本当に不思議なものです
その後、二人はしばらくお互いの身の上話をして、互いの親交を深め合った。
「……____なぁ、お前は他者の過去世を見ること以外に何ができるんだ?」
そんな時、晴朗は占い師の力が本物であった場合に聞きたかった質問をぶつけた。
「普段は人生相談や霊視、生き霊鑑定……なんでも受け付けていますよ」
「……であれば……、特定の人物の居場所を突き止めることは?」
「……目的によります。犯罪行為へとつながるようなことを考えている方には、お断りしています」
「どうやって判断してるんだ」
「目を見れば分かります」
「俺は?」
占い師は晴朗の目を少し見つめた。
晴朗の瞳からは、強い怒りと、必ず見つけて捕まえ、然るべき罰を受けさせる。そういった強い思いが感じ取れ、占い師はそんな彼の気持ちを汲み取った。
「…………居場所を知りたい方のお名前、できれば写真。なければ特徴をお教えください」
了承と受けった晴朗は自分のスマホを取り出すと、ある画像を見せた。
「雨隙空臣という男を探している。……コイツだ」
画面には、大学教員時代の雨隙の写真が表示されている。
現在雨隙は事実上の解雇という扱いになっており、すでに雨隙の顔写真や専門分野といった項目は、大学のホームページからは削除されている。
「なるほど……」
占い師は片手を画面に、触れるか触れないかギリギリのところで添えると、静かに目を閉じて呼吸を整え、精神を集中させた。
晴朗はじっとその様子を見守った。
「…………かなり、喧騒とした場所……、多くの人口が密集、交差している……。東京……?」
「の、どのあたりかは分かるか?」
少しずつ、占い師が頭の中に浮かび始めた風景を言葉にしていく。
「……大きな駅があります。……恨み、妬み、怒り、悲しみ、欲望……、あらゆる負の想いがこの地に集約している……」
「……新宿か……? それとも池袋……?」
晴朗は片手で口元を覆いながら、東京都内で特に人口が密集している地域を思い浮かべた。占い師は更に精神を集中させて、頭の中に浮かんでいる風景をより鮮明にさせていく。
「……川が、流れています……。川が行き着く先……負の念が底へと沈んでいる……」
「……川……沈む? ……沈む……底……、……谷……。……もしかして……」
ある場所に考えついた晴朗は、借りている保憲のスマホを取り出すと、ある場所の衛星写真を見せた。
「こんな場所か?」
「! はい、浮かんできた風景と同じです。この近くに潜伏しています」
「……なるほど……。渋谷か……」
そこは渋谷のスクランブル交差点だった。
「……」
晴朗がスマホを操作しながら渋谷のどこ辺りかを模索していると、占い師が何か言いたげな視線を向けていることに気づいた。
「どうした?」
「いえ……。……」
他に何か見えたことでもあるのかと、晴朗が聞いてみるも、占い師は言うべきか迷っているのか、とても気まずそうに目線を逸らしている。
「今はどんな情報でも欲しい。頼む」
晴朗が懇願すると、占い師は観念したように「……では……」と言い淀みながら話し始めた。
******
降り続ける雪が、あらゆる自然の音を吸収し、庭に咲いている山茶花に雪化粧を纏わせていく。夜の帳が下り、外が闇と静寂に包まれつつある中、占い師の家に、さくさくと雪の上を踏み締める音が近づいていく。
そしてカラカラと引き戸が開けられたかと思うと、聞き慣れた声が、床の間にいる二人の耳に届いた。
「ごめんください」
「……保憲、か」
「……おや、保憲様もいらっしゃるとは。今日は吉日かな」
「忠行様もおられるぞ」
「それはそれは……」
占い師が出迎えをすべく立ち上がると、足早に玄関へと向かった。
「晴朗!」
「お疲れ、遅かったな」
数時間ぶりに合流した賀茂親子は、怪我もなくいつも通りしている晴朗の顔を見て、ようやく肩の荷が降りたかのように安堵していた。
「つ……疲れた……!」
保憲は床の間に入ってくるなり、畳の上にベッタリと座り込んでしまった。
「大丈夫か?」
「ここまで辿り着くのに中々苦労してね……」
「ナビ通りに進んでいるはずなのに、何回も道間違えるし……途中で雪が本格的に降り始めて寒いしで……火鉢があたたかい……」
「あ〜……なるほど……」
賀茂親子が火鉢を囲んで暖をとっている中、晴朗は先ほど占い師が口にした。『辿り着ける人にしか辿り着けないように、ちょっとした細工を施している』という言葉を思い出し、この二人は占い師の術中に見事ハマっていたことを察した。
「晴朗は大丈夫だったか?」
「あぁ、スマホ。ありがとうな」
「なんともなくてよかった」
晴朗がずっと借りていたスマホを保憲に返すと、
「ようこそおいでくださいました。こちら、よろしければどうぞ。お召し上がりください」
占い師が3人分の抹茶ロールケーキと、温かいほうじ茶を持って戻ってきた。
その後、占い師は晴朗にした説明を、改めて賀茂親子にも説明した。
「そういう……理由……でしたか」
「はい、混乱させてしまい、本当に申し訳ございませんでした。改めてお詫び申し上げます」
保憲も、晴明の名前を騙っていたことに憤慨していたが、力を持つが故の孤独感という占い師なりの事情を聞くと、怒りよりも同情の感情の方が勝っていった。
「……____ですがまさか……、忠行様と保憲様にもお会いすることが叶うとは……、縁とは、本当に不思議なものです」
「俺たちもまさか……、本物に出会えるとは思っていなかった……」
「つい最近インチキ野郎に出くわしたばかりだもんな」
「うっ……」
保憲の中にある、苦い思い出が蘇った。
先月の動画配信者のトークイベントにて、『過去世がわかる』と謳っておきながら、保憲に対してトンチキな鑑定結果を口にした月読右近との記憶である。
「ちなみに……なんですけど……、俺の過去世に中世ヨーロッパの騎士が見えたり……?」
保憲は恐る恐る、占い師に自らの過去世について確認すると、
「しませんよ。ご安心ください」
占い師は苦笑しながらも答えた。
保憲は心の底からホッとしたように「良かった……」と呟いた。
実際の陰陽師は能力者でもなんでもないんで、もしガチのマジな能力者が出てきたらあっさり嵌められそうだなと思いました。




