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地球の果ての島の物語  作者: 亜滝紅羽
白兎事件編
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35/75

白兎事件編5(文化祭に向けて)

子ども達パートです。

(夏椎)


 島での生活も落ち着いてきて、少しずつこの島のあらましが分かってきた。

 学校のあるB地区には、ふたつの拠点が分かれている。A地区側にはオフィスビルと商業施設があって、商店街やお洒落なお店が並んでいる。娯楽施設も入っているそうだ。そして、C地区側には各学校施設が建ち並んでいる。

 翔真の家がある警察庁から、中学校までは歩いて20分ほどだ。住宅街を抜けて、幼稚園と小学校の間を通るとすぐに鈍色の校舎が見えてくる。

 今日は石田先生と川崎さんが来てくれたので、晃の準備も渋々ながらもつつがなく進んだ。川崎さんとは警察庁の玄関で分かれて、石田先生と一緒に学校までの道を歩く。


「ねぇねぇ、石田先生。文化祭って何するの?」


 翔真の純粋な疑問を受けて、石田先は苦笑いを返した。


「今更ぁ?⋯⋯んー、クラスメイトと一緒にひとつの目標に向かって楽しみながら作り上げていく行事、かなぁ」

「石田先生は学生の時に何したの?」

「俺はねぇ、たこ焼き焼いたりクラスで劇もしたよ!賢吾が生徒会長の時は歌唱大会とかもやったなぁ」

「川崎先生、生徒会長だったんだ」

「そうそう。みんなで意見出し合ってさぁ、賢吾がまとめてくれてクラス中がいいもの作るぞーって盛り上がってたよ」

「へぇー、楽しそう!」


 明るい石田先生と穏やかでしっかりしている川崎さんのいるクラスは団結力も強そうだ。楽しそうに話す石田先生からもいい思い出だったんだなと見て取れる。


「高校3年生は今年で最後の文化祭だからさぁ、みんな一丸となって準備してるよ!」

「もう決めてるんだ」

「石田クラスは本気だからね」


 キラーン、と石田先生の瞳が光った。


「音楽提供は俺の友達も手伝ってくれるって言ってたし、楽しみにしてな!」


 自信満々の石田先生を見上げながら、俺の隣で翔真は顎に手を当てて何かを考えているようだった。


「柚ぽんも来てくれるって約束したし、おれも本気でやりたいなぁ」

「えっ、香流来んの?」


 ぼそっと呟いた翔真の言葉に、石田先生がすかさず反応した。


「アイツ在学中一度も文化祭出たことないのに?マジで?」

「そんな学校行ってないのによく俺達には学校行けって言えるなアイツ⋯⋯」


 晃が苦々しく吐き捨てた。晃は学校行きたくないオーラを隠さないもんな。クラスメイトと楽しそうにしてるくせに、何が不満なんだと思ってしまう。

 いや、この思考はいけない。俺は黙って首を振った。


「そっか、良かったなぁ翔真。俺も合間を縫ってお前らのクラス見に行くよ!」

「ほんと!?」

「うん。賢吾と雲雀は難しいかもだけど、俺は学校にいるからね」

「嬉しい!」


 ぴょこんと翔真の犬耳が跳ねた。ぶんぶん尻尾を振ってとってもご機嫌だ。

 翔真から嬉しいが溢れている。石田先生もつられて笑って、前を歩く2人が微笑ましい。


「石田先生と翔真ってちょっと似てるね」

「夏椎が言うならそうなんだろう」

「何その言い方」


 さすがにむっとした。意見の交換をしたいのであって、全面肯定して欲しいわけじゃなかったのに。

 晃はそれ以上何も言わない。俺も黙って隣を歩く。そのまま無言で歩いていると、中高一貫校の校門が見えてきた。


「じゃあ、またな!」


 校門を過ぎると石田先生は右側の高等学校の方へ駆けて行った。途中、高校生達に挨拶されて元気よく挨拶を返している。


「よう、御三方。今日もご機嫌そうだな」


 中学校舎へ向かっている途中、後ろからグルーさんの声が聴こえた。翔真がグルーさんに向かって勢いよく飛び付く。

 

