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第8話 窓口担当――その男、何でも屋③

小説を閲覧いただきありがとうございます。

感想、評価、ブクマ等いただけましたら、作者は大変喜びます。

どうぞよろしくお願いします。

 すかさず、グレアさんが前に出た。


「ジャックちゃんっ! 援護をお願いね!!」

「任せな! ばーさん、行けっ!!」


 老体とは思えぬ速度で物体へ肉薄する。


 混ざった魔物は獲物が飛び込んできたと思い、その腕を伸ばす。

 銃声が一発響く。グレアさんに伸びた腕が爆ぜる。


「へへっ! ばーさんにゃ、指一本触れさせねぇぜ!!」


 銃を構えたジャックが不敵に笑った。

 無駄のない動きでグレアさんを援護する位置に陣取り、油断なく構えている。

 銃口は魔物を捉えて離さない。


 流石ジャック。口は悪いし態度も最悪だが、腕だけは本物だ。

 おかげでグレアさんは何の障害もなく、拳を振るうことができる。


「――すぅ……キェエエエエエエエッッ!!」


 拳に聖なる魔力を圧縮させて、突きだす。

『聖拳』の異名は伊達じゃない。

 思い切り拳をぶち当てられた魔物は、パァンと小気味いい音と共に肉が四散した。


「おーこわっ。ばーさんのげんこつだけは食らいたくねぇな」

「……浅いわねぇ。二人とも、警戒を怠らないで!」


 グレアさんが警告するや否や、四散した肉がぴくぴくと蠢く。


「チッ! ジャック退け! グレアさん、結界を!」

「わかってるっての!」

「――全能なる父よ。大地の抱擁にて、悪しきものから我らを守りたまえ。

『聖域結界』!!」


 俺たちが結界に包まれたと同時に、何十本もの黒い棘が結界に突き刺さった。


「こいつ、魔物ふぜいが舐めやがって!」

「グレアさん、ありがとうございます」

「ふーーっ。やっかいね……」

「下手にばらしても、こいつが有利になるだけってか」


 グレアさんの結界があるうちに、次の一手を考えないと。

 まだか。頼む、早く来てくれ。


『こちら迷宮サポート課のイズミです! 応答をどうぞ!』


 ナイスタイミングだ! 俺が待ちわびていた連絡が来た。


「あん? サポセン? ――こちらジャック。今手が離せねぇぞ」

『チーフさんから事前要請があったのでサポートします!

 本件は正式にギルド長から迷宮変化として、受理されています!』

「あのカタブツが……ッ! ほんっとに、何から何まで遅せぇ!!」


 同感だが、通信先の子に当たったってしょうがないぞ。

 ジャックがイライラして、うっかり通信を切ってしまうまえに交代する。


「こちらチーフ! さっき連絡と一緒に送ったサンプルの解析はどうなった?」

『すでに解析班と解体士によって分析中です! 

 今、通信が入ってますので、グループ通信に切り替えますね!』


 イズミはテキパキと通信を繋ぐ。

 最初に会った時はおどおどしていたのに、今じゃ堂々とした応対だ。

 若い子の成長がまぶしいな。


『鑑定士のスアーマよぉ~。チーフさん~。まだ生きてますよね~?』

『うっす! チーフさんお久しぶりっす! ポイセタっすよ!』


 なんだか知らないが、通信には聞いたことのある声ばかりが参加してくる。


『とりあえず~、即時転送の子が分解剤弾を送るから、それを使ってくださいね~』


 相変わらずおっとりしているスアーマ。

 だが、今の俺たちがもっとも必要としているものを手配してくれたようだ。

 結界の中に、ピンポイントで箱が転送されてくる。


「んだぁ!?」

「結界を壊さずに転送してくるなんて……」

『銃弾に加工しているので~、ジャックさんが使用してください~』


 箱を開けて中から弾薬を取り出すと、ジャックに投げわたす。


「ジャック!」

「任せろっ!」


 すかさず弾丸を装填すると、結界をびちゃびちゃと攻撃している魔物に銃口を向けた。


「失せな! クソッタレめ!」


 至近距離で容赦なく打ち込む。


『ギヒィ、キ、ィイィギィァアアアヴァアア!!』


 魔物がのたうち回り、結界から離れていく。


『イタァ、イ、タスケェテェ』

『アァァ……!!』


 ――ボト。ボトボト。ボチャ、ボトリ。


 ずるずると身体を引きずって、あとずさる魔物。

 その身体からは、色んなものが転げ落ちていく。


 溶けかけて脳が見えているコボルトの頭。

 破損したボロボロの武器。

 ほとんど溶かされて白骨化している男の腕。


「おえ……。これ全部混ざってたってのか……」


 死体には見慣れているが、気持ちのいい光景ではない。

 分解剤の効果により、混ざった魔物がどんどん分解されて、小さくなっていく。


『チーフさん! そいつは限界まで分解されたら、コアが出てくるっす!

