでしょう? 自慢の左手が仇となったわね!」

 

スピアーは妖しく笑い、黒い手袋に包まれた指先で振動刃を軽く弾いた。


「喰らいなさいッ!」


シアンは後退しながら必死にその攻撃を避け続ける。


「これならどうかしらッ!」


スピアーの鋭い突きがシアンの喉元目掛けて放たれる。

シアンは体を少し横へ曲げ、その攻撃を上手く躱す。

突きはシアンの後方の壁へと突き刺さる。


「ははっ!これで振動刃は使えねえな!」


シアンがそう言って笑うが、スピアーからは焦りは感じられない。


「何言ってるのかしら? 振動刃の真髄はこれよ」


次の瞬間、振動刃が揺れる。

超振動を引き起こし、刺さった刃の周りを粉々に崩壊させる。


「げっ! そんなのありかよ!」


「ありよ!」


再びスピアーは振動刃でシアンを切りつける。

振動が一層強まり、攻撃を受け止めたシアンの左手から漏れ出た蒸気の白煙を裂くように斬撃が走る。

 

細身の身体はまるで踊るように滑らかに動き、そのたびに緑色の髪が怪しく揺れた。


岩陰で息を潜めていたカイが、スピアーの使う振動刃を見て思わず声を漏らす。


「ど、どうしよう……! 振動刃なんて、兄貴の左手には最悪の組み合わせだよ……」


隣のルシアがその言葉に疑問を抱きカイに問いかける。


「どうしてですか? シアンさんの左手なら、あの高熱の刃にも耐えられるのでは?」


カイはぎゅっと唇を噛んで、首を横に振った。

 

「熱は大丈夫……。でも、振動が問題なんだ」


そう呟いてシアンの左手に目を向けた。


「あの振動、あれが兄貴のMark.III……蒸気兵装の内部機構を狂わせるんだ。長引けば長引くほど、振動のせいでボルトもピストンもズレていって、制御が効かなくなるんだよ!」


言葉を吐くたび、声が震えていた。


「兄貴は……締め付けが固いと動かしにくいって、あえてボルトを緩めてるんだ」


その瞬間、ルシアはここに来る途中のシアンとカイのやり取りを思い出した。


『整備しないとホントに危ないんだからね!』


『お前の言う整備はボルトの締め付けだろ、あんまり固く締めすぎると動かしづらいんだよ』

 

『まったく! そのくらい我慢してよ!』


ここに来る途中の階段のあのやり取り。

カイも同じようにそれを思い出し、悔しそうな顔をする。


「だからちゃんと締めろって、あれほど言ったのに!」


その瞬間、シアンの義手の関節からプシィッと音を立てて蒸気が漏れた。

今までとは違う明らかな異音とともに白煙が立ち上り、まるで左手が悲鳴を上げているように見える。


「チッ……! 厄介なもん使いやがって……!」

 

シアンは苦々しげに吐き捨て、歯を食いしばった。


「残念だったわね! スモーク・ウォーカー!」

 

スピアーのその声は、まるで勝利の甘美に酔っているようだった。

 

振動刃が高熱を帯び、まるで溶岩のような赤色を放つ。

刃が軌跡を描くたび、熱気と蒸気が絡み合い、二人の間はまるで地獄の釜のように歪んだ。


それでもシアンは怯まない。

蒸気を噴き上げながら拳を構え、前へと踏み込んだ。


「残念? スモーク・ウォーカーを見くびんなよッ!」


拳をぐっと引いて殴る体勢に入る。

スピアーが素早くそれに反応し、細い腕が一瞬止まるその刹那。


「俺の左手ばっかり見てたなッ! 他がお留守だぜッ!」


ドガァッ!!

 

唸るような声と共に、シアンの渾身の前蹴りがスピアーの腹部を捉える。


「さっきの回し蹴りのお返しだッ!」

 

蹴りによって外套の下に装着されたアーマーが鈍い音を立てて凹む。


「くそ! 中にアーマー着込んでやがったな!」


それでもその蹴りの威力は絶大で、スピアーは思わず苦悶の声を漏らした。


「ッ――! やるじゃない!」

 

しかし、すぐに体勢を立て直したスピアーは、懐から銀色の球体――手榴弾を取り出す。


「なら、これはどうかしら!!」


金属音を響かせ、床に転がる手榴弾。

 

「ッ――!」

 

シアンは瞬時に足を踏み込み、爆発の瞬間、地面を蹴って後方へ飛び退った。

爆風が吹き荒れ、衝撃波が岩壁を削る。


煙が晴れぬうちに、鋭い光が突き抜けた。

爆煙を裂いて現れたスピアーの斬撃が、シアンの右腕を切り裂く。


「ぐっ……熱ッ!」


金属と焼けた皮膚の匂いが混じり合い、その痛みに顔が歪む。

その表情を見たスピアーは目を丸くし唇が艶やかに歪む。


「ようやく……! その顔を拝むことができたわ……!」

 

苦痛に歪むシアンの表情を見て、スピアーはぞくりと身を震わせた。

彼の頬に、狂気と恍惚の入り混じった笑みが浮かぶ。


左手の接合部からは蒸気が噴き出し、圧力がどんどん下がっていく。

 

「クソ……! 出力が……!」

 

左手を握るたび、関節が軋み、ピストンが空回りした。

スピアーはその様子を見て、勝利を確信するかのように微笑む。

 

「さあ……終わりにしましょう、スモーク・ウォーカー」


赤熱する刃が、空気を切り裂きながら唸りを上げる。

まるで戦いの終わりを告げる鐘のように、その刃の振動音が大空洞全体に鳴り響いた。

 

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