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地球の果ての島の物語  作者: 亜滝紅羽
白兎事件編
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62/76

白兎事件編23(出会いの相対・1)

混線とわちゃわちゃと落ち着きのない人達です。

(三人称視点です)


「あれ?まゆは?」


 B地区長室へ入ると、いつものように(まゆずみ)の姿が見えなかった。

 代わりに柊がいた。桃色のふわふわ頭、両腕に翼を生やした柊は、いくつものモニターを前にして椅子に座ったままくるりと柚木を振り返る。

 モニターにはニール、警察庁内、B地区内に点在している監視カメラがランダムに映し出されている。

 柚木には目の痛い部屋だ。声をかけられた柊はいつも通りの澄ました顔を向けた。


「黛地区長なら森谷さんと出て行った」

「えー、まゆに聞きたいことがあったのに⋯⋯」

「それは残念」


 さっき、C地区の見回りをしていたら住人のひとりにスマホ設定の相談を受けたので後でまゆを連れてくると答えたのに。

 

 まぁ帰ってきてからでいいか。そう思って柚木が踵を返そうとすると、今度は柊から声をかけられた。


「柚木地区長、どうして最近制服着ないの?」

「俺だって制服の方が楽だよ。でも木戸がいるからしょうがねぇだろ」

「木戸くんの制服を作ればいいのに」


 ぽつりと零す柊の言葉に、なるほどと思ってしまって慌てて柚木は首を左右に振る。


「あいつはA地区の住人!制服なんて布が勿体ないだろ!」

「本当に小波ちゃんが帰ってきたら帰しちゃうの?」

「何度もそう言ってるだろ!あいつも旅に出たいって言ってたしな!」


 もうこの話は終わりとばかりに、柚木は部屋を出て行った。

 

 柊は小さくため息をつく。木戸くんが来て満更でもないくせに。残って欲しいと素直に言えれば喜んで残ってくれそうなくらい溺愛されているのがよく分かるのに。


「難儀なひと」


 柊は呟きながら再びモニターに向き直った。




 B地区長室から出て、とりあえず自分の部屋に戻ろうと足を向けたところで突然誰かに手を引かれた。

 びっくりした。と思う間もなく壁に押し付けられる。


「見つけた」


 硬直する柚木の上から、知らない声が降ってくる。

 大きな手のひら。耳に残る低い声。

 びく、と肩が跳ねた。一瞬にして柚木の思考が止まる。


「やっと会えた⋯⋯」

 

