A地区編1(転校生)
(夏椎)
「転校生⋯⋯ですか?」
スマホの電話をスピーカーモードにして、テーブルの上に置く。
畳の部屋の一角、勉強スペースのために宛てがわれた長机は広く、3人で座ってもかなり余裕がある。
俺を中心に、翔真と晃はスマホの声が聴こえるよう俺に体を寄せている。翔真の犬耳がぴこぴこと揺れて、尻尾が左右に振れているのは嬉しいからだ。
もう夜なので布団を敷いて、ジローさんこと治郎丸さんが用意してくれた甚平に着替えて今から眠るところだった。時刻は夜の9時。香流さんが電話をかけてくるには珍しく遅い時間だ。
「今日まゆが現世でトラブルに巻き込まれてる子どもを助けたんだけど、中学3年生なんだって。現世に戻りたくないって言ってるから、お前らに任せようかと思って⋯⋯」
「任されるよ!おれは警察官だからね!」
はいはいと翔真が手を上げる。
見えてないけど、ふんふんとやる気満々の翔真の気配は伝わったのか電話越しの声が笑っている。電話越しの声はとても澄んでいて、まるで香流さんじゃないみたいだ。
俺達は今、妖怪の國に居候させてもらっている。
『白百合の純潔』事件の最中、翔真の家が破壊され(主に後先考えない味方のせい)、家が復興するまでの期限付きでお世話になることになった。
電話の相手は、現在俺達の保護者をしてくれている警察官だ。子どもだったり男の人だったり女の子だったり忙しい人で、どの姿も顔は同じだけど本人だけが違うと主張していて、みんなに生暖かい瞳で見守られているどこか抜けた優しい人。
今は女の子なのか子どもの姿なのか。姿は見えないけど、声の感じがとても可愛らしいので何となく子どもなのかなと想像する。
「普通の人間なんだけど、任せて大丈夫か?」
普通の人間。そう言われ、俺達は顔を見合せた。
俺は人間のガワをしているけれど、中身は異界の混血。
翔真は犬人間。
晃は分類は魔族に該当する。
純粋な人間は中3部にはいない。みんな人間を襲うような人たちではないけれど、確かに少し不安はある。
「『迷い子のシルシ』は付けるんですか?」
「子どもだからなぁ⋯⋯。出来れば選択肢は残しておいてやりたいんだよ」
魔族に喰われないようにするための措置、『迷い子のシルシ』を付けられた人間はもう現世へ戻れない。
現世で死亡扱いとされるからだ。確かに、まだ中学校なんだしこれから大学へ行ったり、就職したりと現世へ戻りたいと考えが変わるかもしれない。
「今はどこに住んでるんですか?」
「とりあえず今日はうちに泊まってもらってる。中川もいるから安全だろ」
「やっほー」
大食らい天使の可愛らしい声がした。
「健太郎、話す?」
「えっ!?あ、はい」
そして無茶ぶりをしている。俺の想像は外れたらしい。香流さんは知られている人以外の前で子どもの姿にはならないからだ。
ということは、あの人は女の子の姿で中学3年生男子の前にいるのか⋯⋯。
一気に翔真と晃の顔が険しくなる。
「香流お兄ちゃん、ちゃんと下着つけてる?」
「付けてるよ」
「と言うかなんでお前は家なのに男に戻ってないんだ」
「慣れようかと思って⋯⋯」
「慣れる必要ないから早く戻って(戻れ)」
翔真と晃の声が重なった。
「はい、ごめんなさい⋯⋯」
素直な保護者モドキはしょんぼりした声で離れていく。こうして、恐らく電話の前には中川さんと健太郎と言う男の子ふたりになってしまった。
「柚木が行ったしビデオ通話にするね」
