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地球の果ての島の物語  作者: 亜滝紅羽
白兎事件編
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85/90

幕間(同窓会)

高校同級生メンバーの同窓会です。


白田セラ⋯⋯熾天使セラフィム。真面目。

黒田ベル⋯⋯悪魔。気のいいお兄さん。

宝石三人衆(柚木・中川・柳瀬)⋯⋯名称に不服。

柚木ファミリー⋯⋯生徒会長の川崎さんと副会長の黛さん。クラスに人間は3人(川崎、黛、石田)だけでした。

柊⋯⋯天界からの留学生。柚姫と友達。


鮫男⋯⋯鮫の魚人。警察庁で働いている。海周り担当。

猿美⋯⋯猿の獣人。お色気担当。ブティック店員。



その他クラスメイト


あと何人かいる。

 輝くような朱色の髪をサイドで編み込みにして、リボンのついた髪ゴムでひとつに束ねて書類を読んでいるセラフィム様。


「はい、こちらでよろしいですよ」

「は、はい!」


 我らが憧れの天使長その方の、淑女然とした立ち振る舞いは見事な美しさです。

 あぁ、髪を耳にかけるその仕草さえ(たお)やかな。


「セラフィム、今日編み込んでるから髪落ちてないよ」

「はぅ!」


 ゼウス様のご指摘に、セラフィム様は肩を跳ね上げました。アメジストの目を丸くして、顔を赤くして、すんっと書類に向き直ります。


「今日は一体誰とお出かけかなぁ」


 探るような視線が、セラフィム様へ向けられます。


「ルシフェル相手だとオシャレはしないだろうし」

「⋯⋯」

「あぁ、耳を出すということは付けたいアクセサリーがあるのかな?」

「⋯⋯⋯」

「イヤリングをくれたのは誰だったっけ〜」

「ゼウス様!時間なので失礼します!」


 茹で蛸のようになったセラフィム様が、椅子からガタンと立ち上がりました。今太腿打ちましたよね。あれ、絶対痛いと思うのですが。


「まだまだ若いねぇ」

「せ、ゼウス様。セラフィム様は意中の方がおられるのですか?」


 おずおずと私が聞くと、ゼウス様はにこりと微笑んで小首を傾げました。


「さて、どうだろう」

 


 ★★★★★


(セラフィム)

 

 待ち合わせ場所は、島の教会前。

 悪魔なのに教会前でいいんですかと聞けば、「るーの結界は慣れてるから平気!」とよく分からない返答をされてしまいました。

 それにしても、ゼウス様の質問責めには困ったものです。

 誰にもらったのか知っているくせに。私は天使の羽がモチーフのイヤリングに触れて、ふぅ、と小さくため息をつきました。


「何?お疲れ?」

「ベル!」


 急に声をかけられて、思わず声が裏返ってしまいました。

 急速に熱くなる顔。俯く私の上から、くっくっくとくぐもった笑い声が聴こえます。

 昼から夕方へ変わる斜陽の時間。まだ人通りは少ないですが、他に誰か見ていないかどうしても気になって視線を泳がせていると、私の耳に大きな手が触れました。


「付けてくれてんじゃん」


 顔を上げると、嬉しそうな顔をしてくれて。

 思わず私も頬が緩みます。付けて来てと言ったのはあなたのくせに。



 ★


(サタン)


 天使の世界は悪魔と違ってゼウス様が管理しているから、たまに息が詰まることもあるだろうなと思ってはいた。

 まぁセラは俺と違って真面目ないい子ちゃんだけど。自由気ままに適当運営している悪魔の世界とは勝手が違うから、何に疲れてんのか俺にはさっぱり分からない。


「何?お疲れ?」

「ベル!」


 だから気になって聞いただけなんだけど、急に声をかけたからかセラの声がすっ飛んで行った。

 いやこれは笑う。面白いなコイツ。

 挙動不審になって視線を泳がせるセラが横を向くと、天使の羽が目に入った。

 あぁ、今日はコレにしたんだ。

 毎回、会う時には何か付けて来てよと言ってはみるけど、仕事中はアクセサリーを付けないセラのことだから今日は無理かなと思ってた。

 つい耳に触れてしまう。


「付けてくれてんじゃん」


 思わず言うと、セラが俺を見上げて微笑んだ。


 待って。その顔可愛すぎん!?


