いつも応援ありがとう
「……それで、向こうさんはなんと答えたんだ? ……まさかお前に詰められまくった結果の、あの謝罪動画とかだったりしてな?」
晴朗は早速、実資にもらった紙袋の中から綺麗に梱包された菓子箱を取り出した。そして中に詰まっているであろう、色とりどりの茶菓子を早く食べたいという衝動を抑えつつ、包装を丁寧にペリペリと剥がし始めた。
「そうであれば良かったんだが……元々あの自称陰陽師は、前々から方向転換をするつもりで、これまでも何度か事務所側と話し合いをしていたらしい」
「前々から? というのは、たぬきTVが陰陽師の動画を投稿する前から。ということですか?」
「そうだ。しかも『式神』は、集客のための手品であるともあっさり認めやがった」
まるで一つの芸術品といっても遜色ないほどに、美しくデコレーションされた茶菓子を、うっとりとした瞳で見つめている晴朗とは対照的に、実資は眉間に深い皺を寄せている。それほど自称陰陽師とのやり取りは、実資にとって腹立たしい出来事であった。
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昨日、実資の妻と娘たちが自称陰陽師、HIKARUを前にサインや写真、軽い会話などを楽しんでいると、HIKARUは懐の中からおもむろに一枚の紙を取り出した。すると娘の一人が「しきがみだ!」と、興奮した様子でその紙を指差した。
HIKARUは柔らかい笑みを浮かべたまま、その紙を両手に包み、軽く息を吹きかけた。そしてゆっくり両手を開くと、そこには白い無機質な紙ではなく、ペンキを垂らしたかのような、鮮やかな赤い一輪の花が姿を現した。
目の前でHIKARUの術を見ることができた娘は更に喜んだ。すると彼は娘の前に片膝をついて視線を合わせると、娘の髪にその赤い花を挿し込んだ。そして
「私からの贈り物だよ。いつも応援ありがとう、可憐なお嬢さん」
と、誰が聞いても歯が浮くようなセリフを、スラリと口にしたのである。
だが娘にとっては憧れの人。まだ幼いながら、娘の顔は髪に飾られている赤い花のように、ポッと赤くなって恥ずかしそうにもじもじとしている。
「(○す)」
そんな二人の一部始終をガッツリ目の当たりにしていた実資は、かつての上級貴族らしからぬ物騒な言葉を胸に、鬼の形相のままズガズカと歩み寄った。そして盾になるかのように娘の前に立つと、恨みの念を出しつつもニコリと微笑み、
「それがあなた様の使役する『式神』ですか。かの安倍晴明公は、一条戻橋の下に式神を隠していたと伝えられておりますが……。あなた様は袖の中に隠されていらっしゃるのですね」
と、式神出現という名の手品の、タネを見破り堂々と明かしたのである。
一瞬、周囲の空気が冷えたのが分かった。
普通、こういうのは『分かっても言わない』のが暗黙の了解である。
けれども実資という男は、よほどでもない限りそういった忖度はもうしない。
空気の変化に気づいていないのは、純粋で天真爛漫な実資の妻と娘たちのみ。
実資を招待した知人は、彼の性格を分かっているからか、「やっちまったよ……」とでも言いたげに肩をすくめていた。
しん、と静まり返る事務所内。それを破ったのは、HIKARUの笑い声だった。




