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-契- 現代陰陽師奇譚  作者: KUMANO
十章 現代の陰陽師

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言葉が悪いな

 今日一日、忠行も中々の災難に遭っていたらしく、ここに来る道中も、保憲と同じ場所で足を滑らせて転倒。雪の中に顔面から突っ込んだ。

 自分のデスクに腰掛けるなり両手で顔を覆いながら縮こまり「誰かに見られたかも……恥ずかしい……」と蚊の鳴くような声で、嘆き呟いた。保憲は小さくなった父の背中をさすりつつ「あのトラップは誰だって引っかかりますよ!」と励まし続けている。


 そして晴朗は「(親子だなぁ……)」としみじみ感じながら、空になった忠行の湯呑みにお茶を注いだ。

 すると再び、扉を叩く控えめなノック音と共に、両手に老舗茶菓子ブランドの紙袋を持った実資が室内にやって来た。

 

「賀茂先生。先ほどは大丈夫でしたか」


 どうやら忠行が転倒した姿を、実資がしっかりと目撃していたらしい。本人は純粋に心配しているようだが、見られていたことが無事確定した忠行は恥ずかしげに、


「えぇ……雪が……クッションになって、くれたので……」


 と答えたものの、語尾になっていくにつれて声は小さくなっていた。

 

「……そうですか。お怪我がなくて何より……晴朗」

「ん?」

「昨日教えた動画、見たか」


 忠行の声色から色々と察した実資は、早々に話題を切り替えた。

 

「あぁ。HIKARUとかいうやつだろ。中々興味深かった」

「実はな、昨日その配信者に会って来たんだが」

「ふうん…………ん!?」


 あまりにも自然に発せられた、実資の衝撃的な発言に、晴朗は綺麗な二度見をした。

 保憲も少し遅れて驚き、(くだん)の動画を視聴していない忠行は、なんのことだとばかりに首を傾げている。


「なんでだ!」

「俺の旧友が、動画投稿者たちが所属している事務所の、デザインを担当していてな。前にそいつと飯を食う機会があって、その縁で」

「あの陰陽師に会ったんですか!?」

「会った。それより前から、その自称陰陽師の動画は見てはいたが……。少なくとも俺の知る陰陽師では無かったから、いい機会だし、色々聞いてみようと、思ってな」


 実資の妻と娘たちは元々、オカルトや心霊系の番組や動画を見ることが好きで、『陰陽師系動画配信者 HIKARU』の動画もよく視聴していた。だが、本来の陰陽師の姿を誰よりもよく理解している実資にとっては、HIKARUの動画は『陰陽師』という職業を体よく利用しただけの、ただの茶番劇にしか見えていなかった。


 だからその旧友と再会し、彼の仕事内容を聞いた時は、「いい機会になるかもしれない」と考え、旧友に妻と娘たちがHIKARUの大ファンであることを引き合いに、会わせてくれないかとダメ元で頼み込んだところ、数日経って快諾の連絡が返ってきた。


 そうして昨日、晴朗と保憲が渋谷で一悶着やっていた頃。実資は家族を連れて、東京のとある事務所を訪れたのである。


「聞いてみようってお前……、大ファンの嫁さんと子どもさんがいる目の前で、夢潰す気でいたのか」

「言葉が悪いな。俺はただ純粋な疑問として『史実上の陰陽師の姿と、あなたが名乗っている陰陽師の姿には、大きな乖離(かいり)があると考えているのですが、その辺りはどうお考えですか』と、聞きたかっただけだ」

「……おーおー……。賢人右府(けんじんうふ)とも讃えられた、かの右大臣(うだいじん)様は、相も変わらず『いい性格』をしていらっしゃる」


 晴朗は読んでいた本で口元を隠し、おずおずと身をすぼめた。

 

 対面では円滑な人間関係を築き、その真面目さと有能さから、当時の天皇を始めとした多くの貴族たちから絶対的な信頼を得ていた。けれどもその一方で、日記の中では目上の貴族であろうと、間違っていることや秩序を乱している者に関しては痛烈に批判し続けていた。摂関政治最盛期のご意見的人物だった実資。


 それが現代になって貴族制度が無くなったことにより、対面では(おもんぱか)る必要が無くなったことで、間違っていることや秩序を乱している者に対しても面と向かって堂々と物申せるようになった。


 そんな良くも悪くもブレーキがなくなった実資に対して、晴朗は皮肉たっぷりの賛辞を送った。すると実資は全く意に介さないどころか、得意げに笑い、昨日の報酬分となる抹茶のお菓子が大量に入った紙袋を、彼の眼前にずいっと差し出しながら、


「お褒めに預かり光栄だ、陰陽師晴明(はるあき)


 と、言い返した。


以下、どうでもいい補足

古代日本においては本名を知られることはタブーである。という習慣がありました。

よく聞く「忌み名」というやつです。


それが平安時代においては「諱」として定着し、身分の高い人を本名で呼ぶのは失礼に当たる。に変化し、役職名などで呼ぶことが厳格化されます。(※ただし親しい間柄を除く)


例えば実資なら「右大臣」や「蔵人頭」彼の家名から「小野宮殿」と呼ぶ場合もあります。


対して、位の高い人は低い人に対して実名を呼ぶ。ということは要するに

「オメー自分の身分分かってんだろうなぁ??」

といった牽制の意味合いも込められます。


実資や道長も日記の中では、格下の晴明を「陰陽師晴明」と書き残したりしています。

当時の日記は子孫が見る前提で書かれるので、後世の人間が混乱しないよう、あえて「肩書き+名」形で残したんだろうけど…。


まぁそれはそれとして、


なので晴朗氏は、

「かの右大臣(うだいじん)様は、相も変わらず『いい性格』をしていらっしゃる」

(お前は良くも悪くも変わんねぇなぁ)


という嫌味に対して


「お褒めに預かり光栄だ、陰陽師晴明(はるあき)

(文句あんのか格下が)


と言い返した。みたいな感じです。

諱についての補足。間違えてたらマジですんまそん

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