 崩れる崩れる!余裕なくなる!やめろいきなり天使の微笑み食らわしてくんの!


 心臓がバクバクする。でもセラの前で余裕は崩したくない。ごくりと生唾を飲んで、いつも通りの笑みを浮かべる。


「似合ってる」

「あぅ、あ、⋯⋯ありがとうございます」


 顔赤くして、かわいーやつー。


 思わず真顔になる。何なんだこの女は。清純な見た目して耳まで赤くしてもうほんとすごく⋯可愛い!


 そう。俺は悪魔の王様のくせに、天使のセラにアホみたいな片思いをしている。


 年々可愛くてどうしようかと思う。部下達にははよ告白しろとせっつかれているが、仮にも悪魔の王様張ってる俺が天使に惚れてるとかどうなの!?と何も言えずにいる。


 でもさぁ、セラも絶対意識してるんだよ。


 俺のあげたイヤリング大事にしてるし!デートって言ったら絶対来てくれるし!今だって顔赤いし!


 でもぉ!俺には香流との友情があるから恋愛は出来ないのよ。いやまぁアイツ全く興味ない顔して「へぇー」くらいで終わりそうだけど。


 俺がアタマ張っとかないと、悪魔なんて欲望の塊の集団、何しでかすか分からないじゃん。

 何のために必死こいて悪魔のトップになったんだよって話だ。女相手にうつつを抜かして立場を奪われる訳にはいかないんだよ、俺は。


 セラだって、天使長様なんだし。だからお互い何も言わないんだよね。


「ベル、今日はどこへ行くのですか?」


 前回は美術館、その前は遊園地、そのまた前はスポーツ複合施設。

 セラのストレス発散のために色んな場所へ連れて行くのは俺の密かな楽しみだ。人間のフリをして地上の遊びを楽しむ。セラはたくさん食べるから、色んな飲食店も脳内に網羅している。


 でも、今日行く場所は決まっている。


「ま、付いておいでよ」


 ぽんぽんと頭を撫でると、目を細めながらセラが頷く。

 頭は撫でられるけど手は繋げないまま、ちょっと先を歩いて今日のデートスポットへセラをお連れする。

 向かう先は商業副業施設。レストランが併設されているB地区のビルだ。




(セラフィム)


 ベルに連れられて扉が開くと、中には見知った顔がいくつかありました。

 開けた広々としたロビーのような空間の壁にテーブルが備えられています。その上には色とりどりの料理が並べられていて、とてもいい匂いが漂ってきます。


「あや、早かったねさっちゃんとせーちゃん」


 もう既にお口パンパンのルシフェルがこちらを振り返りました。

 隣で珍しくジャージ姿の柳瀬くんが呆れ顔で見上げています。髪も上げて完全な男の子スタイルは珍しい。


「やだ灯護様、イッケメーン!」

「あーうっぜぇ!」


 いきなり写真を撮り始めるベルから柳瀬くんが逃げ出しました。楽しそうに追いかけて行くベルに呆れていると、ルシフェルがふわふわと綿毛のように微笑みました。


「今日はふたりで来たんだね」

「あの、⋯もしかして今日は何かの集まりですか?」

「さっちゃんから聞いてないの?なんかいきなり同窓会するから集まれって連絡来てたけど⋯⋯」


 何も聞いていません。


 首を振ると、ルシフェルはきょとんと目を丸くしました。でもすぐに笑顔に戻ります。


「みんな適当にやってるから、せーちゃんも食べよ。主催者があんな調子だし」


 主催者とはベルの事ですね。元クラスメイトを巻き込んで写真撮りまくっています。

 何か、一言あってもいいのに。別に断らないし嫌がりませんよ。私だって高校時代は楽しかったんですから。


「香流さんは?」

「まだ来てないよ。たぶんもう来ると思うけど⋯⋯」


 話していたら、背中から扉の開く音がしました。


「やっほー!石田が来たよー!」


 入ってくるなり元気な石田くんです。石田くんが珍しくジャケットを羽織っています。ジャージじゃない。


「やっほー!石田!」

「黒ちゃんやっほー!」

「やっほー!川崎!」

「あ、うん。やっほー」


 いつもながら付き合いの良い川崎くんです。先に入ったふたりはベルに絡まれて写真の餌食になっていました。

 

