白兎事件編4(特訓開始!)
脳筋柚木さんは教えるのがとても下手くそですが、なぜか自信たっぷりです。
(夏椎)
朝から香流さんに会えた翔真は学校に着いてからも上機嫌で、ニコニコ笑顔のままクラスに突撃して行った。
「おっはよー!」
「おはよう、翔真!」
犬仲間の真生さんが翔真を受け止める。真生さんは大型犬らしく背が高く、中学生には見えない体格をしているので小型犬の翔真は軽々と抱き上げられた。
「聞いて真生!」
「聞いて翔真!」
「朝から柚ぽんが来てくれたんだよ!」
「朝から歩先輩に会えたんだ!」
「「幸せ!」」
そのまま2人してくるくる回り出す。
俺がぽかんとしていると、後ろからグルーさんがひょっこりと顔を出した。朝からリアルな熊を見て反射的に肩が竦んでしまう。
「おはよう、夏椎。アレは恒例行事だから気にするな」
「おはよう⋯。恒例行事?」
「真生はひとつ学年上の先輩に片思いしているんだ。で、朝から待ち伏せして会えたらいつもアレ」
「アレ⋯」
「夏椎もいつか回されるかもな」
グルーさんが野太い笑い声をあげた。見た目にそぐわず陽気な熊さんだ。
「晃も回されたことあるの?」
「ある」
「⋯ちょっと見たいかも」
俺が笑っていると、晃は困ったような顔をした。そうこうしている間に真生さんのくるくるが止まる。
「今日も歩先輩は可憐で小さかった⋯。思い出すだけで動機で死にそう」
「真生は本当に歩先輩の事が好きだねー」
「小さくて目が大きくて胸が大きくて好みのタイプど真ん中なんだもん!絶対俺の星に連れて帰るんだ」
一息で言った。真生さんは犬らしく欲望に忠実だ。
「胸とか言うなよ。女の子の魅力はそこだけじゃないだろ」
「そこだけじゃないのは重々承知の上で俺は大きいのが好き!」
グルーさんの注意も何のその。真生さんは訂正するつもりもないようで、恋に一途に一直線だ。
渋い顔をするグルーさんと、きょとんとしている俺達に目もくれず真生さんは生き生きと力説する。
「良いか思春期男子達よ!谷間にはロマンがある!走ると揺れるあの姿は至高の極み!俺が脇から支えてあげたい」
「朝から何の話してんだよ」
スパーン!といい音を立てて真生さんの頭が叩かれた。
見上げると、机の上に乗った梓さんが巨大なハリセンを肩に担ぎあげていた。猫耳が後ろに反り返り、ものすごく眉間に皺を寄せている。
「痛いよ梓ぁ」
「朝っぱらから盛ってるからだろ。転校生ドン引きさせんな」
「夏椎はどっちがいい?」
「だーから距離感近いっつの!俺は貧乳派!」
またスパーンと真生さんの後頭部が叩かれた。
俺は何とも言えなくて苦笑いする事しか出来ない。どっちがいいと聞かれてもあんまり興味がないとしか答えられない。
俺は黙って自分の席に着いた。翔真もやって来て一緒に1限目の準備を始める。
「あんたら廊下まで響いてたわよ」
「おはよう〜」
呆れ顔の雪絵さんと、朗らかに笑うさくらさんも教室に入ってきた。
「ちなみに私は巨乳派よ」
「さくらは美乳派だよ」
「何でお前らが参戦するんだよ」
グルーさんが突っ込みを入れた。このクラス、やっぱりどこか変だ。ノらないといけない決まり事でもあるのだろうか。
わいわいと朝から猥談を始める中学3年生。
仲がいいのはいいんだけど、それでいいのか中学3年生。
俺は香流さんを呼んでいいものかどうか若干不安になった。
父さんのスパルタ実践教育を受けてきた俺は、同年代の子どもよりは多少動けることを自負している。
ドッヂボールは最後まで残り、翔真と並走し、サッカーはクラスメイトの隙間を縫ってゴールまで向かう。
人外ばかりのクラスメイトとは言え、人型の動きは良く見える。ゴールを決めると、背後から拍手をもらった。
「夏椎すげー!」
「本当に人間!?」
公さんにそう言われ、俺はぎくりと身体を硬直させる。
人間⋯⋯ではない。けれど、外見は人間そのもので、香流さんが言うには匂いもほぼ人間だと言う。
押し黙る俺を見て、翔真が「人間だよ!」と代わりに答えてくれた。
そうだ、クラスメイトどころか翔真と晃にすら俺の正体を言えていないじゃないか。
2人とも、俺の事を普通の人間だと思っているなら。
せめて2人にだけでも、きちんと説明しなければならない。
これからも友達でいて欲しいなら、あの時のことも話す必要がある。10年前、俺達に起きた『白い光』のことを。
俺は無意識に拳を握りしめていた。
★★★★★
それからは人間の身体能力の話にはならず、俺は人知れずほっとしていた。
2人に話さないのに、クラスメイトに先に話すのは違うと思ったからだ。自分だったら2人に黙られているのは悲しいと思う。
でも、どう言えばいい?