中川さんが気を利かせてビデオ通話に切り替えた。こちらもスマホを立てて、3人が映るように調整する。
画面に映ったのは、中川さんと同じくらいの背丈の優しそうな男の子だった。
明るい茶髪に、アイドルみたいな整った顔。イケメン好きの雪絵さんが騒ぎそうだ。
「あの、飯塚健太郎と言います」
飯塚さんは深々と頭を下げた。
礼儀正しい人だ。思わず俺達も同じように頭を下げる。
「俺は志賀夏椎です」
「おれは柚木翔真です!」
「⋯⋯永倉晃」
「飯塚さんは、俺達と同じ中学3年生なんですよね」
「あっ、はい」
何故か俺が尋問するような形になってしまっている。
そんなに畏まられても。戸惑っていると、黒髪の男の人になった香流さんが戻ってきた。珍しく真っ赤なジャージ姿で、派手な色だけど顔が可愛すぎるから不思議と似合っている。
「香流お兄ちゃん!ジャージ!!」
「うわ、びっくりした。木戸が買ってくれたやつだけど、派手じゃない?」
「派手過ぎるから脱いだら?」
「お前には似合わん」
翔真と晃はとても分かりやすい。にべもなく否定され、香流さんはちょっとショックを受けているけど脱ごうとはしなかった。
「どうせ女顔だよ⋯⋯」
どうやら女顔だから男らしい格好が似合ってないと否定されたと勘違いしているようだ。
飯塚さんはちょっとびっくりした様子で香流さんを見上げている。あ、この人絶対説明してないな。俺はため息をついた。
「飯塚さん、その人は男の人なんですけど、魔法の力で女の子にもなれる特殊体質なんです」
「あ、男の人!?急に髪切ったのかと思った!」
顔同じだもんなぁ。
俺と翔真と晃の心の声がシンクロするのを感じる。中川さんが隣でふふっと堪えきれない笑みを零した。
「なぁお前ら、明日暇?」
「特に用事はありませんよ」
「香流お兄ちゃんも暇!?」
「俺は明日柳瀬の家に行くから、暇ではない」
「ちゃんとその姿で行くんですよ」
「ジャージは脱いでね」
「ちゃんとした男の格好で行けよ」
「ねぇ、どっちが保護者なの?」
中川さんが笑っている。香流さんは不服そうな顔で眉間に皺を寄せて黙り込んだ。いや、不服なのはこちらの方ですよ。
「俺も柳瀬のとこ行くから、健太郎くんが学校へ通うたための準備手伝ってあげてくれない?」
むすっとした香流さんの代わりに、中川さんが説明を始めた。概ね予想通りの提案に俺は頷く。
「明日は黛くんが付いてきてくれる予定だから」
「あぁ、黛さんが飯塚さんを連れてきたって言ってましたもんね」
「正確には、助けてもらったんです」
飯塚さんが訂正を入れた。へぇ、と翔真がまた尻尾を揺らす。
「明日いっぱいお話しようね!」
「は、はい」
「ねぇ、もっと普通に話そうよ!おれ健太郎と友達になりたい!」
距離の詰め方が早い。
アリアスさんにはなかった俊敏さは同性故か。いきなり友達になろうと誘われて、飯塚さんは照れたようにはにかんだ。
「うん、⋯⋯よろしくね」
「香流お兄ちゃん、おれ弟としてしっかり健太郎の守護するからね!」
「お前らには実績があるからな。信頼してるよ」
こちらも立ち直りが早い。香流さんのいいところは素直で単純なところだ。でも、素直で単純だからこそ悪い大人に騙されがちなので気をつけて欲しい。
「明日、警察庁の前で待ち合わせましょうか。何時にしますか?」
「夏椎も敬語ダメだよ!友達!」
「あ、うん⋯⋯ごめん」