「徹夜明けで人付き合いの苦痛⋯⋯」

「寝てりゃ良かったのに」

「誰のせいだと思ってんだー?」


 後ろで何かやらかしたらしい香流さんが怒られています。香流さんの髪の毛をボサボサにされて隣の柚姫ちゃんが頬を膨らませていました。


「もう、せっかくセットしたのに」

「いいか柚姫、悪いのはコイツ!あやうく遊覧船が転覆する所だったんだぞ!」

「側にクジラがいて助かったな!」

「いきなり百頭近いクジラ呼んだのはどこの誰だ!!」

「百頭も呼んでないのに⋯⋯」


 一体何の話をしているのでしょうか⋯⋯。


 急な仕事が入らなくて良かったです。ルシフェルを見上げると遠い目をしていました。またかと言った顔ですね。


「今日は何したの、柚木」

「C地区のばぁちゃん達がホエールウォッチング?したいって言うから海に連れてった」

「あぁうん、いい事したね」


 ルシフェルはぱっと笑顔をつくりました。

 黛くんが額を押さえていますが、見ないフリをしていますね。ルシフェルの甘やかしはいつもの事です。


「柚木ー!」


 真横から柳瀬くんが香流さんに突撃しました。

 全力のタックルだったのでさすがに香流さんも倒れ込みます。一緒になって黛くんも倒れてしまいました。ふたりにお腹の上に乗られて黛くんがカエルが潰れたような声を出しました。