「おはよ、グルー!今日も熊だね!」

「毛並みには自信があるぜ」


 ふふんとグルーさんが熊顎を撫でた。そのまま一緒に中学校舎へ入って靴箱に辿り着くと、今度はえおのさんと(きみ)さんが上靴を出しているところに遭遇する。


「おはよ」

「おっはよーっす!」

「おはよう」


 2人が先に挨拶をして、俺達も挨拶を返す。

 面倒くさそうに頭を下げる晃に向かって、公さんがにまにましながらにじり寄って肩をがしりと組んだ。


「おはよう、えいくらこうくん?」

「⋯⋯はよ」

「朝から元気出して行こうぜぇ!な!えおのちゃん!」

「公くんうるさい」


 鬱陶しそうな晃とえおのさんの視線を受けて、公さんは何故か嬉しそうだ。


「塩対応いい⋯⋯っ!」


 自分の身体を抱きしめてゾクゾクしている公さんを眺めながら、ぼそりとグルーさんが呟いた。

 

「うちのクラスは変なやつばかりなんだ」

「知ってる」


 翔真がすかさず同意した。

 なんと言うか、振り切れた人たちが多いような⋯⋯。俺も口には出さずに小さく頷いた。

 その後ろから、どーん!と誰かが突撃してくる。


「みんな、おはよー!聞いて、今日も歩先輩に会えた!」

「え、」


 抵抗する間もなく、がしりと両脇に手を突っ込まれる。

 真生さんの力は強い。そのままくるくると俺の身体を回し始める。為す術なく回される俺は、どこに焦点を合わせればいいのか分からない。


「夏椎〜!」

「今日の歩先輩も可愛かったー!俺幸せ!」

「おい大型犬、夏椎を離せ」

「まぁまぁ、洗礼を受けたということで」


 下を眺めると、真生さんに食ってかかろうとする晃の肩をぽんぽんと叩いて公さんがケラケラ笑っている。

 グルーさんは他の学年の人たちに頭を下げていた。グルーさん、熊なのに苦労人だな⋯⋯。

 


 ★★★★★



 一通りの授業を終えて、給食の時間。

 3年生のクラスでは慣例となっている円形に並べられた机で給食を食べる。給食を食べるのにわざわざ円を組むのも、このクラスがそれだけ仲が良いということだとグルーさんが嬉しそうに笑っていた。

 今日の給食はご飯、肉豆腐、味噌汁、海藻のサラダだ。

 健康的な食事が用意されているのはありがたい。全員が両手を合わせて、いただきますをする。そんな不思議な光景にも少しずつ慣れてきた。


「そうだ!文化祭どうする?」


 朝からそわそわしていた翔真が、ついに口火を切った。

 ずっと話したそうにしてたもんな。俺はクラスメイトの反応を待つ。間もなく、口々に自由な発言が始まった。


「メイド喫茶!」

「却下。クレープ作りたい」

「あんみつは?」

「ステーキ⋯⋯」

「いや原価高すぎでしょ。かき氷なら原価安く済むよ」


 わいわいと話し合うクラスメイトの話を聞きながら、翔真が静かに考え込んでいる。

 耳を下げて一生懸命な様子が微笑ましい。それだけ香流さんが来てくれるのが嬉しいんだろうな。翔真にとって、香流さんは家族のような立ち位置なのかもしれない。

 