「店が開くのが10時だからそれくらいか?昼ごはん用意しとくから、俺の家に帰っていいよ。健太郎に鍵預けとくから、そのまま翔真が預かっといて」
「はぁー!?やったぁー!!」
翔真の尻尾が千切れそうだ。もうすぐ改装で入れなくなるとは言え、合鍵は嬉しいよね。何だか俺もほっこりする。
「肉がいい」
「じゃあからあげ作っておくよ。後は適当に置いてある副菜使って」
「はぁーい!」
こうして、明日の予定は俺達の仕事となった。
アリアスさんに引き続き、香流さんに頼ってもらえることはとても嬉しいことだ。俺達は高揚した気持ちのまま、布団に潜り込んだ。
警察庁へ向かうと、玄関先に香流さんと中川さんと黛さんに並んで飯塚さんが立っていた。
香流さんより少しだけ背が高い。スポーツマンのような体格と、爽やかな顔立ちでオシャレな服が様になっている。
「鴫くんには感謝だねぇ」
「香流の服は軒並みキツかったもんな」
「悪かったな!」
なんか保護者が責められている。近付くと、香流さんはすぐに気付いて手を振った。隣の翔真が全速力で駆けていく。
「ちゃんと男の子だね!」
「男の人、だろ」
飛びついてくる翔真を受け止めて、香流さんは呆れ顔で翔真の頭を撫でた。
昨日言った通り、ちゃんと黒髪の男の人の姿だ。晃も隣で安堵した表情を浮かべていた。
「じゃあ、健太郎のことよろしくな。明日から学校行けるようにしておけよ」
「うん、任せて!」
「夜までには帰るから」
香流さんと中川さんは並んで警察庁から離れていった。
歩いて行くのかなと思えば、白い小鳥が飛んできて巨大化する。飯塚さんが隣でびっくりしていた。なんだか反応が新鮮で懐かしい。
香流さんと中川さんは何か話しながら、ルフの上に乗って飛び去っていった。仲良しだなぁ、あのふたりは。並んでいると女の人同士にしか見えないけど⋯⋯。
「必要なもんリストアップ出来た?」
黛さんが飯塚さんに尋ねると、飯塚さんはポケットからメモ用紙を取り出した。
スマホ、ないのかな。見上げていると、飯塚さんは小首を傾げる。
「えっと、志賀くん」
「夏椎でいいですよ。みんな名前で呼ぶので」
「夏椎、敬語」
「⋯⋯夏椎でいいよ。よろしくね、健太郎」
名前を呼ぶと、健太郎は嬉しそうに綻んだ。
翔真が健太郎に飛びつく。距離が近い。ポメラニアンの距離感を人間に持ち出して大丈夫だろうか。
「おれは翔真だよ!覚えた!?」
「翔真ね。柚木さんから聞いて覚えたよ」
あ、大丈夫そうだ。礼儀正しいけど、案外懐っこい人なのかもしれない。
「もうひとりは、晃」
「合ってる」
「俺友達いなかったから、名前で呼んでもらえて嬉しいよ」
何だか意外だ。健太郎いい人そうなのに。
そして一気に親近感が湧いた。人との関わりを避けていたのは俺も同じだ。単純だけど、健太郎とは仲良くなれそうな気がする。
「ひばりん、日中に外に出て大丈夫?溶けない?」
「俺はスライムかな?大丈夫だよ、これも仕事のうちだからね」
黛さんは俺達の前を歩き始めた。健太郎の手を引いて歩き出す翔真を微笑ましく眺めながら、俺と晃も後をついて行く。
ニールへ辿り着いて、色んなお店を巡る。
本屋で文房具を揃えて、
服屋で衣服を買って、
電気屋に入ると、健太郎がじっとスマホを眺めていた。
「健太郎、スマホ珍しい?」
「母さんが、高校生にならないと持っちゃダメって言ってたから持ったことないんだ」
なるほど、だからメモ帳か。
それにしても、母親がいるんだ。いや、いたのか?