 大きな手が頬に触れる。

 全身に鳥肌が立つ。押さえられているのは片手だけなのに、声を出すことも、振り払って逃げることすら出来なかった。

 身体が重い。全身鉛のようだ。

 ぶつ切りの断片的な命令と痛みが脳裏に蘇る。真上から降りかかる罵声が、怒鳴り声が、媚びるような声が、耳の奥でこだまする。

 壁に押し付けられた手から血の気が抜ける感覚。顔を上げられない。

 脳が働いてくれない。

 ここから何をどうすればいいのかさっぱり分からない。


「先輩?」


 かけられた声に、柚木ははっと意識を取り戻した。

 知っている声がした。

 咄嗟に、手を払いのけて声がした方へ走る。柚木が突撃してくるのを受け止めて、状況を何となく察した木戸は柚木を自分の背中側へ回した。


「うちの子になんか用ですかね?」

「⋯⋯覚えてないのかい?」

「先輩が知ってる人の反応ではないかなぁ」


 柚木は良く知らない大きな男が苦手だと柳瀬が言っていた。

 龍司と電話した時も見事に固まっていたが、あれは夏椎の父親とご挨拶と言うシュチュエーションのせいだと思っていた。

 違った。あれは夏椎の父親だからある程度許容できただけだ。

 人外に命を狙われても平然としている柚木が、あそこまで動けなくなるとは正直予想外だった。

 でも、そうなるよな。何があったか結局は詳しくは知らないし知りたくもないが、今この場に自分が居合わせて良かった。

 今度は間に合った。名誉挽回だ。


「⋯⋯そうか」


 とても寂しそうにその人は言った。

 柚木は木戸の隙間からようやくその人を見上げた。短い焦げ茶色の髪と瞳の、柔和そうな男。

 その瞳と目が合って、柚木は息を飲んだ。何だか嫌な感じがする。その嫌な感じがとても曖昧で、気持ちが悪い。


「勝手に庁内をふらふらされては困ります、加瀬さん」


 今度は黛の声が聴こえてきた。

 聞いたことの無い低い声音だ。加瀬と呼ばれた男の後ろから歩いてくる黛は、柚木が見たことないほど怒りを顕にしている。


「早く戻って下さい。下であんたの上司が待ってますよ」

「相変わらず黛くんは手厳しいな」

「香流に近付くなって言ってんだ。さっさと現世へ帰れ」


 黛は吐き捨てるように言うと、親指で後方を指し示した。

 加瀬は肩を竦めて黛の方へ足を向ける。少しだけ視線を柚木へ向けると、とても優しい微笑みを浮かべた。


「柚木くん、またね」


 そのまま歩いていくふたりを見送って、柚木は思い切り木戸の背中に頭突きをした。


「あいたっ」

「⋯⋯何だあいつは」

 

 まだ心臓が痛い。脳に響くほど早鐘を打っている。

 木戸はしゃがみこんで、真っ青な柚木の頬を包んだ。


「怖かったね」

「怖くない⋯⋯」

「今は俺しかいないよ」


 そう言われてようやく、柚木は視界のピントが合った気がした。

 どうしようもなく安堵する。怖かった。そうなんだろうか。別に殺されかけたわけでもないのに。


「⋯⋯怖いなんて、駄目だ⋯⋯」


 胸がどうしようもなく痛い。

 何で。もう何年も前に終わった話だ。俺が殺して全部終わったはずだ。

 悪いのは全部俺だったのに、一体いつまで被害者面すれば気が済む。

 怖くない。ただ動けなかっただけだ。相手は人間だったから、ここで騒ぎを起こすわけにはいかなかったから。

 

 柚木が言葉に詰まってただひたすら唇を噛みしめていると、木戸の顔がゆっくり近付いてきた。


「大丈夫だよ」


 見上げると、鳶色(とびいろ)の瞳が鏡のように柚木を映している。


「俺はどんな香流でもいいって言ったよ」


 ―――もうすぐいなくなるくせに。


 愛敬に会いたい。愛敬の方がいい。木戸なんか嫌いだ。

 甘すぎる言葉はいらない。首筋がぞわぞわする。この感情を殺してしまえればどれだけ楽なんだろうか。


「⋯⋯お前なんか大っ嫌いだ」


 何でこんなに頭が言うことを聞かないんだろう。

 今までなら絶対こんなことはなかった。きっと無理矢理にでも逃げることは出来た。自分で乗り越えなきゃならないのに。ひとりで立たなきゃ駄目だと、誰も縋ってはならないと腐るほど言い聞かせてきたのに。


 弱くなっている。


 縋りたくなる。縋ったら駄目だ。またいなくなる。また俺のせいで誰かがいなくなってしまう。

 窮地に立たされた時に自分で立てなくなることがどれほど恐ろしいことか、俺は分かっているはずなのに。


「⋯⋯側にいなかったから怒ってる?」

「お前になんか最初から期待してない」

「そんなツンツンしても俺は逃げませんよ」


 木戸は笑って、柚木を抱き寄せた。

 

 心臓の音がする。閉じ込められても木戸なら怖くない。そう思った瞬間、俺は怖かったんだとようやく脳が認識した。


「⋯⋯俺、怖かった?」

「うん、怖がってた」

「⋯⋯駄目じゃない⋯⋯?」

「駄目じゃない。俺の前ではあー怖かった、でいいんだよ」


 木戸の嫌いなところは、ひとつひとつ捨ててきた感情を拾い上げてくるところだ。

 恐怖も涙もいらなかった。そんなものがあれば苦痛と侮辱に耐えられなかった。

 だから、これも本当なら要らない感情だ。

 弱さも、脆さも、ばかみたいに何でもかんでも肯定されるから、頭がおかしくなるんだ。

 早くどこかへ行ってしまえ。どこか好きな所へ行って、たまに無事なことを知らせてくれればそれでいい。

 

「木戸のせいでいらないものが増える」

「香流がいらないものなら俺がもらっちゃおうかなぁ」

「⋯⋯どうせいなくなるくせに?」


 意図せず声に出た。

 目を丸くして口を押さえる柚木をぽかんと見ていた木戸が、少しの間をおいてふっと肩を震わせた。


「可愛いこと言うなぁ、もう」


 今度は真面目な顔をした、木戸の長い睫毛が伏せった。

 似合わない真面目な顔が面白くて柚木は思わず吹き出してしまう。


「急に変な顔すんなよ」

「こんな男前捕まえて変な顔とは失礼な」


 中川と言い、柳瀬と言い、木戸と言い、俺の周りは自分の顔面偏差値に自信を持っている奴らばかりだ。

 