「お化け屋敷は?」


 さくらさんが何気なく提案したお化け屋敷というワードを聞いて、翔真の耳がピンと立った。

 目を輝かせてガタンと椅子から立ち上がる。


「お化け屋敷がいい!」


 手を上げる翔真の尻尾が小刻みに揺れている。キラキラと瞳が輝いて、その表情は期待に満ち溢れていた。

 そんな顔を見せられては、もう誰も他の意見は言えやしない。


「へっ⋯⋯いいぜ翔真、付き合ってやるよ」

「いや、公くん何キャラよ?」


 鼻の下を擦る公さんにすかさず吹雪さんが突っ込んだ。


「それにしても翔真、なんでそんなやる気なの?」

「真生!おれのね、お兄ちゃんじゃないけどお兄ちゃんみたいな人が見に来てくれるの!」

「えっ⋯⋯」


 途端にさくらさんとグルーさんが涙ぐんだ。

 そういえば俺の自己紹介の時にも泣いてたな、この2人。


「良かったねぇ、翔真くん⋯⋯!」

「お前にそんな家族がいたなんて知らなかったぜ⋯⋯」

「家族ではないけどね〜」

「いや、分かってる!」


 グルーさんがびしりと熊の手を突き出した。


「みんな、翔真と翔真のお兄ちゃんのために誠心誠意全力で取り組もうぜ!」

「うん!」


 グルーさんが吠えて、さくらさんが力強く頷く。

 わっと拍手が湧き上がった。それをぽかんと眺める翔真と、無視して黙々と給食を食べる晃の対比が面白い。


「あれぇ?」

 

 翔真は最後まできょとんと首を傾げていた。


 

