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地球の果ての島の物語  作者: 亜滝紅羽
白兎事件編
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59/75

白兎事件編21(距離感の微調整・2)

弟が折れました。

(柚木)

 

 暇だ。

 暇すぎる。

 賢吾が帰ってこない。さっきからずっとサイレンの音が聴こえる。この島で救急車なんて珍しい。

 取り留めのないことを考えながら、うつ伏せのまま頬杖をつく。

 暇すぎて翔真に教えてもらった鳥を集めるゲームもだいぶ進んでしまった。

 ペンギンが出た時点で飽きてきた。画面越しより本物がいい。寝れもせずにうだうだと寝転がっていたら、突然大きな音を立てて扉が開いた。

 びっくりして思わず肩がはねた。おれがスマホから扉へ視線を向けると、何故か当直室の入口に木戸が立っている。


「あれ、何でここにいんの?」

「看護師さんに案内してもらいました」


 理由を聞いたのであって、別に経緯は聞いていない。

 良く見るとなんか服が汚れてるな。何で血がついてんだコイツ。


「お前、何して来たんだよ」

「ちょっと喧嘩買ってもらって来ました。ちゃんと全員生きてますよ!」

「あぁ、救急車の音がよく聴こえるわけだ⋯⋯」


 だから賢吾がずっと帰って来ねぇんだな。

 入口に突っ立って動かない木戸から目を逸らして、おれはまたスマホへ視線を戻す。


「先輩」

「なに?」

「抱きしめてもいいですか」

「はぁ?いつも聞く前にしてくるくせにいちいち聞くなよ⋯⋯」


 おれは言ってから、ふと気付いた。

 そう言えば前まで勝手に頭撫でたり手を繋いだりしてきたくせに、最近何もして来ないな。

 具体的にはあれからだ。おれの昔の話を聞いてもらったあとから。⋯⋯もしかして後輩相手に気を使われてる!?


「お前、まさかおれがまだ男相手にビビってると思ってんのか!?」


 思わず身体を起こすと、踵がズキンと痛んだ。

 痛い。うつ伏せが長かったから腕も痛い。

 耐えきれずソファベッドに再び崩れ落ちた。自業自得なので誰も責められない。


「だ、大丈夫?」

「全身痛い」


 痛すぎて涙出てきた。子どもの身体には負荷が大きすぎる。おれは身体だけ大人の姿に変えて、はぁー、とため息をついた。


「俺はあのクソ団体に好き勝手されてた事より、故郷がなくなった方が苦しかったんだよ」


 ずっと重くのしかかったいた。

 経緯はどうあれ自分で命を奪ったこと。自分の迂闊(うかつ)な発言で大切な人が死んでしまうきっかけを作ってしまったこと。

 全部俺のせいだと思う。それは変わらない。

 でも。

 

「もう何年も前の話だ。あのクソ団体は気持ち悪いし、すげぇ痛かったし、思い返すと()り返して気持ち悪くはなるけど、⋯⋯もういいんだろ」


 俺は木戸を睨みつけた。


「もういいよって、お前が言ったんだろ!」


 お前がそう言ったくせに、勝手に壁を作るなよ。

 声に出す前に、身体が包まれる。大きくて温かくて、寄りかかっても倒れないくらい固い身体。

 どうしようもなくほっとする。痛みなんか消えてなくなるくらいに強く抱き締められるのが、苦しいのに何故か嫌じゃなかった。


 

 ★★


 

(木戸)

 

 言葉より先に、手が動いていた。

 細く小さな身体を抱き寄せる。あんまり強く抱き締めると壊れそうだけど、もう我慢したくなかった。

 柔らかい光に透ける金色の髪。白い肌。ぐりぐりとでかい瞳。長い睫毛と、熱があったからか頬がピンク色に色付いている。

 

 可愛いな。


 男とか女とか関係ない。俺にとっては香流だけが最愛の人だ。


「香流が好き」


 ようやく心の底から声が出た。


「俺には香流しかいない。⋯⋯全部大好き。愛してるよ」


 どこにいたって、いつも思う。俺にはこの人しかいない。香流以外は欲しくない。

 どう足掻いても、諦めることなんてずっと出来ないんだよ。


「⋯⋯しんどかった」

「何が」

「香流のこと、好きでいられなくなるかと思うとどうしていいか分かんなくて⋯⋯」

「あぁ、だから珍しく子どもの面倒見てたのか」


 香流はぽんぽんと俺の頭を撫でた。

 甘やかしたいのに、甘やかされる。香流の手が俺の頬に伸びて、そのままびよんと思い切り引っ張られた。

 