 ふたりの事を思い出したら落ち着いてきた。「俺は可愛い!」と自信満々に言い切る中川がぽんと浮かんで柚木は思わず笑った。

 

「⋯⋯もう平気だから、誰にも言うなよ」

「俺と香流のふたりだけの秘密ね」

「変な言い方すんな」


 木戸の大きな手が柚木の頬に触れる。

 

 何で木戸は怖くないんだろう。昔から知っているからかな。昔はもっと小さくて、ずっと後ろを付いて来てたのに今は全然可愛くなくなってしまった。

 

 柚木はじっと木戸を見上げる。

 木戸は内心迷っていた。さっきまで知らない男に怯えていた癖に、警戒心がまるでないこの人にどこまで許されるのかを。


 なんかすごい見てくる。可愛すぎる。どうしようこれ。いってしまっていいんだろうか。

 いや、絶対今じゃないよな。我慢しろ俺。でもすごい可愛い!ってかふたりきりだよ今!やべぇ幸せ!幸せとか思ってごめんね香流!でもこの幸せで飯が食えるわ〜!

 

 その時、ガチャリとB地区長室のドアが開けられた。


「柚木地区長、トラブル発生」

「なにー?」


 柊のローテンションな呼び声に、柚木は木戸の腕をするりと抜け出してB地区長室へ入って行く。

 ゴン、と木戸は壁に頭を打ち付けて(うずくま)る。柊は「あー⋯」と間の抜けた声を出して、


「鬼の居ぬ間に不埒な真似は制裁対象⋯⋯」


 そしてB地区長室へ引っ込んで行った。

 木戸はふっと目を閉じる。


 鬼ってアイツの事かなぁ。


 アイツ、職場でもそういう扱いなんだな。


 まぁあんまり深く考えるのはやめようかな。まだ死にたくないしな!


「もー、先輩。置いてかないで下さいよー」


 気持ちの切り替えは大事!また香流をひとりにして襲われたらたまらない。

 さっきは報告書書きたくないとか言う甘えん坊のせいで側を離れたけど。職場でも油断ならねぇなほんと。いやマジですぐ出て行って良かった。

 

 いつもの調子でB地区長室の扉を開けた木戸は、柊の責めるような視線を受け流しながら柚木の隣へ歩いて行った。


「どしたの?」

「たぶん襲われてる⋯⋯?」


 柚木の呟きに、木戸はモニターを見上げた。

 確かに、何かを振り返りながら走っている男がいる。茶色いスーツのような服を着ている男は、モニター越しではよく分からないが酷く怯えているように見えた。

 

「何に追われてるのかよく分かんねぇな」

「黛地区長がいれば画像解析出来たのにね」


 黛と歩いて行った変な男を思い出し、柚木は眉を(ひそ)めた。

 今から黛の元へ行ってまた遭遇したくない。現場に行けばどうとでもなる。ここで考えるよりさっさと動く方が余程効率的だ。

 

「いないもんは仕方ない。木戸、とりあえず行くぞ」

「うん。デートみたいだね」

「仕事!」

「じゃあ今度2人で出掛けようよ」

「翔真と愛敬の許可が下りればな」

「最大にして最強の番犬出してくんじゃん」


 言い合いながら去っていくふたりを見送って、柊は嘆息する。

 妹はあんなに素直で可愛いのに、兄の方は頑固で天邪鬼。木戸が来てから比較的仲の良い柊へ柚木に対するクレームが後を絶たないのだが、本人に言っても知らんぷりを決め込んでいる。


 もう少し言い方を改善してあげて。

 独り占めしてずるい。

 思わせぶりな態度してひどい。


 もう面倒なので柚木に直接伝えてみたが、柚木はどうせすぐいなくなるんだから放っておけ、と全く意に介していなかった。

 

 そう言う好きだ嫌いだのゴタゴタには巻き込まれたくない。俺は興味ないんだからアイツらで勝手にやってればいいだろ。

 