どう切り出せば自然に話せる?
ぐるぐる考えてはうーん、と悩む。父さんとマネージャーさん以外の人付き合いのなかった10年間が悔やまれる。
もしかして俺、コミュ障なのかな。
それに気付いたところでだから何だって話だ。結局そのまま答えは出ず、気付けば放課後になってしまっていた。
「お帰り」
今日も門の前で黛さんが出迎えてくれた。
香流さんと同じく、黛さんも私服だ。Gジャンと黒のスラックスで立っていると、警察官と言うよりも大学生のお兄さんに見える。
翔真は黛さんを見つけるなりいつも通り子犬のように飛びついた。
「ひばりん!」
「今日も学校行って偉かったなぁ、翔真」
「うん!」
後ろから見る翔真の尻尾が千切れんばかりに揺れている。
「警察官は暇なのか?」
「暇ではないけど、ずっとパソコンの前に座ってたら時々香流に動けって追い出されるんだよ。まぁ〜、B地区の見回りも兼ねてるからいいんだけどねぇ」
晃の悪態に黛さんはおじいさんみたいに自分の肩を叩きながら答えた。渋い顔をしながら叩いているので、肩が凝っているようだ。
「ひばりん肩痛いの?」
「朝から万引きやら不審者やら通報が相次いでずっとパソコン見てたからなぁ⋯⋯」
「柚ぽんは今警察庁?」
「多分ね。お前らが来るの分かってるし流石にうろちょろしないでしょ」
黛さんは、はは、と乾いた笑みを零した。
黛さんは子どもの香流さんを前にした時以外は普通の優しいお兄さんだ。雰囲気も柔らかく、受け答えもしっかりしている。
ただ、俺は見てしまっている。柚姫さんと、子どもの香流さんを前にしたあの黛さんの姿を。
昨日から普通にやり取りのできる黛さんは違和感しかない。じっと見上げていると、黛さんは眉を顰めて俺を見下ろしてきた。
「なに?」
「いや、香流さんを前にした黛さんとあまりに違うので本人かどうか疑わしくなって」
「誠に遺憾」
学校であった他愛のない話をして、特にトラブルもなく警察庁へ帰ってきた。
玄関ホールを抜けると、1階の強面の警察官達が頭を下げる。黛さんはひらひらと手を振った。いつ見てもやっぱり不思議な光景だ。
「地区長さんって偉い立場なんですね」
「まぁ偉くしとかなきゃ俺の言うことなんて誰も聞いてくれないからねぇ。俺はただの人間だから」
「ただの人間⋯⋯」
俺はこの人のことをあまり詳しくは知らないけれど、この島の警察庁でただの人間が地区長なんか務まるのだろうか。
登校中、川崎さんと石田先生に黛さんの話をしたら「アイツは人間離れしてるから」と一蹴された。
そうでなければ脳筋ふたりと肩を並べて働くことなんか出来ない。口を揃える2人に苦笑いしか出来なかったけど、確かにそれはそうだと思う。
ここの統制システムも、全て黛さんが作り上げたと言う。そんな人が何がどうして人外の住む島で警察官をやっているのか、俺には不思議でならなかった。
「ただいまー」
「あぁ、おかえり」