「お前なんか怖くないよ、バカ」


 そう言って笑う香流が大好きだ。

 狂ってる。俺は頭おかしいんだよ。何でもう、香流が笑ってくれると全部どうでも良くなるくらい幸せが溢れてしまう。


「香流、可愛い」

「はいはい」

「香流が大好き。香流に拒否されたくない」

「拒否はずっとしてるけどな。お前が嫌なんじゃなくて、誰でも嫌なだけだ」


 それは―――


 強い拒絶だなぁ。でも、逃げないでこうして収まってくれているのはこの人なりの甘えなんだろうか。

 そっと柔らかな金色に触れる。

 香流は愛らしく目を細めた。その表情に胸がぎゅんと疼く。

 心臓が痛い。好きな子抱き締めるのってすげぇ心臓に悪いのがよく分かる。よく柳瀬は平気だな。俺もう結構心臓が限界なんだけど。



 ★★


 

(柚木)


(あったかい⋯⋯)

 

 木戸に抱き上げられながら、俺は小さい頃の記憶をふわふわと思い出していた。

 森谷は抱っこして欲しいとせがむ柚姫の次に、必ず俺を抱き上げてくれた。

 恥ずかしくて「次は賢吾!」とすぐに降りてしまったけど。

 嬉しくて、本当は泣きたいくらい安心出来た。

 アイツらに拒絶され続けてた俺を抱き上げてくれたのは森谷だけだった。でも、いつしかそれは恐怖の対象になって。森谷に触れられるのですら強い拒絶が出るようになってしまった。

 アイツらと森谷は違うのに。頭ではちゃんと分かっていたのに。八つ当たりのようにひたすら拒絶する俺に、森谷は何も言わなかった。

 今もただ側にいてくれるのが優しさだと理解してる。でも、今更森谷に対してどんな態度をとればいいのかなんて分からない。

 木戸は、あの頃の森谷に少し似ている。

 優しくて大きな手。固いけど温かくて安心できる。

 怖いなんて思わない。

 

 むしろ―――


「⋯⋯ねぇ、何考えてる?」


 急に耳元で尋ねられて、俺はふっと思考を手放した。

 背筋がぞわぞわする。俺は木戸の顔面に手を置いて押しのけた。


「森谷のこと考えてた」

「他の男のことなんて考えないでよ」


 ぐ、と木戸が腕の力を入れる。

 手をよけると、木戸が拗ねたような顔で見下ろしていた。無駄に整った顔が幼く見えて、う、と思わず言葉に詰まってしまう。

 

 森谷と木戸の抱きしめるの意味は違う。

 それくらいは俺にも分かる。木戸がちゃんと好きでいてくれてるのも、さすがにもう分かってはいる。


 木戸は嘘を付かない。⋯⋯と思う。


 俺は好きになってもらえている。歪な俺でも木戸は否定しない。女みたいな見た目でも気持ち悪いと思われているわけじゃない⋯⋯んだよな。


 昔のことを話して、許してもらえて、俺は木戸には甘えていいと思ってしまっている。

 

 ただ、俺はこれ以上何をどうすれば正解なのかが分からない。

 

 でも木戸にこうされるのは嫌じゃない。


 安心する。固くて大きくて嫌いなはずなのに、木戸は好きでいてくれるから怖くない。


 だから、甘えた思考が頭をもたげてくる。

 

 旅に出るなんて言うなよ、とか。


 他のやつのところには行くなよ、とか。


 別に愛敬が帰ってきてもここに⋯⋯


(それは絶対言わねぇ!!)