 なんて言ってたけど、その割には楽しそうなこと。


「少しは柚姫の素直さを分けてもらえばいいのに」


 友人として幾度となく忠告した言葉を呟きながら、柊はここ最近の警察庁内の揺らぎに呆れていた。



 ★★★★★



「たっんじょうび♪たっんじょうび ♫」


 陽気に鼻歌を口ずさみながら、翔真が黒板へでかでかと『夏椎おめでとう!』と書いている。

 その隣で(こう)が無言で夏椎の絵を描いている。いや、絵上手いな。(きみ)と梓は向かい合わせでトランプを広げながら黒板に目を奪われていた。


「楽しそうだな、アイツら」

「俺もなんか描きたい!」


 賑やかしの公が目を輝かせながら席を立った。

 当の夏椎は現在真生とグルーの3人で転校生の案内をしている。珍しく付いて行かないんだな、と思っていたらサプライズの準備だったか。


「もう夏椎も15歳か⋯⋯」

「お前は夏椎の何なの?」

「そんなしみじみ言うほど付き合い長くねぇわ」


 親戚のおじさんみたいなことを言い始める公へ、吹雪と梓が即座に突っ込みを入れる。

 公は右端に中3部参謀!と書いた。翔真がそれを見つけてえへへと笑う。


「夏椎は参謀!っぽい!」

「もちろんリーダーは俺」

「じゃあおれは?」

「翔真はムードメーカーだな」

「晃は?」

「元々敵だったけど途中で仲間になる人」

「誰が敵だ」


 晃は突っ込みながら夏椎の出来栄えにうんうんとひとり頷いた。

 晃から突っ込まれたことに公はぽかんと口を開けている。そんなこと言える奴だったなんて。ろくに学校も来なかったくせに、今では夏椎から自立して黒板に絵を描く姿が見られるなんて⋯⋯!

(描いている絵は夏椎です)


「大きく⋯⋯なった⋯⋯!」

「同い年だよ」


 公が目に涙を溜めて口元を押さえる。

 そして翔真にも突っ込まれた。


「たっだいまー」

 

 居残り組がしょうもないやりとりをしていると、ガラリと教室のドアが開けられた。

 真生を先頭にして案内係が入ってくる。最後尾のアリアスはとても楽しそうな笑顔を浮かべながら、拳を作って興奮気味に夏椎と話している。


「すごいですね!学校というシステムは一体誰が構築されたんですか!?」

「明治時代に学制取調掛がくせいとりしらべがかりと言う人達がいたそうですよ」

「メイジジダイ!?」

「そうか、そこからか⋯⋯」


 異世界人のアリアスにとって、日本の文化はおろか地球の常識すら目新しいものばかりだ。

 でも柚木に任せられた以上手を抜くことは出来ない。夏椎が簡易的に地球の歴史を説明できる何かを作ろうかと考えていると、目の前に翔真の顔が現れてびくりと肩を跳ねあげた。


「もー!夏椎、ぜーんぜん気付かないじゃん!」

「えっ、何?」

「今日!誕生日!でしょ!」

「あぁ⋯⋯」


 忘れていた。

 いつも父親が騒ぐから一緒にお祝いしていただけで、自分の誕生日なんて気に留めた事もなかった。そもそも365日のうちのひとつ、歳を重ねるだけの1日だ。

 全く関心のない夏椎の態度に、翔真は目を丸くして驚いた。


「嬉しくないの!?」

「嬉しいも何も、書面に書く年齢が変わるだけじゃない?」

「冷めすぎじゃない!?おれも晃も毎年ケーキもらってプレゼントももらってるよ!?」

「マメだなあの人」

「うん。おれが昨日言っといたからケーキ作ってくれるよ!」


 ぴょんぴょんと跳ねながら翔真が一生懸命お祝いのアピールをする。

 それが何とも微笑ましくて、夏椎はふふっと笑みを零した。


「夏椎、黒板見て!」

「黒板?」


 痺れを切らせた翔真が黒板を指さすと、そこには色とりどりの文字で『夏椎おめでとう』と書かれていた。

 花やケーキの絵、妙に可愛らしい似顔絵、そして謎の中3部参謀の文字。

 とても賑やかだ。

 去年までならきっと今頃、家に籠っていつも通りゲームや映画の世界に没頭していたか。それとも、誰とも話さず逃げるような学校生活を送っていたか。

 誕生日は忘れてたけど、祝ってもらえるのは素直に嬉しい。

 それも大切な友達に祝ってもらえるなんて。

 こんな賑やかな誕生日は初めてだ。


「ありがとう」


 ガシャーン!!