黛さんがカードキーを通して屋上の扉を開けると、中には私服のままの香流さんが女の人達と待っていた。
香流さんを含めて、誰も彼も人間離れした整った容貌と容姿をしていて、香流さんの側にニコニコしながら立っている。
白と黒が合わさった虎耳のボブヘアーの女性。
大きな蛇を肩に巻いた、長身の浅黒い肌をしたドレッドヘアーの女性。
腰まで伸びた青いストレートヘアーの細目の女性。
三つ編みをリボンのように巻いた赤毛の女性。
「神獣達をここに呼ぶなんて珍しい」
「教えるのは俺より慣れてるからな。適材適所だよ」
「主が褒めてくれた⋯⋯!」
「全力で応えねば」
白虎さんと玄武さんが目を輝かせている。神獣、ということは青い女性は青龍、赤い女性は朱雀なのかな。
ファンタジーの世界の生き物にソワソワしてしまう。本当に神獣はみんな女の人なんだ。それにしても神獣に主と呼ばれているなんて、香流さんはすごい人だ。
「主様、私子どもは苦手でしてよ」
「せっかく人型になったんだから遊びに行きたかったなぁ」
青龍さんと朱雀さんが各々不満を口にした。香流さんは呆れた顔を2人に返す。
「今日はこのままにしておいてやるから、終わったら好きにしろ」
「じゃあ撫でて下さい」
「あたしも!」
「却下」
香流さんは一言でぶった切った。ぶーぶー文句を言う神獣達を振り返りもせず俺達の前に進んで来ると、にやりと不敵な笑みを浮かべる。
「さぁて、特訓するか」
「特訓って神獣さん達と?」
「いいや。とりあえず翔真、晃。まずは俺に一撃入れてみろよ」
俺達の前に立った香流さんは、武器と呼べるものを何も持っていない。
あまりにも無防備だ。翔真と晃は顔を見合わせる。
「いや⋯⋯」
「ボコボコになっちゃうよ?」
「お前らの悪いところはまずそこだな。今まで何とかなってきてるから変な自信がついちまってる」
変な自信、と言われて晃が分かりやすくむっとした。
無言で影を走らせて、背後から香流さんを捉えようと広く展開させる。
香流さんは歩くように前へ出た。
「夏椎、術師を叩くなら必ず本体からだ」
いつの間にか近くまで来ていた香流さんは、晃の真下から掌底を顎に添える。
歩いていたはずじゃ?俺は目を瞬かせた。晃は身動き出来ずに固まってしまっている。
「大抵の術師は自分に術は当てられない」
硬直したままの晃の肩をぽんと叩いて、香流さんは翔真を手招きする。
「さ、次は翔真。来い」
「えっ⋯⋯」
「無理ならいい。お前は身内に攻撃するのは無理そうだもんな」
翔真が瞬きする間に、香流さんは翔真の後ろに立っていた。
速い。速すぎる。動作が見えない。
まるで魔法でも使っているようだ。
「犬の視界は人間より広い。でも後ろや真下は見ることは不可能だ。獣人は死角から対処する」
「は、速くない!?」
「視線の位置から翔真の死角を通ってきただけだ」
さらりと言ってるけど、それって誰でも出来ることなのかな?
