103. 旧採掘場への道標
シアンたちから渡された地図をテーブルに広げると、祇園は紫の袖を邪魔そうに払って指先を地図に滑らせた。
「ほれ、まずここが今いるククルカンの採掘街。で、南に飛行場。んで北の方に──お前らが門前払い食らった採掘場と、そこに隣接してるエーテル研究施設だな」
指先でトントンと場所を示しながら祇園は話を進めていく。
地図に触れる仕草は無駄がなく、彼が世界中を旅し、この土地の事も熟知していることがよく分かる。
「そんでこっち、東側。ここが鉱員と研究者たちの居住区域になってるわけよ」
さらに指が北東へと滑り──そこで止まる。
「んでもってここ。地図には詳しく描かれてねぇが、塞がれた旧採掘場がある。……俺がなに言いてぇかは、分かるよな?」
祇園がニヤリと笑い、三人へ目線を送る。
「もしかして! その旧採掘場からエーテル研究施設に繋がってるってこと!?」
カイが身を乗り出すように言うと、祇園は正解言わんとばかりに指を鳴らす。
「ただし──こっちに行くには、まず居住区域を通らないといけねぇ。ここが問題なんだわ。エーテル研究の情報が漏れないよう、採掘場とは違う意味で監視が厳しい」
「でも、軍がいるとしたら入口の方じゃないの? 居住区域にはそんなに……」
「そうそう。軍の目的はあくまで研究施設だ。居住区に来るにしても、せいぜい見回りがちょろっとだろうよ」
説明しながら、祇園はちらりとシアンを見る。
しかしシアンは難しい顔をして唸った。
「……ダメだ祇園さん。俺一人なら強行突破でも何とか──」
「バーカ。誰が軍と戦えって言ったよ」
祇園はシアンの言葉をバッサリ切り捨て、次にルシアへ視線を向けた。
「ルシアちゃん。さっきシアンが言ってたろ、アルディスの図書館の姉ちゃんから手紙もらったって。その手紙、ちょいと見せてくんねぇ?」
「あ……はい。ええと……ありました。これです」
ルシアがバッグから取り出した手紙を手渡すと、祇園はそれを一瞥して口角を上げる。
「ははぁん。やっぱりな。お前ら、この姉ちゃんに感謝しろよ。これただの紹介状じゃねぇぞ」
祇園は手紙を指でつまみ、ひらひらと揺らした。
「これは、本来ならこの街の“どんな検問でも通れる”正式な通達書だ。研究員の家族が緊急に使うような、特別なもんだな」
「マジかよ!」
シアンが目を丸くする。
「マジもマジだ。これがあれば居住区には簡単に入れる。看守だって黙って通すだろうぜ」
「それなら! 今すぐ!」
カイが椅子を鳴らして立ち上がりかけるが──祇園は手をひらりと上げて止める。
「焦んなカイ坊。お前ら、さっき採掘場の入口で看守に追い返されてたんだろ? しかもそれを軍のヤツに見られてんだ。そいつらが“今度はすぐに居住区域に来た”って知ったら、怪しむに決まってんだろ」
祇園の落ち着いた声に、カイは口をつぐむ。
「時間がねぇのは分かる。だがな……なりふり構わず走り回ったら、つまずいて死ぬんだよ」
祇園はカイの頭を軽く小突くと、溜息まじりに続けた。
「……それにな。カイ坊は元気だが──シアン、それにルシアちゃん。お前らひっでえ顔だぞ。まともに寝てねぇなってすぐ分かる」
図星すぎて、二人は目をそらす。
「俺は大丈夫だよ……そんなことより早く研究施設に──」
「私も……今頃パールさんのお父様や研究員の方たちが……」
二人は反論しようとするが、祇園はその言葉すら遮った。
「逸る気持ちは分かる。分かるがな。そんなボロボロの状態で戦いになんか出くわしたら“はい全滅”だ」
祇園は首のあたりで手を横に切る動作をして見せた。
「まず休め。頭と体が回ってない奴は、何をやっても失敗する。ここから少し行ったところに、友人がやってる宿がある。俺の名前を出せば予約なしで泊めてくれるはずだ」
そう言いながら立ち上がる祇園に、女性たちが声をかける。
「ダーリン〜! まだなの〜? 早く戻ってきてよぉ〜!」
「おっと……やべぇ。そろそろ本気で怒られる頃だ」
祇園は肩をすくめ、袖をひらりと揺らして言う。
「ってことで、俺からの情報はここまでよ。こんな事しかしてやれねぇが……まぁ役には立つだろ」
「祇園さん、ありがとう!」
祇園は背中を向けたまま、ひらりと手を振った。
「……シアン。頑張れよ。お前ならやれるさ。次会う時を楽しみにしてるぜ」
それだけ言うと、祇園は彼を待つ彼女たちの元に戻り、レストランの二階へと上がり姿を消した。
ようやく開けた突破口を、三人は深くかみしめていた。