 夏椎が言い終えるより先に、教室の窓ガラスが派手な音を立てて飛び散った。

 え、と思うより早く、何かの手が伸びてくる。


「夏椎!」


 晃がぶわりと影を展開させた。

 動きは単調。真っ直ぐに夏椎へ向かうその異形に狙いを定めて的確に飲み込む。

 瞬く間に何かは晃の影に取り込まれた。翔真も夏椎の前に立って威嚇している。


「大丈夫!?」


 真生が夏椎と翔真に駆け寄った。見たところ夏椎に怪我はなく、翔真と真生はほっと胸を撫で下ろした。学校に何かが襲撃してくることなんて滅多にないのに。

 ザワザワと揺れる教室の中へ、続いて三つ編みをリボンのように巻いた小柄な赤毛の少女が割れた窓から入ってきた。

 四神獣のひとり、朱雀だ。


「あら、主の庇護下の者達」


 朱雀は赤いリボンを散らばせたバルーンスカートを優雅に翻しながら、小首を傾げた。


「先程小さな異形が入って来なかった?」


 見た目の歳は中3部とあまり変わらない頃だが、妙な威圧感がある。

 晃は嫌そうな顔をしてさっと夏椎の後ろに隠れた。散々特訓相手をさせられて苦手意識があるらしい。


「紫色の異形ですか?」

「そうそれよ!もしかして倒しちゃったの?」

「いや、晃が収納してます」


 朱雀はきょとんとしていたが、夏椎の後ろの晃を見てあぁと両手を打った。


「そう言えばソイツそんな能力だったわね。ならいいわ。あたしは次に行こうっと」

「次⋯⋯?」

「あんた達に教える義理はないわ。せいぜい捕まえた1匹で主に褒めてもらいなさい」


 朱雀はまた窓から身を乗り出すと、深紅の鳥の羽を背中から生やした。


「他にもいるんですか!?」

「言う必要ないわ。じゃあね」


 優雅に飛び立っていく朱雀はもう振り返りもしない。

 夏椎はイラッとした。あぁ、この感じ知ってる。何の説明もないのに馬鹿にされて置き去りにされる感じ。

 柳瀬との病院襲撃事件が脳裏に蘇る。


「か、夏椎⋯⋯?」


 わなわなと震える夏椎を覗き込んで、翔真と晃が戸惑っている。

 夏椎はにっこりと微笑んだ。


「翔真、晃」

「うん」「はい」

「香流さんを探そう」


 何の説明もないが、神獣が出てきているのだから柚木が関わっているのは間違いない。

 あの人が関わっているなら行かない訳にはいかない。心配なのもあるが、あの自分のことを大切にしない無策無鉄砲がまた怪我をするかもしれない。それは何故かものすごく腹が立つ。


「俺も行こうか?さっきの人の言い方だとさっきの紫まだいそうじゃない?」


 真生が自分を指さして言った。


「じゃあ俺も行きたい!」

「公くんが行くなら俺も行こうかなぁ⋯⋯」

「はぁ?仕方ねぇ奴らだなぁ」


 公、吹雪、梓も席を立った。


体良(ていよ)く逃げ出そうとしてない?」


 颯爽と次の授業から逃げ出そうとする幼なじみ3人組へ雪絵が苦言を(てい)した。

 そんな雪絵に、隣のさくらがこそりと耳打ちする。


「今、警察庁内にものすごいイケメンが来てるらしいよ」

「は!?」

「噂で聞いたの。こっそり見に行かない?」


 絶賛婚活中の雪絵の目が輝く。

 翔真はさくらの耳打ちを聞いていた。耳がいいのは犬の特性だ。

 

 イケメンってあの人の事かな。

 前も女の子に囲まれてたもんな。軽くあしらってたけど。


「さくらちゃーん、雪絵ちゃんけしかけてどうすんのよ」


 同じく耳の良い真生が苦笑いした。

 さくらはうふふと口元に手を当てて微笑む。


「だってさくらも数学やだもん!」

「さくら、私達も行くわよ」

「わーい!」

「ちょっと待て!転校生もいるのに学業を疎かにするな!」


 真面目な熊が突っ込みを入れた。

 えー、と妖怪勢からブーイングが上がる。アリアスはオロオロした後、ちらりと夏椎を見た。

 今、アリアスの監視をしているのは夏椎だ。夏椎はアリアスの視線を受けて、グルーを見上げた。


「グルーさん、アリアスさんをお願いします」

「え」

「俺は行きます」

「ほ、本当に行くのか!?」

「誕生日特典使います!」

「地上には誕生日にそんな特典があるのか!?」


 夏椎は颯爽と教室を飛び出して行った。

 後から翔真と晃、妖怪勢が付いてくる。翔真はぽんと煙を立ててポメラニアンに変わると、一番前へ躍り出た。


「目指すは香流お兄ちゃんだね!」

「うん!」


 不真面目に真面目な中3部は、下足室へ到達すると、きちんと上履きから下履きへ履き替えて校舎を後にした。

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