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-契- 現代陰陽師奇譚  作者: KUMANO
十章 現代の陰陽師

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推し陰陽師


 

「どうも初めまして、HIKARUさんのパシリを仕方なーくやっている出雲清明(いずもきよあき)と申します。よろしゅう〜」


 言葉のアクセントに関西特有の訛りが見られる、出雲清明と名乗った男性は、にっこりと微笑みながら片手を差し出した。

 

「初め……、まして」


 どことなく飄々としていて、同時に人懐っこさが窺える清明の登場に若干戸惑いつつ、実資、忠行、保憲と、順々に軽い握手を交わしていく。最後に晴朗と握手を交わしていると、


清明(きよあき)の名前も、確か安倍晴明(せいめい)を意識したんじゃなかったっけ?」

「ちゃいますて〜、ボクの誕生日が4月5日で、二十四節気の『清明(せいめい)』だったから、親がそのまま採用して読みだけ変えたってだけですよ」

「あぁ、そっちの清明(せいめい)だったか」

「もー、いい加減何回このネタ擦るんで?」


 清明はHIKARUに対して軽快に軽口を叩きつつ、まるで漫才師のようなやり取りを展開している。

 

「……とまぁ、こんな感じの男だよ」

「こんな感じの男でーす。よかったら気軽に仲良くしておくれやす〜」


 ひとしきり漫才を終えると、清明は満足したように晴朗たちに向かって軽く手を振った後、その場を離れていった。


「なんというか……、愉快な人ですね」

「そうでしょう。本人(いわ)く京都の出身らしいんですけどね。ノリは完全に大阪のそれです」

 

 清明の独特なテンションに、忠行は少しばかり圧倒されたような苦笑いを浮かべた。


「出雲か……、懐かしい響きだな」

「……そうだな」


 対して保憲と晴朗は、かつて自分たちが現役だった頃世話になった、豪傑な男のことを思い出していた。

 

「ではお待たせいたしました。本日はよろしくお願いいたします!」


 そうして司会進行を担当するスタッフの合図で、早速取材兼撮影が始まった。

 最初は簡単な自己紹介から始まり、スタッフによる円滑な対応もあり、取材も撮影も、滞りなく進んでいった。


「……____HIKARUさん。以前の動画ではよく『式神』を出したりしていらっしゃいましたが、あれは集客のための仕組み。という認識でよろしいのですよね?」

「ああ。そうだ、簡単な手品だよ」


 晴朗が質問すると、HIKARUは懐から一枚の白い紙を取り出した。


「先日も実資先生に、あっけなくタネを見破られてしまってね」


 そう言いながら両手で包み、手の中に向かって軽く息を吹きかけた。そしてもう一度両手を開くと、中から一輪の桔梗の花が姿を現した。


「今日も鳥は仕込んでいないから、これで勘弁してくれると嬉しいな」


 HIKARUは軽く腰を上げると、先日実資の娘にもしたように、桔梗の花を晴朗の耳にかけたのだ。

 突然のことに、晴朗は碌なリアクションも取れず石のように固まってしまった。


「あ、ちょっと今、HIKARUさんが画面から外れたんですけど、桔梗の花をハルくんのお耳にかけて髪飾りにしましたね。ハルくん可愛いですよ!」


 晴朗は顔出しをしていないため、撮影中に話題を振られた時用のニックネームはハルと呼ぶように指定している。

 

「あ、ありがとうございます……」


 事前に実資から、『歯が浮くようなセリフを、平気で口にする男』というのを聞いていた晴朗だったが、実際に似たような行動を目の当たりにすると、人はこうも反応ができなくなるものだと晴朗は思いながら、なんとかお礼の言葉を絞り出した。


「さて、あなた方ならすでにご存知かと思うが、『式神』という概念の大元となったのは、かつて陰陽師が実際に使用していた占い道具『六壬式盤(りくじんしきばん)』ではないかと言われている」


 HIKARUはタブレットを取り出すと、式盤の画像を写しながら説明を続けた。


「……____藤原行成(ふじわらのゆきなり)が遺した日記には、賀茂光栄(みつよし)という陰陽師が、式盤を使用している様を見て、『光栄の占いは(たなごころ)を指すがごとし、神と()うべきなり』と書かれている……。よほど素晴らしい手腕を持った、優秀な陰陽師だったんだろうね」


 HIKARUの推測に、賀茂親子と晴朗は誇らしそうに大きく首を縦に振って頷いている。


「ちなみに……、かつて世間に陰陽師ブームを巻き起こした、肝心の晴明には、こういった文書は見られないんだ。もしかしたら……、真の式神使いは安倍晴明ではなく、賀茂光栄。なのかもしれないね……」


 貴族たちが遺した日記を読み解きながら、独自の推測を展開するHIKARUの言葉には、安倍晴明への批判的意図が伝わって来ていた。


 一方で、HIKARUの推測を聞いた3人は、かつて『シキガミ』という単語が貴族間で流行り始めた当初、光栄本人がこんなことを言っていたのを思い出していた。


 

 ******


 

「最近お貴族様方の間で密やかに流行っているそうですよ。私たちが占いの際に使用しているその『六壬式盤(りくじんしきばん)』、その中には『シキガミ』と呼ばれる十二の神が宿り、我々はその神の力を借りることで、精度の高い占いを実現させている……と」

 

「私たちが日々懸命にお勉強して身につけた知識を、まさか『シキガミ』とやらの手柄にされるとは……。心外ですよね」


 

 ******


 

「(光栄(アイツ)が一番式神の存在をバカにしていたような……)」


 と、当時のことを思い出した3人は、思わず苦笑いを浮かべた。

 3人の考えていることなど露知らず、進行役のスタッフは、食い入るようにHIKARUへ質問をした。

 

「賀茂光栄さん。初めて聞くお名前ですね。どのようなお方だったのか、お教えいただけますか?」


 するとHIKARUは突然興奮した様子で、テンションも高めに語り出した。


「よくぞ聞いてくれたね。まず光栄は、安倍晴明の師匠といわれている陰陽師、賀茂保憲の長男だよ」


 晴朗と賀茂親子は、再び大きく首を縦に振って頷いた。


「お! 出ましたね! HIKARUさんの推し陰陽師! 賀茂保憲さん!」

「……、……??」


 また流れに乗って大きく頷こうしていた3人だったが、全く予想だにしなかったHIKARUの言葉に、特に保憲は大いに混乱したような表情のまま、HIKARUを見つめた。晴朗と忠行は、そんな保憲を同じような表情で見つめた。


 

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