「ごめん、まゆ!」

「あぁ、悪い悪い」

「⋯⋯はよ下りてください」


 柳瀬くんが香流さんを抱き上げました。香流さんはされるがままです。若干諦めている雰囲気もあります。


「久しぶりだなぁ、ずっと会いたかったー。今日も人助けして偉かったなぁ」

「一昨日会ったばかりじゃない」


 面倒くさそうにルシフェルが口を挟みました。柳瀬くんは無視して香流さんに頬擦りしています。

 黛くんは全てを諦めた瞳で天井を仰いでいました。


「あぁ、このまま眠りにつきたい⋯⋯」

「床で寝るのは反対なのよ」

「踏まれんぞ」

「踏み潰したのはお前だよ」


 はぁー、とため息をつきながら身体を起こした黛くんの上に、ベルが着地しました。

 また潰れてしまいました。


「あれ、後輩どもは?」

「大学の飲み会」

「なんだそのリア充の集まり⋯⋯」


 床から震える黛くんの声が聴こえます。柳瀬くんは香流さんを下ろして、スマートフォンをベルに放り投げました。


「昨日、ヒツギんとこで仕事の話してたんだけどよ」



 〜以下回想〜


木戸「柳瀬ぇ、明日休んでいい?」

柳瀬「俺も用事あるからいいよ。どした?」

木戸「なんか大学ん時の同期がいい加減顔出せってうるせぇから。明日なら全員揃ってるから出てこいって通知が止まんねぇの」

柳瀬「ふーん」

木戸「何なら愛敬も連れて来いって言ってるけど」

愛敬「蓮くんの大学の人何喋ってるか分かんないから嫌です」

木戸「ちゃんと日本語で話してるよ」

愛敬「都会女子怖いんですよ!オシャレで可愛くて眩しくて私どうしたらいいのか分からない!」

木戸「じゃあ俺ひとりで行くからいいよ」

愛敬「でも行きたーい!灯護くんもいないのにお留守番は嫌です!」

木戸「めんどくせぇ奴だな⋯⋯。じゃあヒツギも参加で返しとくわ」

柳瀬「なぁ、お前らトリオでしか動けねぇの?」

木戸・愛敬「コイツとふたりきりで行動するのが耐えられないです」



 〜回想終わり〜


「ってことで三人で出かけてった」

「あの後輩どもは仲良いのか悪いのか分かんないねぇ。てかるーはその場にいなかったの?」

「俺は柚木と一緒にたこ焼き焼いてた!」

「たこは入れてない」

「じゃあ何焼きだよもう。お前らは相変わらずニコイチなのねぇ」


 たこ焼き⋯⋯いいな。


 ベルが柳瀬くんから受け取ったスマートフォンを滑らせると、知らないオシャレな人達と映っている後輩さん達の写真がありました。


「黒髪の子乳でけぇな」

「いいなぁ、ハニートースト美味しそう」


 ルシフェルはともかく、ベルの感想が下世話です。私は黙ってベルの頭を叩きました。


「柚木は見ないの?」

「柚姫、なんか食べ物見に行こ」

「ゆずも写真見たいのよー」

「⋯⋯じゃあひとりで行くからいいよ」


 香流さんがぷいっと顔を逸らして行ってしまいました。

 柳瀬くんとルシフェルが顔を見合せてから、にんまりと微笑みました。


「やぁだ、ヤキモチ妬いて〜。いいじゃない、アタシ達がいるんだからぁ」

「今度みんなでハニートースト食べに行こ!」


 あの三人も仲良しですね。うちの上司も「マジで写真集作ろうかな」と真顔で言っていました。当然予算から外しましたけど。

 

「ハニートーストは俺が作る!」

「おい、お前どこにヤキモチ妬いてたの?」

「まだ何も焼いてない!」

「いいか柚木、ヤキモチって言うのはな⋯⋯」

「乳児に高校入試問題は無理だよ、柳瀬」


 ぷんすこしてる香流さんは珍しいですね。遠巻きにクラスメイトが眺めています。

 ベルも目が点になっています。その下から、黛さんが地を這うような声を発しました。


「ねぇ、どいて⋯⋯」

「やだ、黛くんから誘ったんじゃない」


 クネクネしながらベルが柳瀬くんのスマートフォンで黛くんの写真を撮りました。ベル、楽しそうですね。デートではないけれど、高校時代に戻れたようで何だかとても楽しい気分になります。



 ★


(サタン)


