第二話
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何度でも言う。ゲームメーカーのアルノー社の作品『ワン・コンチネント2~英雄は愛と世界を掴む~』、略して『ワンヒロ』は素晴らしいゲームだよ!世間ではクソゲーだなんて言うヤツもいるけど、そいつの目が節穴なだけだから!
そりゃあシリーズ第一作の『ワン・コンチネント』からガラリと変わった点もあるから、前作が好きだった人が受け入れられないってのはわかる。「前作は硬派なゲームだったのに、なんで軟派なイラストとストーリーになってるんだ」って意見が多いのも知ってる。
でもね、前作と比べずに一回全く別の戦略シミュレーションRPGとして見てみなよ。とっても面白いでしょ⁉
元々前作のシステムがとても良く出来てる。「ひとつの大陸内に多数存在する国家の統一を目的とした戦争」という背景のもと、最大十五名の兵士で構成された部隊を各所に配置して防衛、あるいは敵陣へ派遣し攻撃する。
部隊長の能力によって部隊が強化されたり個性的になったりするから、誰を部隊長に選ぶかがポイント。
その前作のシステムを継承しつつ、七人のヒロインから一人をパートナーに選ぶと、各ヒロインの能力が自軍の兵士全員に影響するという新要素が加わったことで更に戦略に幅が出たし、ヒロインも皆かわいいから恋愛要素も楽しめて一石二鳥でしょうよ‼
今回からキャラクターデザインやパッケージの作画担当が私の推しのイラストレーターさんに変わって、イラストが超々美麗になってるところも強みだし‼ 特にね、最年少ヒロイン、ティスカの画が最高だよね。私、ゲームのパッケージを見た瞬間に一目惚れだったもの!
――――等々、過去の私は『ワンヒロ』の話になると……特にティスカの話になると、舌が止まらなくなるオタクだった。
「嘘でしょ……ティスカ⁉」
だからこそよ。鏡をのぞき込んだ今の自分の姿が、そのティスカだとすぐに気がついたんだもの。白い肌が青ざめ、薄緑のツインテールが小さく揺れる儚げな美少女がそこにいた。
私は前世では日本でOLとして働き、余暇は『ワンヒロ』をプレイする事とティスカを推すことだけに注ぎ込んでいた一介のオタク。
そのオタクの人生は不幸な事故で死んであっさりと終わった……と思っていたら、なんと目覚めた時には推しのティスカに転生していたのだ。
「……ティスカだなんて……どうして……っ!」
してっという私の声が部屋の中で小さくこだまする。そしてその声もかわいい。さすが私の推し。
ああ、でもそんなこと言っている場合じゃない! ティスカのオタクだからこそ、推しの絡むルートを……ほぼバッドエンドな結果を、私は隅々まで知っているんだもの!!
私はそれまで立ち尽くしていた壁掛けの鏡の前から離れ、ふらふらと部屋を横切って先ほどまで自分が寝かされていた二段ベッドに戻った。布団の中に潜り込むと目を閉じて狸寝入りをする。そして前世の記憶と、さっきまでのティスカの記憶を照らし合わせ、糸のように撚り合わせていく。
(間違いない。この二段ベッドの背景は見た事ある。それにさっき「私」が倒れる直前のアレ……)
答えは出た。ここは主人公のエイトが属する王国軍第三軍隊があり、ティスカの出身地でもあるセダルムの街。そして時系列は二人が出会ったシーンの後の筈だ。
エイトのピンチにティスカは自身の持つ特殊な力を発動させて彼を守り、全力を使った反動で気絶する。
仕方なく彼は、第三軍隊の宿舎に彼女を連れ帰り、空き部屋のベッドに彼女を寝かせた。
身元の分からない少女を勝手に連れ帰ったことにエイトの仲間は怒ったり心配したりして、これからどうするか別の部屋で相談している最中に違いない――――
しばらくすると部屋のドアが遠慮がちにコンコンとノックされる。
よし、私の考えは正しかったみたい。今起きたかのように薄眼を開けて首だけをゆっくりと出口の方に向ける。ドアがそろりそろりと開けられ、その隙間から宝石のような青い瞳と鮮やかな赤い髪が覗いた。
「あの……大丈夫?」
エイトだ。ホンモノのエイト。推しのイラストレーターさんが書いてくれたビジュアルそのものの、爽やかな王道主人公のオーラが眩しい、そして超美形(ここ重要‼)のお顔。私の最推しは決してティスカから揺るがないけれど、エイトだって同じゲームのキャラだからそりゃあ大好きなわけで。
「うわ……お顔が良すぎる」
「え? いま、なんて?」
いけない! うっかり心の声が無意識に口をついて出ちゃった。
私は動揺して目をあちこちに彷徨わせたけれど、良い言い訳を思いつかなかったので堂々と誤魔化すことにする。ティスカがここで本来言うべきセリフ(何周もプレイしたから完全に暗記してる!)を改めて言った。
「あの……ここは?」
「あ、ここは王国軍第三軍隊の兵舎だよ」
「王国軍……? わ、私、悪いこととかしていませんからっ!」
「安心して。君が気絶したから保護しただけだから。それよりも……」
エイトは美しいお顔をしかめた。彼は優しいから、今からティスカに言うことに気が引けてるんだよね。でも気にしなくていいよ。見た目は十四歳の貧しい孤児の可哀想な女の子だけど、中身は君より年上の頼れるお姉さんだからね!
「さっき君が使った力、あれは?」
「あれは神様の奇跡です」
「神様の、奇跡⁉」
「はい。私が今まで、何度かケガをしそうになった時にあの緑色の光が守ってくれたんです」
「じゃあ、君はやっぱり……」
「ああ、やはり神の守護を得ている巫女ですね」
エイトの後ろから銀縁メガネの塩顔イケメンがぬっとあらわれ、突然しゃべり始めた。
「ノイリス!」
そうそう、彼はノイリス。エイトのお兄さん的ポジションで、ゲームの参謀役(つまり、チュートリアルやプレイヤーが困った時のヘルプ)を担う知的キャラ。彼も人気が高い。
「神の奇跡と呼ばれる力を持つ聖女は教会での祈りや修行を重ねて癒しの力を得るのですが、太古の時代には生まれながらにして神の守護を持つ、聖女とは別の存在が居たそうです。それが巫女と呼ばれています」
私の唇が震える。何故だろう。ノイリスのこのセリフも何度も見てきて、巫女の設定だって頭に入っていたのに。
「巫女……そ、それが私?」
「そうです。ティスカさん。それと、もうひとつ聞きたいことが」
そう言ったノイリスと目を合わせたエイトが小さく頷く。ここはゲームの会話パートで二つの選択肢が出ているところだ。
ティスカに家族の事を訊ね、その後に残酷な事実を告げるのか……それとも彼らが知っている事はティスカに秘密にしておくのか。
エイトは王道パターンの『訊ねる』を選択した。
「ティスカ、君の家族はどこにいるんだ?」
「家族? ……家族は居ません。母さんが病気になって、父さんは薬を手に入れると言って旅に出ました。母さんは先月、病気で……」
「お母さんの名前は?」
「ミレアです」
「そうか……ティスカ。これがその薬代だったんだが」
エイトは辛そうに胸ポケットから硬貨の入った袋を取り出した。それを見た私の心臓がドクンと大きく脈打つ。
体が勝手に震えだした。この先のストーリーは知っているのに、なぜ?
「……薬代? ど、どうして?」




