幕間(書類整理)
(三人称視点です)
「うっわ、なんだこの書類の束」
A地区長室の本棚の前で、腕を組んで木戸が呆れたように呟いた。
夏椎のための武器を選びに来ただけなのに、なんで本棚が気になってるんだろう。柚木はきょとんとしながら木戸の隣に並ぶ。
「整理出来ないとは思ってたけど、ここまでひどいとは⋯⋯」
「愛敬は感覚で生きてる人だからな」
「うっ、隣に立つ先輩可愛い」
柚木は無視して本棚に手を伸ばす。
紙束がごそりと詰め込まれたファイル。
時系列も関係なく詰められた資料。
雑然と並べられた本棚は紙で溢れかえっている。さすがに俺もここまでひどくないけど、まぁ愛敬らしくていいんじゃないかと柚木は頬を緩めた。
「仕方ねぇ、整理してやるかぁ」
「木戸はそういう所はキッチリしてるよな」
「調べたい時に調べたいことがすぐ出ないのは嫌なんです。あぁもう、調査書もぐっちゃぐちゃ」
文句を言いながら整理に取り掛かる木戸を見上げていると、A地区長室のドアが開いた。
柚木が目を運ぶと、学ランを着た夏椎が立っている。学校帰りで直接ここへ来たようだった。
「おかえり」
「ただいまです。晃と翔真は当番とバイトなので遅くなるそうです」
「一人で帰ってきたのか?」
「いえ、石田先生と帰ってきましたよ。石田先生は仕事してくると言って香流さんの家に向かいました」
「自分の家帰れよ」
ここ最近石田はずっと柚木の家に帰ってくる。何が居心地がいいのか、川崎の家よりも入り浸るようになったので「来たら石田くんがいる!」と中川が喜んでいた。
「賑やかなのが楽しいんじゃないですか。夏椎達が先輩の家に来るから石田さんも来るんでしょ」
「俺ずっとベッドで寝れてないんだけど」
「じゃあ寝る時は俺ん家くる?添い寝したげるよ?」
「⋯⋯⋯」
すごく冷たい目を向けられて木戸は嬉しそうにニコニコしている。相変わらずの塩対応可愛い。
「もうフロアの壁外したいな⋯⋯」
「いつでも壊しますよ!」
「常識を弁えた発言をしてください」
夏椎にまで冷たい目を向けられた。冷たくあしらわれた木戸はしぶしぶ作業に戻る。
「それはそうと、ふたりで何してるんですか?」
ドア付近にカバンを置いて、夏椎がふたりへ歩み寄る。
A地区長室には先日、柚木と武器を選びに来た際に入ったことがある。ごちゃごちゃしている部屋だなと思ったけど、ふたりともそのごちゃごちゃの真っ只中にいる。
整理されていない本棚。
物が溢れたテーブル。
不規則に置かれたパイプ椅子。
可愛らしい文房具がテーブルの端で泣いている。壁にかけられた武器類だけはとても綺麗に並べられていた。
「まぁ、見ての通りですよ」
「何故急に整理を?」
「俺は気にならないけど、木戸が気になるんだって」
「木戸さんキッチリしてますもんね」
記憶の中の木戸も、与えられた勉強机の周りをとても綺麗に保っていた。
隣の父親の勉強机からはみ出たものも整理してくれていた。時々一緒に並べて整えたこともなんとなく覚えている。
俺も、雑然としているよりは整然としている方が好きだなと感じた。
その感覚も、ちゃんと覚えている。
「俺木戸さんのそういう所は尊敬してますよ」
「夏椎⋯⋯」
「突飛な言動は改めて欲しいですけど、それ以外は案外マトモな人ですもんね」
「それ褒めてる?」
全然褒められてる気がしない。まぁいいけどー、と唇を尖らせながらファイルを一旦全部取り出していく。
「どうやって並べるんですか?」
「年代別、種類別、あとは各カテゴリに沿って五十音順かな。左から古い、軽度の順序で揃えたい」
「これ、全部A地区の犯罪歴ってことですよね」
ごちゃりと積み上げられた書類の束はなかなかの圧巻だ。
「香流さんも知ってるんですか?」
「知らないのもあるかも。A地区に関しては柳瀬と愛敬に任せてるから」
「香流さんの部屋はもう少しスッキリしてますよね。すごく意外と、スッキリしてる」
「たまにまゆと賢吾が来て整理していくから」
あー、と木戸と夏椎が同時に呟いた。いつもながら甘やかされているなぁ。
「夏椎も手伝ってくれんの?」
「整理整頓は嫌いじゃないので手伝いますよ。終わったら宿題教えてくださいね」
「いいよぉ。何分かんないの?」
「古典です」
「アメリカ育ちには難易度高ぇなぁ」
ふたりの会話を聞きながら、柚木はぽかんとしていた。
何だか兄弟みたいな会話をしている。そういえば旧知の仲だったっけ。旧知の仲と言うことは、昔から一緒にいたということだ。
昔から?