 ひばりんの上で動画撮影しながら遊んでいたら、ガチャリとまた扉が開いた。

 入ってきたひぃちゃんは、セラの顔を見るなりそっとスマホを差し出す。そのスマホケースにはMK(ミラクル)ーZの文字。

 セラも黙ってスマホを差し出す。同じくMKーZの文字。ひぃちゃんは水色、セラは紫色。要するに推しカラーと言うやつだ。


「セラ、昨日の動画配信見た?」

「見ました!ファーストテイク最高でしたね。リリムちゃんの歌声がとても尖っていましたよ!」

「アムちゃんも最高だった。やはりMKーZは至高」


 がしりと腕を組み交わす天界女子コンビに、姫がぴょこんと跳ねながら入っていった。


「ゆずも見たのよ!7色のハーモニーだったのよ!」

「途中でダンスが少し出たのがあまりにも可愛かった」

「分かります柊さん!あの細部まで完璧なはにかむ表情!さすがアイドルですよね!」


 和気あいあいと楽しそうに盛り上がっている。

 うんうん、やっぱりセラは好きなものの話をしている時が一番輝いてるな。好きが原動力なのは素晴らしい。俺はアイドル詳しくないけどさぁ。

 微笑ましく3人の様子を見守っていると、上半身を起こしてきたひばりんが恨めしそうな目を向けてきた。


「お前さぁ、好きな子のために周りを巻き込むのゃめ」


 もう1回パンチで沈めておいた。喉元イッパツ。気絶したひばりんはもう何も話さない。

 端っこにズルズルと引きずって行って、そっと俺の上着をかけてあげる優しい俺。健やかにお眠りひばりん様。いらん事気付かんで良い。


 別に、セラだけのためじゃないんだよなぁ。


「香流、先月産まれた俺の子ども見てくれよ!」

「すげぇ、いっぱいいる!⋯⋯何匹!?」

「14つ子。いやぁ、毎日可愛くて可愛くて」

「うん、可愛い。元気に産まれて良かったな!」

「私の彼氏も見てよ、香流〜」

「立派なゴリラだ!すげぇーかっけぇー!」


 香流も動物由来の獣人とは仲良しで楽しそうだし。


「柳瀬くん、相変わらず美肌が過ぎない?」

「あら、当たり前でしょ?アタシは根から美しいんだもの。美を司る女神とお呼び」

「美を司る女神、ジャージでいいの?」

「いい事!美は根から!自分を美しくするのは己の臓腑からよ!」

「美を司る女神が汚ねぇ声で臓腑とか言うな」


 同級生には甘々のとごたんは可愛いし。


「宙ちゃん、これ現世のお土産。バターサンドだよ」

「俺は宙ちゃんのためにご当地ラーメン集めてきたよ」

「いや、俺はトゥンカロンだ!見た目も宙ちゃんのように可愛い!」

「ふふ、みんなありがとう!お礼にウインクしてあげる!」

「ありがとうございます!」


 るーは一体何してんだ。


 だから、要するにセラだけのためじゃない。内心言い訳をしながらみんなの元へ足を伸ばす。

 だってさぁ、ひとりのためだけになんかするのって悪魔らしくないじゃん。

 みんなの前に立って、楽しくを扇動するのが俺の大事な役割!それが悪魔ってもんでしょ!