「健太郎のお母さんはどこにいるの?」
翔真はどストレートに尋ねた。俺も黛さんも苦笑いしか出来ない。
「ついこの間死んだよ」
意外にも健太郎は平然と答えた。
健太郎は静かな声で、翔真に柔らかく微笑みかける。
「自殺したんだ」
買い物を終えて、香流さんの家の前に着いた俺達は黛さんと一旦別れた。
重い告白を受けたあとも、翔真は普段と変わらず明るく接していた。ポメラニアンの翔真には、自殺と言う言葉がピンときていないのかもしれない。
香流さんの家は、前に来た時と比べて物が増えている。
テーブルの上は何もないけど、寝室にはテレビとリモコンが並べられている。ベッドは綺麗に整えられて、キッチンの上に『冷蔵庫にご飯!』と香流さんらしい字でメモが残されている。
「ご飯温めるね」
俺は言って、冷蔵庫を開けた。大皿に乗ったからあげと、サラダ、そして小鍋に入った味噌汁が並べられている。
翔真はスマホを出して、クラスメイトの紹介をしていた。気付けば晃は俺の隣にいて、お皿を出してくれている。
「お米頼める?」
「分かった」
ふたりで準備をすると出来上がりも早い。食事をテーブルへ並べて、全員座ったところで翔真が手を合わせた。
「いただきまーす!」
勢いよく食べ始める翔真が微笑ましい。俺は翔真の隣に座る健太郎へ視線を向けた。
「俺も母親はいないよ」
「俺も親はいない」
俺に続いて、晃が口を開く。
健太郎は丸い目を見開いた。
「そ、そうなんだ」
「父親はいるんだけどね」
「そうそう、龍司さん、俳優さんなんだよ!」
からあげを頬張った翔真がすかさずカミングアウトする。
まぁ、いいんだけど。苦笑いしている俺を見て、健太郎は身を乗り出した。
「龍司って、志賀龍司!?」
「あ、うん⋯⋯」
「すごいな!俺『ブラック・メン』見たよ!」
「ありがとう」
父さんの映画を見てくれていたことは素直に嬉しい。健太郎ははぁーと声を零して、また座り直した。
「そっか、⋯⋯そうなんだ」
俺達が首を傾げると、健太郎は改まったように頭を下げた。
そして、ゆっくりと顔を上げる。強い瞳が、さっきまでの柔和な健太郎の雰囲気を変えたようだ。
「俺の父親は、総理大臣だったんだ」
「⋯⋯だった、ってことは⋯」
俺は最近見た動画サイトを思い出す。
翔真と晃には見せていない。明らかに人の手ではない、魔法のように消し去られた現総理大臣の姿は瞬く間にSNSで拡散された。
犯人と思わしき警察庁の男は、姿を眩ませていると言う。健太郎は、大きく頷いた。
「畑中宗太郎は、俺の父親なんだ。俺はいわゆる隠し子で、ずっと関わりもなかったから気に留めてなかったんだけど⋯⋯。あの人が死んだことで、俺にも遺産相続の権利があると急に言われて。それでマスコミの人に追いかけられて、母さんが病んでしまって⋯⋯」
「それで、自殺⋯⋯?」
「もともと精神の弱い人だったんだけど、追い討ちだったみたい。しょっちゅうヒステリック起こすから心配してたけど、決断は早かったなぁ」
なんだか、静かな口調で語る健太郎はまるで他人事のようだ。
「⋯⋯正直、せいせいしてる自分もいる。こんなこと思っちゃいけないんだろうけど⋯⋯」
「いや、健太郎は正常だ」
晃がキッパリと言い切った。
晃の母親は育児放棄をしていたような親だった。晃にとっての親のような存在は香流さんで、今は反抗期だけどいつも気にかけているのを俺は知っている。
「親だからって何をしても許されるわけじゃない。死ぬことを決断したのは母親であって、健太郎が気に病むことはない。清々しい気持ちでいればいい」
「いや、まぁ悲しいのは悲しいんだけどね」
健太郎は苦笑いして、晃に手を伸ばした。
晃は健太郎の手を取る。俺と翔真は顔を見合せた。
「まさか肯定されるとは思わなかった」
「お互い様だ」
晃に心を許せる友達が出来た⋯⋯!