 頭が混乱してきた。俺は頭突きするように木戸の胸に頭を押し付ける。


 そして聴こえてきた音に、ふ、と声が漏れた。


「心臓うるせー」

「そりゃ好きな子抱きしめてますからね」


 ほらまた、木戸はすぐそういう事を言う。

 

「⋯⋯なら、ずっと好きでいろよ」


 もらうだけでいいって、木戸が言うならその通りにしてればいいんだろ。


「俺は何も返さないからな」

「うん。香流だけを愛してるよ」

「⋯⋯よそ見すんなよ」


 しないと思うけど。


 分かってるよ。蓮は昔からずっと俺について回ってたもんな。あれだ、あの⋯⋯要するにインプリンティングっていうやつだろ。

 蓮の好きはひよこみたいなものだ。たぶん、俺が最初に蓮に言葉を教えてあげたから、懐いてくれてるんだ。


 だったら、怖くないよな。


 これは恋愛とかじゃない。師弟関係?親子関係?みたいなものだ。それなら俺が蓮に好かれてる理由も分かる。


 仕方ないなぁ、蓮は⋯⋯。


 いつまでたっても俺の後をくっついて回りたいんだな。まぁ年下だから仕方ないかぁ⋯⋯。


 好きを受け入れられる自分が不思議で、なんだか気持ちがふわふわする。


 なんか、納得したら眠くなってきた⋯⋯。



 ★★



(木戸)


 どうしよう。


 なんかすげぇ可愛いこと言ってくる⋯⋯。


 俺ははっとした。柳瀬の言っていたことはコレか。


 甘え下手が甘えてくる下手さ加減とは!


 女の子と違って猫撫で声で擦り寄ってくる訳でもない。全身柔らかいわけでもない。


 でも我慢のメーターが振り切れそうだ。我慢しすぎて我慢の制御が効かなくなっている。このままじゃ信用をなくしかねない。

 

 もう、諦められないことを諦めるしかない。10年近くかけてようやくここまで来たんだ。


 好きでいてもいいと許可はもらった。


 抱きしめてもいいと許可はもらった。


 だったらちょっと触れるくらい許されるのでは!?


「香流⋯⋯」


 柔らかな頬に触れると、熱があるのか手のひらがじんわりと熱を灯す。

 キスくらい今時小学生でもするんだからセーフ、セーフ。とか何とか言い訳しながらそっと額を落とすと、長い睫毛が伏せっているのが目に入った。


 ⋯⋯ん?


「⋯⋯ねぇ、好きだって言ってる男に抱きしめられてる状況で何で寝れるの?」


 気付いたら香流が爆睡していた。

 穏やかな規則正しい寝息が聴こえる。よく見れば力も抜けてだらんと脱力していた。軽くて全然気付かなかった。


 もっと早く手ぇ出してりゃ良かった⋯⋯!


 このタイミング逃しはマズイ。このままでは香流の中で「結局木戸は何もしてこねー安全圏」に入ってしまう!


「香流、起きて」


 しかし俺は知っている。香流は一度寝たら殴るくらいじゃないと起きてくれないと。

 身に危険が迫れば起きてくれるか?いや、危険だと思われたくはない!普通にイチャイチャラブラブしたいだけなのに何で毎回こうなるの!?


「⋯⋯俺も寝よ」


 そして俺は諦めた。


 我慢のメーターがまた大きく成長したのを感じたのは、むしろ退化なんじゃないかなと遠くなる心で思いながら。


 


 ソファーベッドで眠る柚木と、その側で座りながら眠る木戸を見てどっと疲れた川崎は、帰って石田に癒されたいなと虚ろな瞳で思うのだった。



 ★★★★★



(柚木)


「治った!」


 翌朝、元気になったおれはソファーベッドで伸びをした。

 もう踵は痛くない。熱も引いた。なんなら良く寝て気分も爽快だ。


「良かったね」

 

 テーブルに突っ伏していた賢吾が疲れた顔を上げる。

 目の下に隈が出来ていた。夜中呼び出しや急患で休む暇がほとんど無かったことが伺える顔だった。


「⋯⋯なんかごめんな」


 賢吾の寝床を奪って、挙句にこちらはもうピンピンしているという不条理さ。仕事を代わってやりたいのはやまやまだけど、おれに医療の知識はない。

 おれの側で、赤い巨体がもぞりと動いた。


「はよー。香流、もう治ったの?」


 寝起きの木戸が柔らかく微笑む。

 おれは一瞬言葉をなくした。そのまま言葉は出さずに枕を顔面に叩きつける。


「視界が白い」

「アイス!食べたい!」

「はいはい、買ってきますよ。川崎さんは?」

「食べる⋯⋯」


 賢吾の元気がない。

 落ち着け心臓。今は木戸なんかより賢吾だ。パタンと閉まる扉の音を聞いて、おれは心を落ち着かせるため大人の姿へ変えていく。


「賢吾、こっちで寝とけ。まだ休憩時間だろ」

「⋯⋯何で金髪のままなの?」

「なん⋯⋯っ!」


 脳裏に中川の台詞が過ぎる。

 

「木戸がその姿見たら喜びそうだなぁ」


 思い返せば、何で俺はアイツとベランダで話した時も、さっきぎゅってしたときも、髪の色を変えなかった!?


