火沢睽
「これが平安の世なら、物忌待ったなしだな。……試しに吉凶でも占ってみるか?」
「占うって……方法は?」
「当たるも八卦、当たらぬも八卦」
そう言って晴朗は、財布から10円玉を5枚、100円玉を一枚取り出した。
「あぁ……、易占か……」
『易占』またを『易経』。
古代中国において発明された占術である。
本来の易占は、筮竹と呼ばれる細長い棒を使用するのだが、晴朗がやろうとしているのは、それの簡易版である。
6枚の硬貨を両手で包み、5、6回程シャッフルする。
その後右手で硬貨を1枚ずつ、下から上へ、まっすぐ配置していく。
すると100円玉が一番上に、その下に10円玉が5枚連なる形になった。
「本卦、火沢睽の上爻……」
全部で64通りある占い結果のうちの一つ、『火沢睽』の大まかな意味としては『対立』
一方で『大きなことを行うのは凶、小さなことを行うには吉』
といった意味も持つ。
大吉か、中吉か、小吉か。と問われれば小吉に位置するであろう結果に、晴朗は何とも言えない微妙な表情になってしまった。
そして、これまで散々な目に遭ってきた保憲は、ネガティブな意味合いを大きく受け取ったのか、再び机に顔を突っ伏して、
「まだ不運が続くかもしれないってのか……? 勘弁してくれ……」
と情けなく弱音を吐いた。
「ま、まぁ……、小さなことを行うには吉、という意味もある。慎まやかに行けば大丈夫だろうさ、だから気にするな」
晴朗は精一杯フォローしながら、小さくなった保憲の背中をさすった。
「そうだ。昨日教えた動画、見たか?」
中々立ち直らない保憲に対して、晴朗は少しでも元気を取り戻させようと、昨日おススメした動画の話題を振った。
「あぁ……、見た。『陰陽師系動画配信者 HIKARU』とやらの生配信だろ? ……お前のメッセに気づくのが少し遅くなったから、アーカイブで見たけど……」
保憲は頭に被せていたタオルを取り払い、自分のスマホを取り出した。
「中々攻めた内容だった。だいぶ前にも同じ配信者の動画をチラッと見たことはあったんだが……、その時は式神を出したり、呪術を使って除霊をしたり……、動画のタイトルも所謂『釣り』だったし……。正直つまらん。としか思わなかったのに」
そう言って保憲は、当時見ていた動画を探して晴朗に見せた。
動画のタイトルには、
『【コラボ】“あの”大陰陽師の生まれ変わり!? その人智を超えた力に迫る!【陰陽師】【安倍晴明】』
とあり、グレーのスーツを身に纏った自称陰陽師らしき男性が、懐から白い紙を取り出し両手に包み込み、軽く息を吹きかけると手の中から鳩が姿を現し飛んでいった。すると瞬く間に、拍手と歓声が湧き起こっている。
「……ところがどっこい、昨日の生配信では、これまで行っていた式神の術や、呪術は全て手品だったと明かして謝罪。『本当の陰陽師はこんな姿だった』……と説明したうえで、改めて再スタートを切るから応援よろしく……。よくある炎上商法ってやつだろうな」
対して晴朗のスマホには、昨晩配信された動画が流れており、そこには先ほどまで式神を召喚していたスーツ姿の男性が、深く頭を下げて謝罪している姿が映し出されていた。
「昨今SNSで活動している自称陰陽師たちは、星をみるでもなく、暦を頒布するでもなく……。申し訳程度の占いをやりながら、後世で脚色された超能力的な陰陽師像をゴリ押しする輩ばかり……。だから史実に準拠した陰陽師像を前面に出すことで、斬新さを売りにして行こう。……とでも考えているんだろうが……」
更に男性は動画の中で、陰陽師の歴史についてを熱く語り始めた。それは平安時代だけでなく、鎌倉時代以降から江戸時代、そしてなぜ、現代に陰陽師が存在しないか。を事細かく、けれども分かりやすく説明していた。
「語った内容の大部分は、以前『たぬきTV』が投稿していた内容の焼き回し……。コメントも大荒れ、チャンネル登録者数も激減している」
動画のコメント欄には
《たぬたぬの動画をただパクっただけで草》
《たぬきTVが取り上げちゃったせいで焦ったのかな??》
《インチキがバレたから方向転換して有耶無耶にしようとしてるだけでしょ?》
《ガン無視してる他の自称と違ってちゃんと謝っているところに関しては評価、まぁせいぜい頑張れ》
《リアルな陰陽師とかただただ地味の極み》
《これまで散々ファンを騙くらかしておいて、あまりにも虫が良すぎると思わんのか??》
と、陰陽師に対して大いなる熱量を持って語っている男性とは打って変わって、コメント欄は氷点下の如く冷え切っており、批判的かつ辛辣なコメントが大部分を占めていた。
動画再生数こそは他のものより大きく伸びてはいるものの、高評価数は平均より大きく下回っている。低評価数は数字こそは見えないものの、
《誰もリアル陰陽師の地味すぎる姿なんか求めてないんですけど》
こういったコメントに対して、同調を示すボタンを押された回数が、視聴者たちの総意を物語っていた。
「……やっぱり、大衆が求めている陰陽師像は、リアルではなく、フィクションの姿なんだろうな」
「フィクションの姿……というより、もっと言うなら娯楽だろうさ。視聴者が楽しめれば、満足すれば……、例え本来の姿とは大きくかけ離れていようとも……。その時の感情が満たされれば、なんだっていいのさ」
残酷とも言える時代の流れに、二人はただ現状を憂いた。
窓から見える外の景色は、雪で真っ白に包まれており、建物や木々を彩る普段の鮮やかな景色を全て白で覆い隠していた。
しんしんと降り続く雪は自然の音すらも吸い込み、うるさいほどの静寂が二人の周囲を包んだ。
すると廊下から、足早に迫り来る足音が聞こえ始めた。
やがて研究室の扉が開かれたかと思うと、
「やってしまった……」
先ほども聞いたような台詞と共に、頭やら肩やらに沢山の雪をくっつけたまま、しょんもりとした表情をした忠行が入ってきた。
そんな彼の姿を見た途端、二人はあわあわとタオルを持ち出して渡したり、温かいお茶を汲んだりして出迎えた。
※特定の動画配信者のことを言っているわけではございません。悪しからず
以下、どうでもいい易経の補足
易経は基本筮竹という細長い棒を使用して占います。
よく昔の時代劇とかで、占い師が菜箸みたいな棒をたくさん持ってジャラジャラやってた描写がありましたが、アレです。古代の陰陽師も占うときに使用していたそうです。
で、そんな易経ですが、実は硬貨を使えば誰でも気軽に時短で占うことが出来ちゃいます。
手順としては以下
1 100円玉を1枚、10円玉を5枚用意する。
2 日本国 と書いてある面を「陽 (ー)」数字が書いている面を「陰(--)」とします。
3 両手で何を占うか想像しつつシャッフル
4 硬貨を「下」から「上」に向かって、まっすぐ配置していきます。
5 配置したら六十四卦の配当表(ググれば出てきます)をみながら、卦を調べます。
今回晴朗氏が占った結果が
ー陽 上爻(100円玉が配置)
--陰 五爻
ー陽 四爻
--陰 三爻
ー陽 二爻
ー陽 初爻
になるので、六十四卦の配当を調べると「火沢睽」となるのです。
で、初爻から上爻までもそれぞれ意味があるので、「火沢睽」全体の意味を調べた後、100円玉が配置されている爻の意味を調べることで、吉凶を判断します。
よろしければお試し程度にどうぞ