俺の心の中は拍手喝采だ。翔真もうんうんと頷いていた。幼なじみとして、何だか妙な嬉しさと寂しさが混在している。
「総理大臣だったらお金持ってるんじゃないの?遺産相続しないの?」
翔真が聞くと、健太郎は困ったような顔で首を振った。
「関わりのなかった人のお金をもらうわけにはいかないよ。俺は関係ないってそう言ったんだけど、父親の奥さんがめちゃくちゃキレてて話にならなくて⋯⋯」
「た、大変だね⋯⋯」
「大変だったんだよ。家には落書きされるし、ポストに呪いの手紙は入ってるし、車に轢かれかけたり、変な人に追いかけられたり⋯⋯。黛さんに助けてもらえて心底感謝してる」
「じゃあ、健太郎は現世に戻りたくないの?」
健太郎はその言葉にはすぐに返答しなかった。
「⋯⋯俺、小さい時からずっとサッカーやってて」
健太郎の声が震えている。
目元を擦って、深い息をつく。苦しそうな、悲しみを堪えられない声が痛々しくて俺も息を飲む。
「中学最後の試合、⋯⋯出たかったなぁ」
当たり前の生活が一瞬で壊されてしまった悔しさが、健太郎から溢れている。
健太郎は関係ないと言い切ったのに。周りがそれを許してくれなかった。子どもの力だけではどうにもならない大人の圧力が、健太郎の人生を奪ってしまった。
翔真が飛びつくように健太郎を抱き締める。健太郎は翔真の肩に手を寄せて、静かに涙を流している。
健太郎、きっと、泣けなかったんだ。
俺も覚えがある。俺を泣かせてくれたのは香流さんだった。どうしようもない後悔と、苦しみを受け入れて肯定してくれたひと。
俺は、健太郎を救いたい。
それが香流さんへの恩返しになる。直感でそう思った。俺が晃を見ると、晃も頷いてくれる。
「健太郎がまたここで笑えるようになるまで、支えるから」
「親がいなくても手を出してくる大人はたくさんいるから心配するな」
「学校楽しいよ!みんないい人だよ!健太郎もきっと楽しめるよ!」
3人で声をあげると、健太郎は涙を拭って口角を上げた。
「⋯⋯ありがとう」
今は笑えなくてもいい。悲しみを乗り越えて、少しずつ穏やかな生活を取り戻して行けるように。
ガチャ、と玄関が開いた。視線を向けると、黛さんがひらひらと手を振って中へ入ってくる。
「食事中に悪いな。飯塚くんにこれあげようと思って」
「は、はい」
健太郎の泣き腫らした瞳をちらりと見ただけで、黛さんは何も追求しなかった。
さすがは大人。香流さんだったら「何で泣いてんの?」ってデリカシーなく聞いてきそうなのに、黛さんは空気の読める大人だ。
「俺の使い古しで悪いけど、データ初期化しておいたから。夏椎、スマホには詳しいだろ。使い方教えてあげて」
「使い古し⋯⋯?最新機種じゃないですか」
「俺には古いの」
黛さんは健太郎の前にスマホを置いて、ぽんぽんと頭を撫でる。
「夏椎達といる方が気が楽なら治郎丸さんに話通してもらうけど。まぁその辺も決まったら香流に伝えておいてくれ」
「あ、あの!いいんですか?」
「ここにはお前の母親はいないし、現時点では俺が保護者代理だよ。俺がいいって言うから、いいの」
「ひばりん、珍しく格好いい⋯⋯!」
「柚姫が絡まなければマトモだな」
「お前らは一言余計なのよ」
呆れ顔を返して、黛さんは玄関へ向かって行った。
帰り際に、こちらを振り返ってスマホを上げる。
「なんかあったら連絡してね。俺は家で仕事してるから」
「日曜日は休む日ですよ」
「365日仕事したい人なの、俺は」
不敵に笑って、黛さんは家を出て行った。
相変わらずワーカーホリックな人だ。目線をテーブルへ戻すと、目を瞬かせている健太郎が目に入って思わず笑ってしまう。
「良かったね、健太郎」
「す、スマホデビュー⋯⋯!」
「後で使い方レクチャーするね」
「グループLINEにも招待するよ!」
「まだ学校通ってないのに?」
食事の後、翔真は宣言通り健太郎をグループLINEへ招待した。
グループLINEは大いに盛り上がって、みんなで自撮りを送り合うという謎の祭りが開催された。本当にうちの中3部は賑やかしい。