言ってることが無茶苦茶だ。薄々感じていたことだけど、この人教えるの下手なんじゃないだろうか。どこか満足げな顔が可愛くて妙に腹立たしい。
「戦闘の中では判断が遅れると死ぬ場面なんていくらでもあるぞ。夏椎を守りたいなら強くならなきゃな。そのための特訓だよ」
香流さんは神獣達の元へ歩いていく。
一切の足音が聴こえない。すごい。忍者みたいだ。瞬間移動みたいで格好いい。
香流さんを見る翔真がキラキラと目を輝かせている。
「うーん、やっぱり森谷の言う通り俺じゃ特訓にならねぇな。翔真は白虎。晃は朱雀。出来るだけ怪我させるなよ」
「柚ぽん!?」
「ひゃ〜!塩梅が難し〜!」
「主ぃ〜頑張るからなでなでだめ?」
「1回だけな」
腕に絡みつく朱雀さんを撫でてあげている香流さんは何だかんだで優しい人だ。途端に燃え上がる朱雀さんを横目にして、白虎さんと青龍さんがうるうるした瞳で香流さんを穴が空くほど見つめている。
「あーもうめんどくせぇなお前ら!終わったら全員1回ずつ撫でてやる!」
「いやったぁー!」
神獣達がぴょこぴょこ飛び上がった。今から特訓すると言うのになんてほのぼのとしたワンシーンだ。
「玄武と青龍は夏椎だ。夏椎は対人戦に慣れてるから、2人がかりでいい」
「え」
「術に慣れたら神獣に戻す。あぁ、ちなみに夏椎。武器は禁止するからお前の能力をしっかり使えよ」
「あの、俺まだ2人に言えてない」
「どうせ見てる暇なんてねぇよ。さ、始め〜」
「香流さんのスパルタ!」
雑に手を叩かれ、神獣達が動き出す。
やらねばやられる。慌てて俺達も臨戦態勢に入った。
(柚木)
始まった特訓を横目に、俺はまゆの元へ歩いていく。まゆは特訓光景を眺めながら呆気にとられたように固まっていた。
「まゆ、怪我するから引っ込んどけ」
「お前⋯⋯また森谷さんに怒られるぞ」
「森谷が四神を使えって言ったんだよ。俺じゃアイツらを攻撃出来ねぇだろってさ」
「あぁ⋯⋯」
「怪我させないように攻撃する技でもあればいいんだけどなー。愛敬みたいに魔法使いてぇー」
なんかこう、攻撃しました!けど当たりません!みたいな技が欲しい。そしたら俺も一緒に特訓できるのに。
「翔真、前だけ見てたら後ろから来るぞー。ちゃんと後ろにも気を配っとけ。晃、ちゃんと焦点を絞れ。近付かせないようにするにはどうしたらいいか考えろ。夏椎は早く武器を出せ」
「ねえ、お前はアホなの?」
「アドバイスしてるのに!?」
「いやそれで体得出来たら⋯⋯、まぁいいや。俺仕事に戻るね⋯⋯」
何か言いたげな顔をして、まゆは屋上から出て行った。
子ども達の動きが止まった。
崩れ落ちてゼェハァと肩で息をする子ども達には傷ひとつついていない。良かった、夏椎が怪我したらやばいもんが出てくるかと思ったけど杞憂で終わったな。俺は内心ほっとする。
「お前ら、すごいな」
「いい塩梅でしょ!」
えっへん!と白虎が胸を張った。
「賢吾に後で連れてくかもって連絡してたのに」
「えっ、ボコボコにした方が良かった?」
「いや。お前らの加減の上手さに驚いただけだ。偉かったな」
今度は四神達が崩れ落ちていく。俺は何もしてないのに、何故。
「主が、主が笑った⋯⋯!」
「カメラはどこですの!?」
「もう召されてもいい」
「玄武、気を確かに!」
ちょっと褒めただけでうるせぇ。これだから神獣を使うのはめんどくさい。
けどまぁ、森谷の思いつきにしては理にかなっている。
朱雀は飛行するので晃の影と相性が悪い。
白虎は翔真よりも速くトリッキーな動きで動体視力が鍛えられそうだ。
玄武と青龍は術を使うので四方からの回避術を身につけないと、夏椎の得意な攻撃に転じることは出来ない。
しかも四神は攻撃を一切当てていない。これはすごい。攻撃を当てないということは高次の存在に気を使わなくていいってことだもんな!
「うん、丁度いいな」
「丁度いくないよ!立てないんだけど!」
口だけで翔真が反論してきた。
「下位の魔族程度で満足してるお前らが悪いんだろ。夏椎を守りたいならちゃんと力量を誤るなってことだ」
「うー⋯」
翔真はまだ不服そうだ。まぁ、確かにきちんと対処法を伝えずに始めたのは良くなかったかもしれないな。
なるほど、まゆが言いたかったのはそういうことか。習うより慣れろだと思ってたけれど、それだけじゃダメってことだな、きっと!