「蓮、夏椎と暮らしてたの?」
ようやく柚木の中で木戸が中学生の時にどこから遊びに来ていたのかが繋がった。
どこからかやって来て、どこかに帰っていく不思議な蓮。
言葉も知らず、常識も分からず、無表情で情動が見られなかった蓮が住んでいた場所を柚木はずっと知らなかった。
柳瀬も中川も聞かなかったから、柚木も聞かなかった。どこに住んでいても、一緒にいる時は友達だったからそれでいいと思っていた。
「今更ぁ?前に気付いたんじゃなかったの?」
「ご、ごめん⋯⋯」
断片的に一緒に過ごしていたことは聞いていたけれど、ちゃんと理解して落とし込んでいなかった。ぼやーっとしていた輪郭がくっきりしてくる感覚についていけない。
「ま、先輩はぽやぽやしてるから仕方ねぇか」
「ぽ、ぽやぽや⋯⋯」
「俺は夏椎の父親に拾われたんだよ。中2まで夏椎と一緒に住んでたの。柳瀬にも言うなって言われてたから黙ってたけどね」
「⋯⋯うん」
「そんな事で落ち込まんの。言ってなかった俺が悪いんだから」
頭を撫でられても、柚木は抵抗しなかった。
珍しくしょんぼりしている。落ち込む先輩も可愛い。そのままなでなでし続けていたら、またドアが開かれた。
「木戸くん、ちょっと手伝ってくれない?」
ドアを開けた黛は、大人しく頭を撫でられている柚木を見てぎょっとする。
木戸はすぐに手を離して、ドアの方へ歩いて行った。退出前に振り返ってひらりと手を振る。
「後で帰ってくるから、続きよろしく」
「い、いいの?」
「黛さんの仕事優先でーす」
話しながら出ていくふたりを見送って、夏椎はちらりと柚木を見上げた。
なんだか今日は大人しい。いつもならもっとツンケンしているのに、しおらしいとただの美少女に見えてしまう。
「⋯⋯俺は警察官向いてないのかもしれない」
それは前に俺も言いました。
ふ、と夏椎は苦笑いした。落ち込む姿がなんだか子どもみたいだ。
「知りたいと思わないってことは、興味がないってことなのかな⋯⋯」
「そこを同一に考えるのは違うと思いますけど。何でもかんでも知っているのが友人関係ではないでしょう」
確かに、柚木は何も聞かない。
聞かないし話さない。聞けば答えてくれるけど、それだけだ。確かに、そこをもどかしく思うこともあったけど。
「香流さんが聞かないのは、自分も聞かれたくないからですよね」
時々、ひどく厚い壁を感じることがある。
これ以上踏み込まれないように張られる予防線。一緒に過ごしていても、同じ空間にいても、柚木だけは感じていることが違うと思うことがある。
「俺はそれを間違ってるとは思いませんよ」
「夏椎、大人だな」
「人間関係に関しては俺も探り探りです。なんせ友達いませんでしたからね」
クラスメイトのことだって、どんな人でどんな過ごし方をしてどんな風に感じているのかなんて夏椎には想像もつかない。
でも、一緒にいて笑っている。同じ空間で同じことを共有している。それだけで十分だと思う自分がいるから、俺だって踏み込まない。
それは香流さんに対しても同じだ。
「まぁ、俺は助けられる過程で香流さんに過去を見られているわけですが」
「う、うん」
「嫌ではなかったですよ。香流さんだからいいです。⋯⋯でも、香流さんは俺に知られるのは嫌でしょ?」
「夏椎だから嫌なんじゃない」
柚木は即座に否定した。
否定して、口を閉じる。口元に手を当てて、殻にこもろうとする柚木の手を夏椎はそっと掴んだ。
「香流さんの中学時代ってどんなだったんですか?」
「⋯⋯え、」
「柳瀬さんと中川さんといたんですよね。俺達みたいに3人で行動してたんですか?」
