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-契- 現代陰陽師奇譚  作者: KUMANO
十章 現代の陰陽師

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保憲ガチ勢

「保憲は20代で暦生の身でありながら具注暦(ぐちゅうれき)と呼ばれる当時の平安貴族が最も大事にしていた現代でいうカレンダーを作成した『(こよみ)』のエキスパートだ。彼がいたからこそ、現代までにおける暦の発展に繋がったとも言っても過言じゃない! 他にも晴明の才能を瞬時に見抜き自らの門下生にしたという逸話も残っている、人の本質を見抜く才能にも長けていたんだろうね! また自らの身分が父忠行を越してしまった時には、『自分の位階を父へ贈りたい』とも自ら願い出るほど、人格的にも優れていた! 陰陽師としてだけでなく、一個人としても素晴らしい人物だったんだよ!!」


 早口で“推し”への愛を語るHIKARUの限界オタクさながらの口調に、“推し”張本人である保憲は、耳まで真っ赤になった顔を両手で覆いながら縮こまっていた。また、晴朗と父親の忠行は「分かってるじゃないかコイツ」とでも言いたげな表情で、大きく頷いている。

 そしてHIKARUの推しを最初から知っていた実資は一人、顔を後ろに背けているが、僅かに体が震えており、笑いそうになっているのをなんとか堪えているのが見てとれた。


「この『HIKARU』という名も、保憲が自分の子たちに『光』という字を入れていたから、私も僭越ながらそれに(あやか)ったんだ……」


 HIKARUは更に、憧憬(どうけい)の念を込めつつ、自らの名前の由来も保憲に関連していることを話すと、晴朗は


「保憲ガチ勢がこんなところにいたとは……」


 HIKARUが賀茂家の血縁というのも、本当なのかもしれないと思い始めていた。

 

「もうやめろ……、恥ずか死ぬ……。いっそ殺せ……」


 そして当の本人は、まだ衝撃から立ち直れてはいない様子で縮こまっていた。忠行はそんな息子の背中を、誇らしそうにしながら摩っている。

 

「それは前も聞いたので、そろそろ光栄さんの説明を……」


 だがスタッフにとってはお決まりの流れだったのか、少しばかりうんざりしたような表情を見せながら話を戻そうと促した。

 冷静になったHIKARUは「あぁ、そうだったね」と一言添えてから説明を続けた。


「そんな光栄だけれども、彼は父保憲に負けず劣らず優秀な陰陽師だったと言われている。長徳(ちょうとく)元年には晴明と並び、陰陽寮から独立した天皇直属の蔵人所(くろうどところ)陰陽師(おんみょうじ)に任命された。以降二人は、度々一緒に占いをすることが増えていったんだ」

「へ〜、安倍晴明とはケミだったというわけですね! でも、どうして2人一緒に任命されたんですか? 蔵人所陰陽師? でしたっけ? の定員が2名だったんですか?」

「いや、蔵人所陰陽師は原則1人だったと言われているが、なぜかこの時は2人で任命されているんだ。これは私の推測だが、当時の天皇は晴明をすごく気に入っていて、本当は晴明だけを推薦する予定だったんだけれども、陰陽師としての才能は光栄の方が圧倒的に優秀だった。忖度があったんじゃないかと思っている」


 あからさまに光栄贔屓な意見を展開するHIKARUに対して、晴朗は小声で、


「圧倒的は余計だ。あとケミって言い方やめろ」


 と、不貞腐れた様子で文句を漏らした。

 

 その後も撮影と取材は円滑に進み、無事エンディングを迎えた。

 

「……__みなさん濃い話をありがとうございます! まるで本物の陰陽師同士が対談をしているみたいでしたよ! 心なしか、いつもよりHIKARUさんがウッキウキでしたよ!」

「いや本当に、こうして陰陽師について、コアな話をできるなんて初めてだったから……とても楽しかったよ。でも大丈夫? 細かすぎて伝わらない。なんてことにならないかな?」

「そこは……、うちの編集がテロップをつけるなりなんなりして頑張ります!」


 撮影が終わり、スタッフたちが映像の確認を行ったり、セットの片付けなどで忙しなく動くスタジオ内。実資は友人と会話をしており、部屋の端っこでは、未だ立ち直れていない保憲を一生懸命褒め称えつつ、励ましている忠行がいる。

 そんな中、ポツンと一人、晴朗はパイプ椅子に座って暇を持て余していた。

 

「晴朗くん。どうぞ」


 するとHIKARUが紙パックのオレンジジュースを持ってやって来た。彼の後ろには同じように紙パックを持った清明もいる。


「ありがとうございます」


 晴朗は爽やかな笑顔を貼り付けてお礼を言うと、早速そのジュースを飲み始めた。

 HIKARUと清明も、晴朗を間に挟むように腰を下ろして、紙パックのジュースに口をつけた。


「晴朗くんも、保喜くんも、そして忠平先生と実資先生も……、皆本当に詳しいね。まるで陰陽師本人に直接聞いてきたかのような博識さ……、思わず舌を巻いてしまったよ」

「いえ、そんな……。お互い趣味が高じて……といっただけなので……」


 直接聞いたどころか、晴朗と賀茂親子については本人である。

 実資も当時の現役陰陽師に負けず劣らずの知識を持っていた、やんごとないお人である。


 ……とは口が避けても言えないので、晴朗は適度に謙遜してお茶を濁した。

 すると、隣に座った清明が、こんなことを聞いてきた。

 

「もしかして……、晴朗さんも実は……! だったり?」


 唐突ではあるが、晴朗たちの確信をついてくるような清明の疑問に、晴朗は少しばかり驚いた様子で、清明を見た。

 疑問を投げかけた本人は、まるで子どもを相手にしているかのように細目を更に細めて、ニコニコと微笑みながら晴朗を見つめている。

 

 晴朗はそんな彼の顔を見つめた後、ふわりと微笑み返し「そうだったら良かったのですが……」と言いながら視線を紙パックに移した。

 

「僕も一時気になって……、家系図を取り寄せたりして色々調べてみたんです。ですが残念ながら……そういった事実は、見つかりませんでした」


 晴朗は残念そうに控えめな笑いを浮かべつつ、


「なので偶然名字が一緒で、偶然陰陽師好きで安倍晴明好きの母がノリで名付けた。……みたいな感じですかね」

「そうなんや〜。その道の研究者も顔負けの知識を揃って披露してくれはったから、ボクはてっきりお三方もそうなのかも!? ……って、なんとな〜く思っちゃいましたよ〜」


 あくまで血筋は無関係であることを伝えると、清明はカラカラと笑いながら紙パックの野菜ジュースを口にした。


「晴朗くんのお母さんは本当に……、晴明が好きなんだね」

「ですね……」


 HIKARUも静かに笑いつつ、コーヒー牛乳を飲んだ。

 



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