 そのサイズだと二つっす!』

『コアは尋常じゃなく硬いんですね~。それにそいつの瘴気は身体に良くないです~。

 なので~、グレアさんに浄化してもらいつつ、ジャックさんとチーフさんが破壊してください~』

「は……? なんだって?」


 俺は思わず、スアーマに食ってかかる。


「ちょっとまて、ジャックやグレアさんならともかく、俺に力があるわけないだろう!」

『ん~。ですが~、浄化なしで突っ込むのは危険ですね~』


 ちらっとグレアさんの顔色を見る。にこっと笑ってはいるが真っ青だ。

 そりゃそうか。ずっと結界を張り続けていて、消耗している。

 それに密かに俺やジャックに補助魔法をかけていた。


 グレアさんを休ませるためにも、さっさ決着をつけて、地上に戻る必要がある。


(くそ……久々にやるしかない、か)


 俺はジャックの肩に手を置いた。


「ジャック。――行くぞ」


 ジャックはちらりとこっちを見る。


「同時にコアを叩く」


 俺の指示に歯をむき出しにして笑う。


「クハハ! いいねぇ、その目! 久々に本気ってか!!」

「うるせー。俺は、()()()()()()()()()()。好きなタイミングで行けっ!」

「遅れんなよ――」

「全能なる父よ! 汝の子らに清きベールを授けたまえ! 『神秘の守り』!!」


 グレアさんが力を振り絞り、俺とジャックに守りの魔法をかける。


「今よ、二人とも……!」


 力を使い果たし、グレアさんがその場に崩れ落ちる。

 ジャックはすでに銃を構えていた。

 魔物はよろよろとコアを露出させながら、どこかへ逃げようとしている。

 させるかよ。ここで逃がしたら、とんでもない被害が出る。


「ぶち抜いてヤるよォ!! 『貫け』ぇぇぇぇ!!!!」


 ジャックがスキル『貫通』を発動させて撃った。


「――借りるぞ、ジャック」


 ジャックの魔力を流れを把握して、己の物とする。

 ()()()。掴む――『模倣スキルコピー』。


 ナイフに模倣の『貫通』を付与して、コアに向かって投擲した。


「へっ……相変わらず、デタラメな能力だな」


 二つの“貫通”が、魔物のコアを穿つ。


 ――ズドンッ!!!


 空間が揺れる。音が遅れて追いつく。


『キィアアアアアアアアアアア!!』


 コアを砕かれた魔物は最後の断末魔を上げると、大量の煙を出しながらぶくぶくと消失していく。


『アリ……ガ……』


 悲鳴と怨嗟が混ざった叫び声。

 最後に漏れた言葉は魔物の悪あがきか。

 それとも。最後に残った人間としての感謝だったのか。


 わずかに残骸だけを残し、それは完全に、沈黙した。


「……終わり、だな」


 俺は力が抜けて、その場にしゃがみ込んだ。


「よかったわ……みんな、ぶじで」

「おー……なんとかな。ばーさんもくたばってないようで、何よりだぜ」


 流石のジャックも疲れた顔だ。

 グレアさんは何とか身体を起こすと、全員の無事を確認し安堵している。


『敵性反応――消失確認しました! 未鑑定の魔物討伐お疲れ様です!!』

「あぁ、イズミ。サポートありがとな。それに、スアーマとポイセタも助かった」

『分解剤を転送したのは、ハセガワくんです。あとで彼にもお礼を言ってくださいね』

「ふふ。情けは人のためならずね、チーフちゃん」

「おい、とっとと帰って報告しちまおうぜ。んで、無能なギルド長の首をとってヤらぁ!」


 ジャックが立ち上がると、物騒なことを言い出した。

 調子に乗るんじゃないと一発蹴っておく。


「いてぇな!」


 うるさい。あんまり暴言が過ぎると始末書を書かされるぞ。


 グレアさんに手を貸しながら、俺たちは帰還陣を目指す。

 命からがら魔物を撃退し、サンプルも入手した。

 これを、ギルド長へ提出したら調査は完了だ。


 ようやく、平穏な窓口業務に戻ることができる。


「また、来ることになるだろうなぁ」

「やめろ」

「わかってんだろ? アレで終わらねぇって」

「……」

「そうねぇ……。きっと始まり、だわ」


 グレアさんまでやめてほしい。

 仮にそうだとしても、俺は関係ない。

 迷宮の専門である冒険者に任せるさ。


「ま、そんときゃまたよろしく頼むぜ、『何でも屋』のチーフさんよぉ」


 ジャックがバンバンと肩を叩いてきた。

 何が頼むだ。そのにやにやした顔はやめろ。

 グレアさんもにこにこしないでくれ。


 いいか、俺はただの窓口係だからな――

 ……そう思ってるのは、どうやら俺だけらしいが。

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