表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
蒸気の心臓─機工幻想譚─  作者: らふぃお
第1章、運命の鼓動
PR
29/117

29.封印のハッチ

倉庫の中は薄暗く、鉄と油の匂いが混じり合っていた。

そこそこの広さがあるが、壁際まで機械部品と資材の棚が並び、通路は狭い。

三人はそれぞれ手分けして、何か怪しい場所がないか慎重に調べていく。


「うーん、ここら辺には何も無いな。地下深くに封印したって話だから、もし何かあるとしたら……壁か床だと思うんだけど」


シアンは壁と床を重点的に探りながら倉庫内の違和感がありそうな場所をくまなく探す。


「カイ、そっちはどうだ?」


シアンが声をかけると、反対側からカイの元気な声が返ってきた。

 

「こっちも特に怪しいところは無いよ。でも、なんか珍しい機械がいっぱいある!  ほらこれ見て! 歯車が三重構造になってて――」


カイは倉庫の棚に置かれた物を手に取ってシアンに見せる。


「お前なあ……。そんなもん眺めてる場合かよ」

 

シアンは呆れ顔でため息をつく。

だがカイの瞳はまるで宝探しでもしているかのように輝いていた。


その時、少し離れた場所からルシアの声が響いた。


「すみません! こっちに……何か怪しいところがあります!」


二人が駆け寄ると、ルシアは床を指差していた。

そこには細い亀裂が走っており、微かに風が漏れ出している。

ただ、その上には重そうな棚が置かれ、ぎっしりと古びた機械が積まれていた。


「どうやら、ここっぽいな……」


シアンはしゃがみ込み、床を軽く叩く。

鈍くも、どこか響き渡るような金属音返ってくる。

 

どうやらこの下は何か、確実に開いた空間がある。

しかし、重そうな棚のせいで簡単に開けそうにない。


「カイ。ギアランナーでこの棚、動かせないか?」


シアンはカイのギアランナーを指さしそう尋ねる。


「うん、やってみる!」

 

カイは装着解除して背中に畳んでいたギアランナーを展開し、腕部モードへと切り替える。

金属音を立てながらアームが腕を覆うと、棚の側面にしっかりと指をかけた。

 

「よいしょ……!」

 

ギアランナーがうなり声を上げ、棚が重い音を立てて動き出す。

だが、少し動いてすぐに止まった。

 

「だめだ、ちょっとパワーが足りないや! 兄貴、ルシアお姉ちゃん、一緒に押してみて!」


三人は声を合わせ、息を合わせて押し引きする。

金属が擦れる音を響かせながら、棚はついに横へとずれた。

 

現れたのは、鈍く光る円形のハッチだった。

中央には古い警告マークが刻まれている。


「ビンゴ! これを開いた先にきっと何かあるはずだ!」

 

シアンが笑みを浮かべた、その瞬間だった。


――ガチャリ。


自分たちが入ってきた倉庫の入口が、音を立てて開いた。

入ってきたのは、巡回中の監視オートマトンだった。


「やばい! 隠れるぞ!」

 

シアンは咄嗟にルシアとカイの腕を引き、近くの棚の影へ身を潜める。

 

オートマトンの目が青く光り、金属音を響かせながら倉庫の中を巡回し始める。

無機質な足音が響くたび、カイとルシアの心臓が跳ねた。


「シアンさん……。大丈夫なのでしょうか」

 

ルシアが不安が混じった小声で問う、その横でカイは自身の口を必死に抑えて息を殺している。

しかし、シアンはオートマトンを見て何故かホッと胸を撫で下ろした。


「オートマトンてま助かった。人間だったら、棚を動かした痕跡に気づかれちまう」

 

シアンは静かに息を吐き、胸元から小さな銀色の筒を取り出した。

 

「しかも、アレが相手なら――こいつが使える」


ルシアはその取り出した銀色の筒を見て目を瞬かせる。


「それは……?」


尋ねられたシアンは手に持ったその筒を見せながら小さく笑った。


「これは“スチーム・ブランク”。中に圧縮された液体窒素が入ってる。対機械用の冷却カプセルで、投げて使うんだ」


スチーム・ブランクがキラリと光る。

 

「オートマトンとかの蒸気回路を一時的に凍結させる。効果時間は時間は短いけど、効果はなかなかだぜ」


そう説明すると、シアンは指先で筒のボタンを軽く押し、静かにオートマトンの足元へ投げた。

銀色の筒が床を転がり、金属に当たって“カチッ”と音を立てる。


オートマトンは自身の足元に素早く目を向けた。

しかしその直後、スチーム・ブランクから白煙が立ち上った。

 

空気が凍りつくような冷気が広がり、オートマトンの脚部が白く曇っていく。

 

ギ……ギシィ……


凍結した回路の鈍い音がオートマトンから発せられた。

関節が固まり、オートマトンの動きがぴたりと止まる。


やがて、青い光がふっと消え、機体は沈黙した。


「今だ! ハッチに飛び込むぞ!」

 

シアンはルシアの手を取る。


「カイ、急げ!」


三人は駆けだし、ハッチまで急ぐ。

取っ手に手をかけ、勢いよくハッチを開いた。


「さあ! 中に入るぞ!」


「うん! わかった!」


「はい!」


カイとルシアが中へ入ったのを確認した後、シアンが最後に滑り込むように中へ入った。

重い鉄蓋を閉めた瞬間、オートマトンの電源が一瞬だけ明滅し、再び活動が始まる。


何事もなかったように機体は監視を再開すると、そのままぐるりと倉庫内を確認した後にその場から離れていった。


シアンは膝に手をつき、息を整える。

 

「……ふう。セーフだな」


「兄貴、あんなすごいもん持ってたんだ! ねえ、ちょっとそのスチーム・ブランクってやつ見せてよ!」


興奮気味のカイが目を輝かせる。


「ガキの玩具じゃねえぞ。それに時間もねえ、先を急ぐぞ」

 

シアンはそう告げて潜入したハッチ内にあるどこかへ続くであろう道を歩き出した。


「ちぇっ……。ねえ! ルシアお姉ちゃん、近くで見てたでしょ!? どんなのだった?」


カイは傍らに立っていたルシアに尋ねる。


「ええっと……私もよく分からないの。ごめんなさい」

 

ルシアは少し困ったように笑い、手を胸の前で合わせた。

カイはむくれた顔で呟く。

 

「ちぇっ……。後で絶対に見せてもらうもん」


そんなやり取りを背に、シアンは前方を見据えた。

そこには、下へと続く長い螺旋階段があった。

階段下から吹き上がる風は冷たく、どこか生き物の吐息のようだった。


「……行こう。蒸気の心臓は、きっとこの下だ」


三人は灯りを掲げ、深く暗い地下へと足を踏み入れた。

彼らの影が壁を揺らし、蒸気の霧の中へと消えていった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