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蒸気の心臓─機工幻想譚─  作者: らふぃお
第1章、運命の鼓動
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36.鉄と刃の呼吸

大空洞に、金属のぶつかり合う甲高い音が響き渡った。

白い蒸気が地を這い視界の前で揺らめく中、互いの呼吸が混じり合うほどの距離でシアンとスピアーは拳と刃を交わしていた。


「死になさいッ!」


シアンの死角から繰り出されるナイフの攻撃が頬をかすめる。

その攻撃は続くように今度は喉元を狙い鋭い光を放つ。

しかし、寸前でシアンは左手でそれを防ぐ。

 

「あんた、なかなかやるじゃねぇか!」

 

左手でナイフを受け止めながら、シアンの口角が僅かに上がる。

 

「貴方もね! こんな出会い方じゃなかったら錆翼に誘ってたくらいの実力ね!」

 

対するスピアーもナイフでシアンを狙いながらニヤリと笑う。

互いに動きは舞のように優雅で、それでいて放つ攻撃はどれも致命的な殺意を秘めている。


シアンの左手が蒸気を噴き上げ、駆動音が低く唸る。

拳を繰り出す度に重い音が響き、空気が震えた。

 

だがスピアーの身のこなしは軽く、どの攻撃もあと一歩届かない。


「ちょっとぉ、ラルゴ! アンタ見てないで加勢しなさいよ!」

 

一瞬背後を振り向きスピアーが叫ぶ。

ラルゴは大空洞内にある大岩の前で腕を組み、低い声でスピアーに答える。

 

「……そいつは俺達二人を目の前にしても逃げることなく仲間を守ろうとする男だ」


鋭い目でラルゴはシアンを見つめる。

 

「そんな相手に二人がかりでかかるのは武人としてのルールに反する」

 

「まったく! 破壊衝動があるくせに、こういう時だけ武人ぶって!」

 

スピアーは舌打ちしたが、ラルゴは構わず言葉を続けた。

 

「……それに、お前が負けるなんてこと、俺は考えてない」


そうしてまた口を閉じ、黙ってスピアーを見る。

スピアーはその言葉に思わず目を丸くした。


「嬉しいこと言ってくれるじゃない……」


そしてニヤリと笑い小さく呟く。


「惚れ直すわ」


呟き終わったその瞬間、スピアーは体を回転させシアンの腹部へと回し蹴りを放つ。

突然の攻撃はシアンの胸に見事に命中した。


「──ぐあっ!」

 

もろに攻撃を受けたシアンは、金属の軋みとともに数歩下がり僅かに息を吐いた。


「ごめんなさいね。つれ合いにあんなこと言われたら、思わず気合いが入っちゃったわ」


スピアーはシアンを見つめながらチロリと舌を出す。

シアンは胸元についた靴の跡を手で払いながら少しだけ顔を険しくした。


「くそ……。やっぱり、特殊部隊ってのは一筋縄じゃいかなそうだな……」


胸元を押さえながらも、シアンの目は闘志を失っていない。


「なら、こっからは少しやり方変えるぜ!」

 

シアンは左手を突き出して構えをとる。

Mark.III内部機構の圧力が上がり、甲高い音を立てて動き始めた。


「これならどうだッ!」


——バシュゥゥンッッ!!

 

Mark.IIIの蒸気弁が開き蒸気が吹き出し、ワイヤーアンカーが高速で射出される。


鋼線が空気を裂き、スピアーへと向かう。

 

「飛び道具もあるなんて、似た者同士ね!」


スピアーは軽やかに後方宙返りで飛んできたそれを回避した。


「残念ね。アタシじゃなかったら当たってたかもね」


「……いや。アンタでも当たるぜ」


シアンの狙いは外れていない。

放たれたアンカーは背後の鉄壁に突き刺さる。

 

だが次の瞬間、シアンはワイヤーを一気に巻き戻すと同時に地面を思いっきり蹴り飛び出す。

ワイヤーの巻き戻しの勢いがそこに加わり、爆発的な加速で一気にスピアーとの間合いを詰める。

 

「なっ──!」

 

スピアーの目の前に現れたシアン。


「歯ぁ食いしばれよなッッ!!」

 

右手で作った拳が、彼の左頬を正確に捉える。


鈍い衝撃音。

スピアーの体が宙に浮き、地面に叩きつけられた。


「どんなもんだ!」


「痛ぁーい! そんなトリッキーなことするなんて驚いたわ!」

 

汚れを払いながらスピアーすぐに立ち上がる。

頬から血が一筋、赤い線を描いた。


二人の戦いを岩陰に隠れたカイとルシアが息を潜めて見守っている。

ルシアは拳を胸に当て、祈るように呟いた。

 

「お願い……。シアンさん」

 

隣でカイは、シアンの背中を泣きそうな顔をしながらただ見つめていた。

 

「兄貴……。負けないで……!」


シアンは彼らに背を向けたまま、スピアーの殺意を正面から受け止める。

Mark.IIIの内部でピストンが震え、再び蒸気が噴き上がる。

 

一方のスピアーも、腰のベルトから新たな刃を抜き取る。

それは薄い銀色の刃。

見えない速さで、殺すためだけに作られた道具だ。


「貴方みたいな男……嫌いじゃないけど、命までは保証しないわよ」

 

「そいつはこっちのセリフだ。守るもんがある男は、簡単に死ねねえからな」


二人の距離が一気に縮まる。

ナイフと蒸気兵装がぶつかり火花を散らし、衝撃が大空洞を震わせた。


それは戦いを見守る三人の体をビリビリと震わせた。

 

カイは耐えきれずに思わず目を塞ぎ込む。

ルシアと、そして敵側のラルゴはただ二人の戦いをジッと見つめていた。


スピアーの影が、シアンの領域に入り込む。

 

「残念だけど、ここまでよ!」


そう口を開いた瞬間に、懐から何かを取り出しすぐさま放り投げた。

それは一目で爆弾のようなものとシアンはすぐに気づく。


「やべッ!」


咄嗟に胸の前で腕をクロスさせ防御の体勢に入る。

だが、それは爆ぜることなく白煙を噴き出し視界を覆う。


「なっ! 煙幕か!」


動揺するシアン、スピアーはその一瞬を見逃さなかった。


「隙ありよッ!」

 

刃が閃きながらシアンの顔に放たれる。


視界を覆う白煙の中、誰の姿も見えない。

ただ金属の悲鳴のような音だけが大空洞に残響する。

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