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最弱ヒロインに転生したはずなのに、何故か覇王と呼ばれています  作者: 黒星★ちい子@『皆の頭の上に浮かぶ謎の数字〜』コミカライズ決定★


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第三話

「君のお父さんは薬を買うためにお金が必要だった。それで王国軍の兵士に志願したんだ。けれど、先月の戦闘で……」


 エイトは言葉を濁す。ティスカにはこの時、まだ言葉の意味がちゃんとわかってなかったはずだ。でもその回想シーンを見ている私にはわかっている。


 彼女の父親は一般人だ。当然、戦闘なんて慣れていない。けれど武功を上げれば報奨金が貰える。家族のために無茶をして兵士に志願し、戦いで命を落とした彼は、死の間際にエイトに「これを妻のミレアと娘のティスカに渡してくれ」と薬を買うお金を託したのだ。


「俺たちはティスカを探していた。君のお父さんにこれを渡すよう頼まれていたから」

「父さんに頼まれて……? 父さんは今、どこにいるんですか? 先月の戦闘って⁉」

「君のお父さんは……戦で命を落とした」


 この時、私の口からは小さな言葉が、目からは大粒の涙が勝手に溢れだした。


「父さん……‼ ああ……」 


 私のなかで知らない景色が次々と浮かんでくる。ティスカが小さな頃からの両親に愛された幸せな記憶の数々や、彼女の頭を撫でて「心配するな」と出ていった父の最後の姿。

 こんなシーンはゲームで見たこと無い。でもゲームの画面とは違う、十四年間生きた人間の生々しい記憶。それが私の意識とぐるりと混ざり合う。


 気がつけば、私は意識することなく自然に次のセリフを口にしていた。


「……エイトさん、私も戦に連れていってください」

「ティスカ?」

「私、巫女なんでしょう? じゃあ聖女様のように役に立てますよね?」

「えっ、でも君はまだ小さいし」

「年なんて関係ないです! 私に父さんの仇を討たせて! お願い‼」

「いや……でも……」


 エイトは王道ルートを進んでいる。まだ幼い少女を戦に巻き込むなんて、と躊躇(ためら)う選択肢を取った。


「良いじゃないか。戦力はいくらあっても困らない」

「ノイリス!」

「ありがとうございます‼」


 ノイリスの助け船を受けて私の胸に喜びが拡がっていく。ゲームのストーリー分岐を知っている私にも軍に参加するのは喜ばしい方向ではあるんだけど、この頬の紅潮はそういう喜びじゃない。


 ああ、なんとなく感覚でわかってしまった。上手く言えないけど、多分私の中にティスカは、いる。

 彼女と私の魂はひとつに混ざりあってしまったのではないかな。


 ◆◇◆


 今でも私はティスカが大好き。世界で一番好き‼ ティスカのビジュアルが私の好みピッタリで一目惚れだったのもあるけど、実際にゲームのプレイを進めて会話パートを見ればわかるはずよ。


 彼女のキャラクターボイスや健気で応援せずにはいられない内面など、全てがかわいい! 更にティスカの置かれた境遇がストーリー面でもゲームシステム面でも結構ひどい扱いなのも、彼女を応援したくなる要因。


 私はティスカ沼に落ち、推しに推しまくったわ。今までグッズも大人買いしていたしティスカの素晴らしさを幾人の人にも語り布教していた。

 そんな推しとひとつになるなんて、なんて幸せな事なんでしょう――――と、純粋に思えたらいいのに。

 現実はそう簡単にはいかないのだ。


「はあぁ……」


 私は一日の仕事を終え、自分の部屋に戻るとベッドに倒れこんだ。全身が重だるい。

 前世はこれぐらいの事ではへこたれなかったと思うんだけど、やっぱりティスカはゲームでのステータスどおりで体力がとっても少ないみたい。

 まあそうか。今までろくに食べられてなかったのもあってガリガリだし、十四歳にしては低身長だもんね。

 私(ティスカ)が「私も戦に連れて行って」と言ったあと、


「か弱い女の子を戦に連れて行くなんて!」


 と、エイトは主人公らしく反対した。けれどノイリスが


「じゃあ両親と死別して頼る当てのないティスカを孤児院に放り込めばお前は満足なのか? それは無責任じゃないか?」


 と、反論してくれたの。ここはゲームでは、エイトが自分の考えの浅さに気づき「正義とは何か」というテーマに向き合う重要なシーンなんだよね。


 それで結局、ティスカは軍所属になる。けれど立場は兵士ではないの。王国軍の宿舎の食堂で住み込みの下働きとして雇われただけ。


 ゲーム内では体が小さくて要領もよくないティスカは食堂でも失敗ばかり。「私は役立たずだわ」って陰で泣くんだけど、流石に前世の私は社会人だからね。材料の下ごしらえもオーダーも配膳も皿洗いもこなしましたよ。

 食堂の仲間にも「小さいのに頑張るねぇ」と褒めてもらえた。


「ううーん……でもこのままじゃ、だめだよね……」


 住み込みで衣食住が約束されて、とりあえず目先の生活は心配なくなったけれど。この先のゲームのルートを知っている私にとっては茨の道だ。

 私は硬いベッドで丸くなりながらため息をつく。よりによってティスカに転生するなんて。『ワンヒロ』の最弱ヒロインと揶揄され、プレイヤーの皆に選ばれない存在に‼


 この『ワンヒロ』、主人公は一介の兵士から戦闘を重ねて、部隊長→副隊長→隊長→副軍団長……と成り上がっていく。階級が上がるとともに、配下にいる兵士や、戦略に使える部隊の数が増えていくシステム。

 そして最終的には軍を率いる英雄になるストーリー。その過程で七人のヒロインとも出会うわけだけど、彼女達の個性や特性はそれぞれハッキリしている。


 まず、王女がふたり。姉の第一王女ミリエナはメインヒロインにふさわしい、攻守も魔法も備えた万能バランスキャラ。


 妹の第二王女ドローテは今までの人生で常に完璧な姉と比べられていじけて病み、闇落ちの末に強力な呪術を扱えるようになったヤンデレキャラ。


 兵士の戦闘力を高めたいなら戦乙女の二つ名を持つ最強の女騎士キャラ、キリーを選ぶべき。


 魔法重視のチームにしたいなら、右に出るものが居ない天才魔導師のセクシーなお姉さん、ファビュラ一択。


 相手国が海に面している時しか活躍できないけど、その分海上戦では砲撃で敵を制圧する、無双の女提督バルドラもいる。


 兵士達の傷を癒し回復させる戦法を重視したいなら聖女エスナの祈りは外せない。

 もうヒロインは選(よ)り取りみどりだった。


 そんな中で私の推しのティスカの能力、巫女の力の正体は……ダメージ軽減のバリア。はい。バリアです。バーリアッ‼


 別にいいんだよ? バリアでも。

 要は守備力増強ってことだもんね。問題はそのゲームバランス!! ティスカの能力は他のヒロインに比べると圧倒的に弱いんだ、これが。


 だって兵士たちの守備力がちょこっと上がったところで、肝心の攻撃力が上がらなければ、敵軍にジワジワ削られる時間が増えるだけ。

 巫女は聖女のように回復スキルがある訳じゃないから、結局負けちゃうんだ。

 せめてティスカのレベルを上げれば完全無敵のバリアになるくらいにバランス調整してくれないと!



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