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蒸気の心臓─機工幻想譚─  作者: らふぃお
第1章、運命の鼓動
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33/113

33.未知の光

螺旋階段を下りきった先は、まるで別世界だった。

 

足元の岩肌には湿気を帯びた水滴が光り、壁面を流れる蒸気がぼんやりと漂っている。

通路の先にうっすらと光が見え、三人は無言のまま進んでいった。


「……ここ、本当にアルディスの地下なのか?」

 

シアンが低くつぶやく。

声が壁に反響して、何層も重なるように返ってきた。


「なんか、地下っていうより……世界の裏側って感じだね」


カイが軽く笑うが、その笑顔にはわずかに緊張の影があった。


やがて、狭い通路が終わりを迎えた。

視界の先がぱっと開け、そこには巨大な大空洞が広がっていた。

 

天井はかなり高く、そこから滴り落ちる水が無数の光粒を散らしている。

空間内部はちかにあるためか少し空気が冷たく、ルシアが僅かに身を縮ませる。


「アルディスの地下に……こんな場所があったなんてな」

 

シアンはひだりての蒸気をわずかに吹かせながら、慎重に歩を進める。

カイは呑気に周りを見渡しながら口を開く。


「グレンダさんもびっくりするだろうね。“アタシも知らないこんな場所があるなんて!” って言いそう」


カイの言葉にルシアは小さく微笑みつつ、同様にこの大空洞を観察し始める。

 

この空間自体は自然にできたものだろう

だが、足場が妙に整えられてること、それと天井や壁に光源が埋め込まれ視界が確保しやすいことに気づく。


「……おそらく、鍾乳洞を掘削して人工的に拡張したのでしょう」


そう話すと、シアンはそれを確認するように視線を動かした。

彼女はさらに観察を続け言葉を続ける。

 

「あと、地下なのに空気の流れが一定です。たぶんどこかに空気の通り道があるはずですね」


ルシアの観察通り、空洞の奥にはかすかな風が流れている。

それをたどるように三人は進み、慎重に岩の間を抜けていく。

 

足音が響き、吐息が白く揺れるたびに、時間の感覚が曖昧になっていった。


どれほど歩いただろうか。

視線の先に奇妙な金属の反射が見えた。


「……あそこ、何か光っています!」

 

ルシアが声を上げ、駆け出した。


立ち止まるとそこには、小さな扉があった。

壁に埋め込まれた扉は、古びてはいるが明らかにこの空間には異質な雰囲気がある。


「シアンさんこれです! 見てください!」


ルシアは扉を指さしながらシアンへ声をかけた。


「へっ……。ついに蒸気の心臓にご対面か」

 

シアンはそう言って笑うと、カイと共にルシアの立つ場所へと歩を進める。

そして三人はその扉の前に立つと、最初にカイが口を開く。

 

「うわぁ、思ったよりちっちゃいなー。こんなとこに隠してたんだね」

 

カイが身をかがめて覗き込む。

シアンは左手を確認しながら一歩扉に近づいた。

 

「俺が開ける。罠でも仕掛けてあったら面倒だしな」


そう言って取っ手を掴み、Mark.IIIの出力を上げる。

左手から白い蒸気がシューッと漏れ出す。


「ん? 結構固いな」

 

空洞の中でその音が不気味に響いた。

金属の接合部がうなり、鈍い音を立てて扉がわずかに動く。


「もう少しです!」

 

ルシアが身を寄せる。


「くっ……開けッ」


最後のひと押しとともに、扉が音を立てて開いた。


──その瞬間。


シアンの視界が、光で満たされた。


青とも白ともつかない、見たこともない未知の光。

まるで世界の根源が震えているような、静謐で、それでいて圧倒的な輝きだった。


音が消え、自分の鼓動だけが聞こえる。

自分の左手の中の機構が微かに震えているのが分かった。


(……なんだ、この光……)


その美しい光景に、シアンはしばらく立ち尽くした。


「兄貴! 兄貴ってば!」


カイの声が遠くから聞こえ、シアンはハッと我に返る。


「蒸気の心臓、ないよ! どうするの!?」

 

カイはシアンの袖を引っ張りながらそう言う。


「え? ……あれ? 今のは……?」


彼が見ていた光は、跡形もなく消えていた。

 

「って! 蒸気の心臓がないだと!?」

 

しかも、それだけではなく探し求めてきた蒸気の心臓もそこにはなかった。


「これは……?」


ルシアが扉の中に手を伸ばす。

慎重に手にしたのは、一通の封筒と小さな欠片。

欠片は爪の先ほどで、淡い光をかすかに残している。


「中にあったのはこれだけです……」


シアンは呆然としながらそれを受け取った。

そして、今見たものについて二人に尋ねる。

 

「と言うか、お前ら今の光……見なかったか?」


「光? なんのこと?」

 

カイが首を傾げる。

ルシアも同じ反応だった。


(……幻、だったのか? でもなんで俺だけが……)


シアンは胸の鼓動を押さえながら、手渡された封筒を開く。

中には古びた手紙が一枚だけ。取り出すと紙の端は黄ばみ、インクは掠れている。


「なんて書いてあるんだ?」


シアンは目を細めて書かれているメッセージを読み始めた。


【誰かは知らないが、これを読んでいるということは、

そなたの目的は蒸気の心臓なのだろう。だが、残念ながらここにはもう蒸気の心臓はない。私が隠した。】


シアンの表情が硬直した。

メッセージにはさらに続きがある。


【もし本当にそれを必要としているなら、私の友人たちがその在処を示すピースを持っている。謎を解き、真の心臓を手に入れよ】


【レオナール・グレイン。──PS.欠片だけは残しておこう。】


シアンが息を呑む。


「レオナール・グレイン……」


シアンの喉が、わずかに鳴った。


「蒸気の心臓の開発者……!」


大空洞の奥で、僅かに風が唸りをあげる。

その音は、まるで彼らを嘲笑うように聞こえた。

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