夏椎の視線を受けて、柚木はこくこくと頷いた。
「ずっと3人で一緒だった」
「真面目に授業受けてたんですか?」
「う、受けてたよ。隣が中川で、前に柳瀬が座ってて、たまに石田が話しに来て⋯⋯」
まるで宝物みたいな日々だった。
ずっと笑っていた。しょうもないことを一生懸命考えて、お昼ご飯はいつも屋上に上がって食べた。
「天気がいいと気持ち良くて、3人で屋上に上がって輪になって食べた。2年に上がったら蓮と愛敬とヒツギも来て、もうめんどくさいからってオードブル作ったら置き場所がなくて柳瀬に怒られたっけな⋯⋯」
「楽しそうですね」
「うん、楽しかった」
中学校だけは学校にきちんと通っていた。
だって、会いたい人達がいた。どこにいても何をしてても楽しくて、褒めてくれる人がいた。
「⋯⋯俺、学校に好きな先生がいたんだよ。1年の終わりにいなくなっちゃったけど、現世で元気にしてくれてたらいいな⋯⋯」
俯く柚木の両頬を挟んで、夏椎は柔らかく微笑んだ。
今はなくしたものを見ないで欲しい。楽しかったことだけ思い出して欲しい。
「絶対、元気ですよ。いつか会えたらいいですね」
希望を持つことは悪いことじゃない。
俺は子どもだから、根拠のない希望を持っていいはずだ。その希望を、香流さんに渡してもいいはずだ。
「どんな先生だったんですか?」
「え、っと⋯。おじいちゃんの先生で、英語の、先生だった」
「だから香流さん英語話せるんですね。この前普通に洋画字幕無しで聞き取れてましたもんね。木戸さんにも教えてあげたんですか?」
「う、うん。俺が教えてあげられるのそれくらいだったから⋯⋯」
「他にも色々教えてあげてましたよね?料理も家事も、俺は木戸さんから教えてもらったんですよ」
え、と声を零す柚木へ向かって、夏椎はふっと眉尻を下げた。
「俺の味噌汁と香流さんの味噌汁、味同じなんですよ」
父さんは料理をほとんどしなかった。
木戸さんがどこからか覚えてきて、父さんがいない時はご飯を用意してくれた。時々一緒に料理をして、時々お弁当も作ってくれた。
木戸さんが父さんに料理を教えていた。台所に立つふたりを眺めて、見よう見まねで覚えていったこともたくさんある。
「俺の原点の味、香流さんだったんですね」
この人が、木戸さんと出会ってくれたから。
生き方を、暮らし方を、あの人に教えてくれたから。俺はひとりでも生きていけた。ひとりでも暮らしていけた。
「俺、香流さんのご飯がずっと大好きでした。ありがとうございます」
繋がっていく。
ばあちゃんに教えてもらったことが、回り回って夏椎のところへ辿り着いた。
それは、知らなくても生きていけるけど、知ったら嬉しいこと。知るということは苦しいこともあるけれど、嬉しいことだってたくさんある。
「⋯⋯教えてくれてありがとう」
柚木の笑顔に、夏椎はぐっと肩を揺らした。
木戸の言っている意味が理解出来てしまった。自然と顔が熱くなる。そうか、これは確かに凶器だ。
これにやられた柳瀬と木戸の気持ちが痛いほど理解出来る。赤くなる顔を腕で隠して、夏椎はくるりと踵を返した。
「さ、続きしましょう。翔真と晃が帰ってくる前に終わらせないと」
「今日も特訓するもんな」
「はい、しますよ。俺も強くなりますからね」
将来のことは分からないけれど、翔真から「警察官になる」と聞いて少し揺らいだ自分がいた。
警察官になりたいとは思わないけれど、この人の側にはいたい。自分に出来ること、自分が必要な学びを知っていきたい。そのためには知恵だけでなく力もいる。
「ちゃんと役に立てるようになりますから、また色々教えてくださいね」
「⋯⋯!あぁ、分かった!」
