第四話
おまけにティスカは他のヒロインと違って身分も平民だし親もいない。年齢も低いし体も細くて、攻撃力もほぼゼロ。どう見ても戦闘向きじゃない。要は、妹ヒロイン枠兼、チョロイン枠なのだ。
ゲームが進むと、主人公以外の仲間キャラを別のユニットの部隊長に指定する必要もあるから、仲間の育成も必要。だから会話パートで早めに各ヒロインとの親密度を上げて、仲間にすればそれだけゲームの戦闘難易度も下がる。
※でもヒロインとの親密度を上げて仲間にしてから、最終的にパートナー役は誰か一人しか選べず、残りのヒロインはただの仲間として軍に残すという、鬼畜な男とも言えるシステムなんだけどね。
けれど、初見だったりゲーム初心者でヒロインたちの攻略が上手くいかなかった場合に備えて、メインヒロインの第一王女とティスカの攻略難易度は低めになっている。
低めっていうかティスカはチョロインすぎて、プレイヤーが「危ないから戦闘には参加させない」って選択肢を何度も取り続けない限りは、絶対に仲間になる仕様なんだけどね。
そして目下の問題は。今のエイトは超王道パターン&優秀なルートを通っている。それでいて多分転生者でもないこと。
彼の鎧についてる肩章でわかっちゃったよ……もう既に一段階出世して、部隊長になっていた。ならばメインヒロインの王女とも最初の邂逅イベントを済ませているに違いない。
きっと今後、王女を仲間にできるだろう。そうしたら最弱ヒロインのティスカなんて不要なのだ。
更に言うなら、エイトは部隊長に昇格した時点で王国の騎士と同等の扱いだから平民の孤児であるティスカとは身分差もある。この世界では上の人の言うことはかなりの力を持つ。
王道ヒーロー路線を歩む彼は「危ないからティスカを戦闘には参加させない」と言う可能性が高いのだけれど、実際に彼にそう言われたら私には逆らうすべがない。
……彼も転生者だったなら、なんとか説得する可能性もあったかもしれないけれど。
このまま一度も戦闘には出られずレベルが上がらなかったら、ストーリーパートでティスカは死んでしまうかもしれないというのに。
「困ったなぁ……」
せっかく推しに転生できたんだし、早々にまた死にたくないよ。死なない方向にストーリーが進むように祈るしかないけど……。
私はベッドの上で目をつむり、あれだけやり尽くしたゲームのあらゆるルートを思い出す。……うん、やっぱり私、死ぬ確率高いわ。
今後のルート次第では、この王国軍第三軍隊の兵舎があるセダルムの街が敵軍に奇襲をかけられる。ティスカは街の人々を守るためにバリアの力を使うけれど、レベルが上がっていないとバリアはすぐに破られて敵に殺されてしまうの。
彼女が不遇のヒロインなのも私が推している理由の一つだけれど、これってティスカの扱いがあんまりすぎると思わない⁉
「ひど……い……」
極度の疲労と、うっかり目をつむったせいで私はそのまま夢の世界に入ってしまった。
◆◇◆
そんな、悶々としながら寝落ちする日々を過ごすうちに、私はいいアイデアを思いついた。しばらく食堂での経験を積んでから、ある日エイトとノイリスを訪ねる。
「食糧係⁉」
「はいっ! 私、一人で暮らしていた時は毎日野草を摘んでいたんです。食べられる野草を見つけるの、すっごく得意なんです!」
「えっ、でも……」
「それに食堂の料理長から聞いていません? 私、芋の皮むきがすっごく早いって! 料理の下ごしらえもかなりできるようになったんです」
これは事実。この世界の包丁は前世みたいな刃の薄いステンレスじゃない。だから扱いが難しいけど、私は料理長をしのぐスピードで芋の皮むきをして見せた。
ちょっとズルだけど……だって包丁が指を傷つけそうにでもなったら、自動的にバリアが出て私を守ってくれるんだもの。それで多少無茶をしてでも強引に皮をむいたのだ。
「だから、軍が遠征するときは私を食糧係として連れて行ってください!」
「……」
エイトとノイリスは顔を見合わせた。ゲームのストーリーにこんなシーンは勿論無かったから断られるかもしれない。でも、このまま何もせず死を待つなんて嫌だもの。
「お願いです! 食糧係なら最後方だから危険も少ないでしょ? それにやっぱり私、強くなって父さんの仇を討ちたいの!」
エイトがぐっ、と困った表情を見せる。彼は転生者ではない。でもちゃんと心はある。ゲームキャラのエイトではなく、今までの彼を見てきてわかった。
きっとティスカの父親や、その他にも仲間たちを喪う度に、彼は深く傷ついているんだ。
だから弱い人は戦には連れていきたがらないし、それでも志願する者には厳しい訓練を課している。
「ティスカ、俺たちにどうしてもついてくるというなら、実戦に出る前に訓練をしてもらう。君にはかなり厳しいと思うけど……」
「はい! 頑張ります!」
私は前のめりで元気よく頷いてみせた。
◆◇◆
そこまではよかった。訓練に参加すればレベルが上がるかもって目論見もあったし、食堂での仕事を難なくこなせるようになったから、ちょっとは体力がついてきたかもって思ってた。つまり私は天狗になっていたのだ。
「はあ、はぁ……」
でもやっぱり現実は厳しくて茨の道。
そりゃそうだよね。料理の下ごしらえや食堂の配膳なんて一般的な仕事と比べたら、戦闘の訓練はずっと過酷だ。
最低限の鎧と武器を装備した体で調理器具などの重い荷物を持って何時間も歩き続けるだけでもキツい。
それに加えて戦闘訓練なんて、たとえティスカが健康体だったとしても、十四歳の女の子が大人の男の人と一緒に参加するのは無茶な話なんだ。
「やあっ!」
練習試合用の木刀を兵士のジムさんが振るう。私は両手を組み、祈ってバリアを張った。緑の光の膜は木刀を一瞬止めたけれど、すぐにパリンと小さな音を立てて割れてしまう。彼の剣が私の肩に当たり、その勢いと痛みで私は地面に膝をついた。