「ということで、我らが中3部はお化け屋敷にします」


 帰りのHRでグルーさんが西田先生に向かって手を上げて発言した。

 西田先生はひとつ頷いて、クラスメイトの顔を見渡す。


「好きにしな。廃材が欲しけりゃシアルームへ取りに行くんだよ」

「シアルーム?」

「文化祭のために色んな会社が色んな廃材を集めて置いといてくれる場所だよ。B地区のオフィス街にあるんだ」

「くれぐれもA地区には近付くんじゃないよ」


 西田先生が翔真と真生さんを睨みつけた。私語を慎めと暗に言われた大型犬と小型犬は同時に口を押さえる。


「あそこは雑居ビルも入り組んでいるからね。全く、もう少し整備して欲しいもんだよ」

「でも文化祭前は警備してくれるんでしょ?」

「それでも時たまA地区に迷い込んでしまう子もいるんだよ。それを捜しに行くのも面倒だからウロウロするんじゃないよ」


 歯に衣着せぬ言い方をする西田先生を見上げて、クラスメイトは大人しく「はーい」と返事をした。


「じゃあ、気をつけて帰りなよ。話し合いもほどほどにね」


 西田先生はそう言うと、教室を出ていった。

 ガタガタと音を立てて、クラスメイトがいつもの円形に机を並べ始めるので俺もそれに習った。机を動かし終えると、腕を組んだグルーさんが口火を切る。


「夏椎。A地区は無法地帯と言われる場所があるんだ。A地区の奥の奥には、人を食う天使や男を貪るインキュバスがいるらしい」

「俺は臓腑をコレクションしてる鬼がいると聞いたことがあるぞ」


 梓さんが猫の尻尾をゆらゆらと揺らした。

 うぇー、と翔真がドン引きする。


「それでなくてもあそこは欲望の坩堝(るつぼ)だ。18歳未満は立ち入り禁止になっている。大人同伴では入れるみたいだが、攫われても文句は言えない」

「なるほど⋯⋯」


 香流さんが説明を避けるわけだ。A地区へ行くなら自己責任。何が起きても誰も保障はしてくれない。

 アメリカにもある、スラム街のようなものか。スラム街には近付くなと父さんも口酸っぱく言っていた。


「警察もある程度は容認しているしな。行き過ぎた奴は地区長から制裁が加えられるらしいんだが、A地区の地区長とは一体どんな屈強な男なんだろうな」


 俺は、翔真と晃と同時に顔を見合わせる。

 A地区長は男ではなく女で、しかも俺よりも小柄な女性だった。

 翔真がはーいと手を上げる。


「A地区長は女の子だよ。小波(さざなみ)ちゃんって言うの」

「そうなのか!?」

「違う世界線の勇者様なんだって」

「すごい、マンガみたいですね」


 マンガみたいなエルフのエフィネさんが両手を合わせた。そもそもこのクラスメイトにまともな人間はいないし、そこに誰も触れないことを突っ込んでいいのだろうか。


「お前に言われたくねぇだろうよ」


 切り込み隊長、梓さんが突っ込んだ。無類の肉好きエルフは心外そうに胸に手を当ててふんぞり返る。


「わたくしは常識をわきまえていますわよ!」

「どうだか」

「でも、A地区にあると言う異世界料理屋さんには興味ありますわ。魔物の肉なんてとても惹かれますもの」

「絶対行くなよ」


 クラスメイトの声が重なった。エフィネさんはぷくっと頬を膨らませる。


「さすがに法は遵守(じゅんしゅ)しますわよ」

「当たり前だ。お前はシアルームに行くのも禁止だ」

「と言うか、女の子は止めた方がいいんじゃない?俺たち男で⋯⋯」


 真生さんがそう提案すると、翔真と晃が両サイドからぎゅっと俺に寄ってきた。

 2人から行かせるものかという強い意志を感じる。別に構わないのに、どうも攫われるというワードに敏感になってるようだ。


「⋯⋯俺とグルーで行こうか」


 じっと2人に見つめられるのが耐えられなかったのか、真生さんが折れた。うんうんと翔真と晃が頷いている。


「過保護ねぇ」

「まぁまぁ。何年も離れてたんだもん」

「ま、シアルームに行かなくていいなら助かるわ。私は力仕事なんて嫌だもの」

「その代わり、絵付とか衣装とかは担当するね」

「そうね。それくらいならしてあげてもいいわよ」


 雪絵さんとさくらさんが微笑んだ。翔真がハイハイと手を上げる。


「夏椎来日記念に日本のお化け屋敷にしようよ!」

「じゃあ妖怪勢は変化して⋯⋯」

「それはダメ」


 真生さんが言うと、雪絵さん、公さん、梓さんの妖怪3人組が高速でナイナイと手を振った。

 そして、じとりと吹雪さんを睨みつける。


「コイツの変化きっついもの」

「マジで公害レベル」

「吹雪は着ぐるみとかでいいんじゃね?」

「あんまりな総ディスり!」


 がーんとショックを受ける吹雪さんにも折れず、3人は意見を曲げずにまたナイナイと首を振っていた。

 そんな4人のやり取りを眺めている俺に、翔真がこそっと耳打ちする。


「雪絵ちゃんも妖怪(こく)の同じ里出身なんだって。幼なじみなんだよ、あの4人」

「妖怪の国があるんだ⋯⋯」

「おれも吹雪くんの変化は見たことないんだよね。どんななんだろ」


 翔真が首を傾げて言った。

 妖怪達が住んでいるのは、香流さんの言う『異界』と言う存在になるのかな。日本由来だから、ある意味日本人に該当する?

 やいやいと言い争う幼なじみ4人は、遠慮もなく楽しそうに見えた。同じ昔からの付き合いでも、俺達とは違う。

 翔真は軽口を叩いてくれるけど。

 晃は俺の言うことを否定もしなければ意見もしない。

 今朝だって、「夏椎が言うならそうなんだろう」なんて。まるで話の内容なんて興味が無いような言い方だと感じてしまった。

 正直、嫌だった。

 でも、何が嫌だったのか言葉にする(すべ)を俺は持たない。

 きっと、これも人付き合いを避けてきた結果だ。ぼんやりと4人を見つめている内にどうやら話が(まと)まったようで、クラスメイトが席を立ち始めたのを見て俺ははっと我に返る。


「じゃあ、明日から準備開始だ!」

「おー!」


 張り切って拳を突き上げるクラスメイトの輪の中に、俺は入れない。

 もやもやと沈殿(ちんでん)するほの暗い何かを理解出来ないまま、俺もカバンを持って席を立った。

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