「約束ですよ」
別に、全てを知りたいわけじゃない。
知ることが正しいことでもない。
でも、聞きたいと思うから。できれば、楽しい思い出だけを聞きたいと願う。
そう願うことは、良いも悪いもない。ただの俺のワガママだ。
★★
B地区長室に移動して、愛敬と先輩でも作成出来る簡易な報告書のフォーマットを作ることになった。
少しでも黛の負担を減らすため、そう提案したのは自分の方だ。なので、木戸は大人しく黛の後ろからパソコンの画面を覗く。
「文字書くの嫌がると思うからチェック入れるだけにするのはどうですかね」
「これでもかなり簡略化したんだけどなぁ」
「文字が小さいとそれだけで逃げますよ、特に愛敬は。アイツ小論文どころか作文もまともに書けませんからね」
高校を卒業してから5年、一体何をやってきたんだあのアホは。
木戸は呆れていた。「香流くんは私に任せてください」と大きい口を叩きながらこの体たらく。学校にいる時から思ってたけど、本当に脳筋なんだなあの女は。
「こっちには顔出すなってうるさかった理由が分かった気がするわ」
「あはは⋯⋯。まぁ最初は頑張って書類業務もやってたんだけどね。俺が手を出しすぎたんだよ」
「黛さんは何でも抱えすぎですよ。仕事振るのも上の仕事ですよ」
柳瀬にだって同じことを言えるけど、去年大学を卒業して島へ帰ってきてから仕事の割り振りをしたことで少しはアイツの顔色が悪いのもマシになった。
甘やかされる事に慣れている脳筋を甘やかしてはならない。現世で暮らしてきた木戸は島の誰よりも常識人を自負している。
「先輩はアホですけど、目を酷使させなきゃ机に向かえますから。愛敬だって小学生レベルなら理解できます。柊さんもいるんだから頼れるところは頼ってください」
「木戸くん、うちで働かない?」
いきなりナンパされてしまった。
嬉しいけど、ふと柳瀬の顔が浮かぶ。俺がいなくなったらアイツに意見を出して止めてやれる奴がいなくなってしまう。
⋯⋯って、何で先輩第一じゃなくなってんだ俺は?
「考えさせてください⋯⋯」
「香流がいるから即答するかと思ったのに」
「俺も良く分かんねぇです」
最近ずっと一緒にいるから麻痺してんのかな。
でも、先輩の周りにはいっぱい大事にしてくれる人がいるもんなぁ。俺ひとりいなくても平気なような。
「たまに先輩に会えて、元気な様子が見られたらそれで幸せだったんですけど。ずっと一緒にいると離したくないなって思ってしまって、良くねぇなと思ってますよ」
「別に普通じゃないの?」
「俺は何も知らねぇから、ダメなんです。先輩が何でも話せるようになったらここに来ますよ」
黛は少し考えて、椅子の背もたれに身体を預けた。
「じゃあ、待ってる」
「⋯⋯いい返事出来るか分かんないですよ」
「大丈夫だよ。俺は結構君を買ってるから」
離れていた分、知らないことは多い。
黛さんともきちんと話したのはここ最近の話で、こういう人がいるから先輩はのびのび過ごせるんだなと安心した。
先輩の周りはいい人ばかりだ。そう柳瀬も言っていた。でも俺は別にいい人になりたい訳じゃない。
だから、愛敬に怒られんだろうな。俺がなりたいのはいい人でもいい友達でもないから。
―――何も知らないくせに。
「まずは知るところからです」
「アイツが話すかなぁ」
「ちゃんと、正統派で頑張りますよ。たくさん泣かせてあげたいから」
矛盾している物言いに、黛はふっと笑みを浮かべた。
「ありがとう」
「まだ礼を言われることはしてないですよ。ほら、仕事しましょ。夏椎に先輩任せてきちゃった」
「逆じゃないところがアイツなんだよなぁ⋯⋯」