 何で!?


「間違えた!!」

「大声出さないで⋯⋯」


 すぐに黒髪に変えて、俺は賢吾の手を引っ張る。

 

 賢吾が先!いや後とかないけど!後とか何もないけど!

 

 賢吾をソファーベッドへ寝かせて、毛布をかける。賢吾はじっと俺を見ていた。俺は賢吾の頭を撫でてから、ゼウスの言葉を思い出す。



「調整と言うのは病気や怪我の治癒も含まれている」


 

 俺は顔色の悪い賢吾の手を握った。

 側にしゃがみ込んで、自分の体内を巡る素粒子に意識を集中させる。

 

 この素粒子を、神々はマナと呼ぶ。

 

 赤、青、緑、橙、白、黒。

 

 マナは色んな色をしている。俺のマナは何色かは知らないけど、なんか夏椎が泣くほどよく分からない変な色をしているらしい。

 

 人のマナは個によって違う。賢吾のマナは柔らかな青色だ。

 

 青色。俺の青をなだらかに。寄せては返す波のように緩やかに賢吾へ向かって流していく。

 回復魔法とまではいかなくても、怪我や疲労なら俺でもきっと治してやれる。治してあげたい。賢吾は俺の大事な家族だから。



 ★★


 

(木戸)


「ただい⋯⋯」


 ま、と言いかけて俺は口を閉じた。

 香流の小さな身体がほのかに光に包まれている。金色の髪がふわりと浮き上がり、周りを細かい光の粒子が舞っている。

 そして、香流の瞳が青に変わっていた。いつもの混在している色とは違う。澄み切った海の色だ。


 何この光景⋯⋯。


 俺の好きな人尊すぎるんですけど⋯⋯。


 俺が言葉を失っている間に、ふ、と光の粒子がかき消えた。


「⋯⋯香流?」


 川崎さんはソファーベッドの上で、ぽかんとした顔をしている。

 今朝見た時よりも随分顔色がいい。そんな川崎さんの前で、香流は胸を張って子どもみたいに笑った。


「新技!」

 

 川崎さんは勢いよく起き上がって、香流の身体を抱きしめる。


 悲痛な表情が、香流が手の届かないところに行ってしまう恐怖を物語っている。


 そりゃあ、そうだよな。


 離れるのが怖いのは川崎さんだって一緒だ。香流が川崎さんを失うことを恐れる気持ちと同じくらい、川崎さんだって香流を失うことを怯えている。


 この兄弟は固い紐でがんじがらめになった共依存関係だ。それなのに、強制的な別れが待っているなんて受け入れ難い苦痛だよな。


「治った?」

「うん⋯⋯。ありがとう」

「良かったな!」


 香流は何も分かっていない顔で、ただ川崎さんが治ったことを無邪気に喜んでいる。

 川崎さんは少しだけ眉間に皺を寄せて、それからすぐに穏やかな笑みを浮かべた。沈めて、飲み込んで、吐き出さない。

 本当にこの兄弟はよく似ている。


「香流は立派な神様だね」


 そう川崎さんに言われて、香流はきょとんと目を見張った。

 くりくりとした丸い瞳はいつも通り地球を宿した瞳に戻っている。その瞳が強い意志を持って、香流は川崎さんの手を強く握り返した。


「まだお前のお兄ちゃんだよ!」



 —————


 ⋯⋯


 ★★



(川崎)

 

 泣きそうなほど。

 強く思う。いつだって。置いていきたくない。先に死ぬなんて嫌だ。香流といたい。ずっと側にいて笑いあっていきたい。

 家族だから。

 何も出来ないくせに。ただの人間のくせに。

 だから、俺は託す事しか出来ない。


「木戸」

「はい?」

「⋯⋯香流のこと、よろしくね」



 