俺は少し考えた後、いい事を閃いた。
「仕方ねぇなぁ。お手本を見せてやる。お前ら、全員でかかって来い」
俺は四神の前に立った。
四神は静かに跪く。俺はそんなこと望んでいない。黙って首を振ってから、口を開いて言葉にマナを乗せた。
「―――殺しに来いって言ってんだ」
瞬間、爆ぜる。四神は地球由来の神だ。俺の命令には逆らえない。
「多人数の場合でも必ず術師から叩く」
青龍は木の属性を持つ。コンクリートを割って生えてくる尖った木を盾にしながら白虎の猛攻をいなす。
生えてくる点は先端で分かる。そこから垂直。避けた先に朱雀の羽が飛んでくると踏んで、先端を中心に回転する。玄武の行動を目視。
「速い相手はむしろ利用するつもりでいけ」
白虎のスピードは速い。速い分上手く使えばこちらの利になる。
突き出してくる爪を掴んで、反動で青龍に向かって投げ飛ばす。寸前で白虎が回転し、青龍の目の前で着地した。
着地に気を取られている隙に、スライディングの要領で青龍の足を弾く。そのまま白虎の足を掴んで、起き上がる反動を利用して青龍の顎に蹴りを入れた。
次に白虎の足から手を離すと、手をついて回転しながら立ち上がる。足元に水。玄武が割れた地面から術を顕現させる。
白虎がこちらへ向かってくる。素直な白虎の軌道は読みやすい。背中を添わせるように避けて、踏み台として利用させてもらう。
跳躍の後、羽が飛んで来るのを受け止める。朱雀の羽は硬い。本来なら火羽のはずだけど、水術を使う玄武がいるから火は使えない。
「返す」
羽は朱雀へ投げ返した。朱雀が避けた先に回り込んで、叩き落とすように首元にかかと落としをくらわせる。
朱雀の落下地点に白虎がいる。どん、と音がしたと同時に水がうねりをあげて激流をつくった。
残念、そこに俺はもういない。
「これで終いだ」
青龍の木術から作られた木片を、真正面から玄武の首元に突きつける。
ふ、と玄武の力が抜けた。そのままものすごい力で抱きしめられる。普通に痛い。ごつごつした筋肉がすごく痛い。
「主!」
「バカぁ!」
「ひどいですわ!」
「何だよ、手加減してやっただろ」
「「そっちじゃない!!」」ですわ!」
玄武ごとぎゅうぎゅうに詰め込まれて身動きが取れない!うざい!重い!苦しい!
「うぜぇぇ!一旦戻れ!」
与えたマナを一気に回収して四神を元に戻す。尾に炎を灯した火の鳥、青色の龍、白い虎が俺の周りに現れた。
《命を粗末にするなと口酸っぱく言われているでしょうが!》
《わたくし達に主を襲わせるなんて酷いですわ!》
《うわーん!主のバカバカー!》
鬱陶しい状況には変わりなくても、獣の方が人型よりは密着度がはるかにマシだ。
玄武だけは人型を保つのに俺のマナを使用しないので、今も人型を保っている。さすが神獣の長と言われるだけあって、ものすごく力が強い。流石にここから抜け出すのは俺でも不可能だ。
「⋯⋯悪かったよ。もうしねぇから」
そう言えば四神とやり合ったのは久しぶりだ。
玄武以外はすぐに攻撃に転じていたのに、玄武は術式を展開させるのに時間がかかっていた。俺の命令に抵抗していたように見えたのは気のせいじゃなかったのか。
地球上の生物が俺の命令に反するのはこれで2度目だ。
「偉い偉い〜」
何となく嬉しくなって、背の高い玄武の頭を背伸びして撫でてやる。
ようやく玄武の手が離れた。すかさず白虎が懐に突撃してくる。同じように撫でて、青龍と朱雀も手招きしてよしよしと撫でくりまわす。
やっぱり四神は動物形態がいい。ひとしきり撫でてやった後、俺は動けない3人組へ目を向けた。
「これで次から出来るだろ?」
自信たっぷりに言ったのに、子ども達の視線は冷ややかだった。
「無理です」
「何してるかさっぱり分かんなかったんだけど」
「気付いたらバタバタ倒れてた」
「⋯⋯何で?」
「何でと言われても⋯⋯」
本気で不思議そうな柚木を、黛が遠くから突っ込んでくれる。
この子はアホなのかな?と⋯⋯。