でも、ここ最近すごく大人しくなっていることに本人も気付いてないんだろうな。
ここを立ち上げてから、ずっとピリピリしていた。口調も荒いし男らしくいなければと尖っていた香流はすっかりなりを潜めて、学生時代の天然具合が顔を出すようになった。
大人しく書類整理をするなんて快挙に等しい。賢吾や木戸くんみたいな頭脳タイプと組むとバランスいいんだけどなぁ、とは口に出さずにおいて、黛は苦笑いする。
素直だねぇアイツは。
木戸くんがいると男らしくいなくてもいいと思ってて、ちょっと安心してる事はきっと隠してるつもりなんだろうなぁ。
ま、バレバレなんだけど。
★★
「お⋯⋯わったぁ!」
「すごい、スッキリしたな」
両手を上げてガッツポーズをつくる夏椎と晃の後ろで、柚木はパチパチと拍手を送る。
晃は帰ってきてから、何も聞かず黙々と作業を始めていた。2人よりも3人。結局木戸は帰ってこなかったけど、夏椎と晃は丁寧に書類を伸ばしたりファイリングしたりと作業が的確だった。
「ありがとう、夏椎。愛敬も喜ぶだろうな」
「それならいいんですけど」
「晃もありがとう」
「知らん」
ふいっと晃は柚木から顔を逸らした。でも機嫌が悪いわけではなさそうだ。
まぁいつもの事だし別にいいや、と思いながら部屋を出て行こうとすると、急に晃に手を取られた。柚木は驚いて思わず足を止める。
「どうした?」
「指、切ってる」
「あぁ、紙で切れたんだろ。俺よりお前らは怪我してないか?」
晃は答えず、無言で鞄から絆創膏を取り出した。
あれは昔自分が鞄に入れた絆創膏だ。黙っていると、ペリペリと包みを外してぺたりと絆創膏が貼り付けられる。
日が変われば治るのに。
戸惑っていると、夏椎がくすくすと声を零して笑う。
「晃、良く気付いたね」
「アホ面が平気な顔してるからだ」
「ただの悪口じゃねぇか」
「料理するのに、指怪我してどうするんだ。紙束なんか俺と夏椎に任せておけばいいのに」
ふと、夏椎は翔真が「晃は香流お兄ちゃんのご飯しか食べなかった」と言っていたことを思い出した。
そっか。そりゃあ晃にとっては一大事だね。
つい我慢出来ずに笑ってしまう。俺の幼なじみ分かりやすくて可愛い。そして俺の保護者は頭にたくさん「?」を浮かべていてそれも可愛い。
「なんか食べたいものあんの?」
「知らん。甘くて辛い肉がいい」
「なんだそりゃ。肉ねぇ、肉⋯⋯」
「肉巻きは?良くお弁当に入ってましたよね」
「ばあちゃんが教えてくれたんだよ。じゃあ今日はそうするか」
多分、晃にとっては香流さんはお母さんみたいな存在なんだよね。
嬉しそうな顔してる。俺がいなかった間の晃はとても分かりやすい。俺に遠慮して甘えなかったみたいだけど、これからたくさん甘えられたらいいね。
「ただいまー!バイト終わったよー!特訓しよ!」
「おかえり。翔真」
「バイト終わりなのに元気だな。休憩しなくていいのか?」
「元気がおれのいいところ!ほら、早く屋上行こ!」
ワイワイと話しながらA地区長室を後にする。
その隣のB地区長室で、黛と木戸はパソコンと睨めっこをしながら、
「ねぇ、マジでフォーマット全部作り替えるつもりなの?」
「愛敬と先輩のためにもちゃんと細分化しておかないとダメです。手間ですけど後の効率を考えて頑張りましょ」
「俺これから会議があるんですよ⋯⋯」
「なら愛敬が帰るまでに俺がやっておきますから。一台パソコン貸してください」
「ありがとうございますぅ」
「上に立つものが簡単に頭下げない!」
「はいぃ」
こうして完成した新しい書類フォーマットは、脳筋でも簡単に作成出来るととても好評だった。