 あのバーベキューパーティの夜。

 長机とパイプ椅子を抱えながら階段を下りる木戸が、俺に向かって尋ねてきた。


「川崎さんって、先輩と妹さんの弟なんですよね?」

「まぁ、そうだね」

「なんで川崎なんですか?」


 あぁ、と俺は小さく声を落とした。

 

「香流が決めたんだよ。正確には、俺の持ち物にそう書いてあったらしいけど」


 ボロ雑巾のような自分が着ていたものに、『川崎賢吾』と書いてあったそうだ。

 それが自分のものなのか、他人のものなのかはよく分からない。


「幼少期の記憶はあまりないんだ。ただ、何日も飲まず食わずで車から下ろされて、香流が現れたからついにお迎えが来たのかとは思ったけど」

「見た目が天使みたいですもんねぇ」

「でも、第一の台詞が『なぁりんご食べる?』だよ。飢餓状態の子どもが生のりんごを丸ごと食べれるわけないのにね」


 あの時の香流の優しさを思い出して、つい笑みが零れてしまう。

 結局、香流が住処としていた大木の窪みで香流と動物達が頑張ってりんごをすりおろして与えてくれた。

 それから色々あって宗教団体に保護される事にはなったけど、それが悪手だったのは言うまでもない。


「双子の名前は俺より後に付けられたからね。だから川崎と柚木で苗字が違うんだよ」

「そうなんだぁ。じゃあ川崎香流の可能性もあったのか」

「川崎がどこの誰の苗字か分からないから、それがいいか悪いのかは分からないけどね。まぁ柚木だって似たようなものか⋯⋯」

「柚木香流って可愛いですよね!響きがもう可愛い!」

「あ、うん」


 そうして木戸の長い惚気が始まった。


「まず先輩は顔が可愛いですよね。俺、最初見たときどこの女神かな?って思ったんですよ。睫毛も金色で髪も柔らかいでしょ。目なんかぐりぐりでっかくて見てるだけで幸せ〜って!ほんと地球の傑作ですよね!後は色気がね!可愛い中にも色気がすごくて、川崎さん見たことあります!?先輩肩出して歩いてたときマジで犯罪かな!?華奢〜っ!肌白い〜!しかも黒髪になってからちょっとうなじが見え隠れするようになったでしょ!?あの長さ俺大好きなんですよ!柳瀬マジでいい仕事すんなってあの時は尊敬しましたよね!俺は先輩が何してても可愛いと思うんですが、動物達と話してる時の表情もめちゃくちゃ好き!柔らかくて先輩の素が見え隠れして、あ〜!このままさらって行きてぇ〜!って思うほど可愛くて⋯⋯」


 以下略。


 あ、コイツはダメだ。と思ってしまったのは言うまでもない。




 でも、長い間涙を流さなかった香流が、ようやく涙を見せてくれた。

 家族がいなくなるのが何より怖いということを教えてくれた。あの場所から一歩も動けなかった香流が、ずっと何を恐れていたのかを知ることができた。そのきっかけを与えてくれたのは紛れもなく木戸だから。


「もちろん、末永く大切にしますよ」


 もう、認めざるを得ないな。

 俺の肩の力が抜けていく。香流がようやく踏み出してくれた一歩を、(おとうと)の都合で縫い付ける訳にはいかない。


「何の話?」

「こっちの話」

「先輩、アイス食べます?」

「食べる」


 そう言って、香流は俺から離れていく。

 ⋯⋯かと思えば、当たり前のように手を握ってきた。


「賢吾も食べよ!」


 香流が向けてくれる笑顔は、初めて出会った時と変わらない。

 俺の大切なひと。軽くなった身体を起こして、もう一度香流をしっかりと抱きしめた。



 ★★★★★


 

(おまけ)


 黛さんだけでなく、ついに川崎さんにも認められてしまった。

 恋愛よちよち歩きレベルの香流はガンガン外堀を埋められていってる事には気付いていない。

 気付いた時にはもう逃げ場はなさそうだなぁ。呑気にアイス食ってるけど。全く、可愛い兎さんだことで。


「ねぇ香流。大人に戻らなくていいの?」

「あれ!?どうりでなんか目線が違うと思った!」

「あの回復魔法っぽいの外では使えなさそうですねぇ」

「何で俺の能力は微妙なのばっかりなんだよ!」


 悔しそうにテーブルに伏せる香流を、俺と川崎さんは微笑ましく眺めていた。

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