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第15話:ダブル・チェックポイント

【学校・放課後】


「黒崎さん。このスケジュール……大検(高卒認定試験)の初日が予選開始日、そして決勝戦の日に合格発表。上手く出来てるね」


生徒会室で、財前が感心したような、あるいは呆れたような声で言った。


財前は何かに気付いている様だ。


「財前君? ショービジネスには『カタルシス』が必須なんだよ。昼間に大検を受けてきた主人公が、その足で予選を戦う。予選の段階で『引き』は十分獲れる」


「そして一ヶ月後、主人公は合格通知を握りしめて決勝のリングに上がるんだぜ? これ以上のストーリーが他にあるか?」


俺は応接ソファに深く腰掛け、ニッコリと微笑む。中身が40歳のおっさんである俺にとって、この程度の「演出」は戦略の範囲内だ。


「世間は、ただの不良が更生する姿なんて見飽きているだろ? だが、合格発表というドラマを携えて、過去の自分を断ち切るために戦う男の姿には、誰もが熱狂するはずだ」


「…君は本当に、人の心を動かす術を熟知しているな。わかった、その日程で進めよう。スポンサードの決裁はもう取ってある。決勝の会場に我が校のロゴが躍ればいい」


「しかし…黒崎さん、切島が勝てば全てがオールOKとはならないかも知れないよ?」


財前は眼鏡のブリッジを押し上げ、不敵に笑った。


「まあ…黒崎さんはそこも計算済みかな?」


「投資に見合うリターンは返してくれよ」


【夜・自宅】


戦略が壮大になればなるほど、家庭内での「綻び」は大きくなる。


「ユナ、ちょっと座りなさい」


夕食後、サチコがリビングの椅子を引いた。


その声のトーン…商社時代、数億の損失を出した部下を呼び出す時の俺と同じだ。


「最近、ユナの帰りが遅いこと、佐藤さんから聞いたわよ。例の男の子の練習に付きっきりなんですってね?」


「ユナ、あなた、その子のこと好きなの?」


「えっ…!?」


予想外の角度からの追及に、俺は硬直した。


そうか…サチコからしたら俺は17歳の女の子なんだ。そう解釈するのが、親としては妥当なところだろう。


「違う、ママ! 私はただ、彼の『再起』というプロジェクトを成功させたいだけで…」


「プロジェクト? …あなた、時々パパみたいな言い方をするわね」


サチコの目が細くなる。疑惑の霧が、少しずつ形を成していく。


俺は慌てて「パパが昔よく言ってたから、格好いいなと思って!」と、女子高生らしい誤魔化しを付け加えた。サチコは溜息をつき、俺の手を優しく握った。


「いい? 誰かを応援するのは素晴らしいことよ。でも、自分の生活を壊してまで入れ込んじゃダメ。…試験も試合も、もうすぐでしょ? あなたも頑張りなさい」


「…うん。わかってるよ、ママ」


妻の優しさが、胸に痛い。


彼女はユナの将来を案じている。その裏で、実はサチコの大切な娘を傷つけた男のセコンドに付こうとしているのだから。


【一ヶ月後:大検初日 兼 予選第1試合】


運命の朝がやってきた。


切島はこの準備期間、仕事、勉強、そしてウリエルの地獄特訓を、文字通り死に物狂いでこなしてきた。


「切島。…今日がスタートだ。昼間に大検を片付けて、夜は予選のリングだ」


試験会場の校門前。俺は、精悍さを増した切島の肩を叩いた。


「わかってるよ、黒崎。…80点取って、相手も一撃で沈めてくりゃいいんだろ?」


「そうだ。…一ヶ月後の決勝戦。合格発表を笑って迎えるために、今日は絶対に落とすなよ」


「…ああ。行ってくる」


「あ…ちょっと待て」


俺は、近所の神社で買ったお守りをポケットから出し、切島の手に握らせた。


ユナの細くて繊細な指で、切島のゴツい手を両手で包み込む。


「これで、大丈夫だ」


「おう、ありがとな」


神頼みなど非科学的で実効性は無いが、これは祈りではなく戦略的儀式だ。


切島が会場へ消えていく。


大検の合格発表は一ヶ月後。それは奇しくも、格闘技大会の頂点を決める「本戦決勝」の日。


俺と切島の大一番の日になるはずだ。


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