「お前ら、今からカラオケすんぞ!」


 セッティングしてもらったカラオケセットの前で、声を張り上げる。

 それからは大いに盛り上がった。推しの歌を楽しそうに歌うセラはいつも以上に可愛くて、つい写真を撮ってしまったほど。

 たまには歌って騒いで、楽しかった思い出に浸るのも悪くないだろ。

 とか何とか言い訳しながら、写真を隠す俺。悪魔らしくないってまた部下に弄られそうだなぁ。


「お兄ちゃん、ゆずと最強のデュエットかますのよ!」

「任せろ!」


 しかしノリいいなあの双子。

 あ、ひばりんが復活した。かと思ったら五体投地している。あそこだけ異様な雰囲気醸し出している。


「中川、マイク持てよ!」

「よし来た石田くん!」


 暴食コンビもノリいいな。

 そして俺はいつも思う。この同級生共は悪魔いらずだなと。


「俺の美声を聞け、愚民共」

「きゃー!灯護様!」

「声まで美を司る女神!」


 アイツが一番楽しそうだな。

 日頃のストレスここぞとばかりに発散していやがる。ジャージだしよぉ。ジャージに前髪チョンマゲで何だあの美貌と美声。悪魔じゃなくても頭狂うわ。


「なぁ香流、とごたんって身内相手だといつもこう?」


 思わず香流に聞くと、香流は真顔で頷いた。


「後輩がいたらもっと酷い」

「酷いんだぁ⋯⋯」

「最終的に童謡でラップバトル始めるから」

「え、何それめっちゃ聞きたい」

「あと、聞いた事ない言語で歌い始める」

「それなんかの呪い始まってない?」

「だいたい全員翌朝には喉が潰れている。申し訳ないことにいつも俺だけが治っている⋯⋯。そして俺はいつも喉飴を常備している」


 お母さん⋯⋯。


 親はいなくても香流の母感が伝わってくる。

 なんとなく離れがたくてそのまま香流の隣で柳瀬を眺めていると、香流の方から声をかけてきた。


「ありがとう、サ⋯⋯あ、えっと黒田」

「何、急に」

「高次の存在のことで気を使わせたのかなと思って。お前、いいやつだもんな」

「悪魔に向かっていいやつってお前なぁ」


 呆れて返すと、香流はふっと笑みを零した。

 そういう顔を見ると、安心するな。コイツと友達でいたいなと思った笑顔だ。温かくて穏やかで、悪魔とは対極にいる天使みたいな笑顔。


「神は好きじゃないけど、お前とセラフィムのことは信頼してる」

「⋯⋯まーた、すぐそう裏切りにくいこと言ってくる」

「仁義の悪魔なんだろ?ベルフェゴール」


 人差し指を香流の唇に当て、俺はウインクを送る。


「今は悪魔の王様サタン様だよん」

「なんだよ、今は黒田だろ」

「そう。俺は黒田くん。そっちの方がしっくりくるか!」


 努力とか積み重ねとか泥臭い事が大嫌いな悪魔の中で、俺だけは地道な作業が得意だった。

 悪魔界からの追放を逃れるために、神を堕落させろと命を受けた俺が出会った友達。堕落させなくても学校はサボるし行事は出ねぇし、自由奔放なやつだったなぁ。

 まぁ、それは今もあんま変わんねぇか。

 俺の初めての友達。


「しゃーねぇから、ずっと信頼されててやるよ!」


 信頼は実績の積み重ねだ。真面目にコツコツやっていれば、きちんと還ってくる喜びがある。

 種族や性質に囚われないで生きるのはとても難しいよな。悩んで、迷って、そういう時代があったことを俺は誇りに思いたい。


「香流、凹んだらいつでも言えよ。楽しいこと整えて待っててやるから」

「また一晩中ゲームすんの?」

「ハンドルコントローラーも備えてまっせ!」


 手でハンドルを動かす真似をして口笛を吹く。香流が笑うと場が和むんだよな。特に家族の奴らの視線がとても温かい。そういうの、俺は嫌いじゃないんだよ。


「なぁに、お兄ちゃん。悪魔の世界に遊びに行くの?」

「姫も来る?ならひばりんもおいでよ」

「パリピの世界には行かん」

「もう、食わず嫌いは良くないのよ」

「ごめんね、陰キャが少ないお国柄で⋯⋯」


 ネガティブ陰キャの黛くんを憐れんでいると、俺にマイクが回ってきた。

 回してきたのはセラだ。何の話をしているんですかと視線で訴えかけてくるが、今は応えずぽんと額に手を添える。


「セラ!るー!讃美歌歌おうぜ!」

「いいけど、何人か召されちゃうかもしれないよ?」

「恐ろしいこと言うな、お前⋯⋯」

「私はこっちの讃美歌がいいです」


 そう言って流れ始めた歌には聞き覚えがあった。

 

「それお前のハマってるアイドルの歌じゃねーの!」

「なら私も参戦しよう」


 ひぃちゃんが俺からマイクを持って行った。

 天界組強〜い。ほっといてもノリの良い同級生は楽しそうに踊り始めている。なんで酒も飲んでないのにこんなテンション高いんですかね、この人達は。


「香流、踊らないの?」

「禁止されてるから⋯⋯」


 ちなみに、隣の香流だけは大人しくしていた。

 踊れないもんね。




 夕方まで歌って騒いで、食べて食べて食べ尽くしたセラは満足そうな顔で俺の隣を歩いている。


「さっき、香流さんと何の話をしていたんですか?」


 さっさと帰ればいいのに、だらだらとるーととごたんの後ろを歩いていくのは何となく帰るのが惜しいからだ。

 セラも同じなのか、ゆっくりとした歩調で歩いている。夕暮れの学校区はなんだか郷愁を誘うようで、いつかの光景と重なるようだ。


「いつでも遊びに来ていいよーって悪魔らしく誘ってたの」

「悪魔らしく⋯⋯」

「香流、俺とセラのこと大好きだってさ。良かったねぇ」


 見下ろすと、仄かにセラが嬉しそうな顔をする。

 つられて笑っていると、セラが横目で俺を見上げてきた。上目遣いがどうにも可愛いんだけど、狙ってやってんのかなこれ。


「⋯⋯ベルは?」

「ほえ?」

「ベルも私のこと大好きですか」


 ?????


「せーちゃん、出前取るけどご飯食べて帰る?」

「いいんですか?」

「昼が洋食だったから、夜は和食かなと思って。寿司食べたくない?」

「食べたいです!」


 勝手に盛り上がる天界組にぽかんとしていたら、いつの間にか側に寄っていたとごたんがぼそりと呟いた。


「悪魔のくせにいつまで童貞拗らせてんだ」

「悪魔みたいなこと言わないで!」

「はぁ〜甘酸っぺぇ。ほら、二次会すっからお前も来いよ」

「んぐぅ⋯⋯っ」


 その日食べた寿司は、とても美味しかった。

 まぁ、セラがお酒飲んでお寿司食べて幸せそうな顔を見せてくれたから、今日は満足という事にしておこう。

 別に、拗らせてるわけじゃねぇから!!

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