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-契- 現代陰陽師奇譚  作者: KUMANO
八章 もう一人の晴明

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伝説のようには

 

「うぉ、めっちゃいい景色だな……」

 

 晴朗は急な階段にもスピードを緩めることなく、荒神峰(こうじんみね)と、その奥に迷路のように広がっているお塚を進む。本来の登山ルートからは外れているためか、他の観光客の姿はほとんどいなくなっていた。


 足早にお塚を超えると、その先は視界が開け、現在の京都市を一望できる見晴台にたどり着いた。

 

 空は相変わらずの曇天だが、真冬で空気が澄んでいる影響もあり、雪と共に吹く風は冷たいが自然と心地よい。他の参拝客の姿もなく、この状況でなければ保憲や忠行と共に、しばらく滞在したくなるような、穴場のような場所だった。


「記念に写真でも……って、今持ってねぇんだった……!」

 

 晴朗はこの素晴らしい風景を写真に残そうと、ジーンズの後ろポケットに手をかけたが、出てきたのは自分のスマホではなく、連絡用として借りた保憲のスマホだった。


「……一枚だけ……」

 

 保憲が自ら渡してくれたとはいえ、連絡する以外で使用するのは流石に気が引けた。けれどもこの風景をそのままスルーして行くのも少し勿体無い。そう思った晴朗は、今も自分に代わって、もう1人の安倍晴明の姿を探してくれている親子への、せめてものお礼。という意味を込めて、一枚だけこの風景を写真に残した。

 

 するとまるで「さっさとしろ」と急かすように、ガアガアとカラスの鳴き声がどこからともなく響いてきた。


「そうでした……!」


 晴朗は撮った写真を確認する暇もなく、カラスの声に導かれるまま先を急いだ。

 

 見晴台を超えると、再び小さな四つ辻へとたどり着いた。

 

 四方には鳥居が立ち並んでおり、辻の一角には小さな祠。そして『白瀧大神』と記され、風に煽られている登り旗が並ぶ降り階段。他の道は看板もなく、どこへと繋がっているのかは分からない。パタパタと仰がれている登り旗だけが、無機質な四つ辻での唯一の道順を、静かに示していた。

 

「どっちに行った……!?」


 晴朗はその四辻の中央に立ち、ぐるりと一周するように見渡した。すると頭上から、カアカアとカラスの鳴き声が降ってきた。

 

「いた! ……って、別個体か……?」

 

 見上げると、古びた電柱に一羽のカラスが止まっている。しかし嘴には何も咥えていない。カラスは遠方で鳴いている別のカラスとコミュニケーションを取っているのか、しきりにカアカアと鳴いている。

 

「おい! 俺のスマホを強奪していったカラスを知らないか!」

 

 晴朗は電柱に止まっているカラスに向けて話しかけた。だがカラスは見向きもしない。

 

「……伝説のようにはいかないか……」

 

 伝説の中における安倍晴明(あべのせいめい)は、カラスと会話ができた。またカラス同士の会話から天皇の病気の原因を当てたりと、人並外れた能力を発揮していたが、今晴朗の頭上で展開されているであろうカラス同士の会話は全く聞き取れないし、話しかけてももちろん無視。

 

 晴朗はうまく行くわけがないと分かっていながらも、誰も応えてくれない今、自嘲気味に笑った。


「……仕方ない。適当にこっちから……」


 スマホを強奪していったカラスを見失ってしまった晴朗は、とりあえず片っ端から探してみようと歩き出した。


「うぉっ!?」


 すると突然、一陣の風が吹き抜けた。

 その風は『白瀧大神』へと続く階段に向かって、ヒュウヒュウと音を立てて吹いている。

 

「……」


 電柱に止まっていたカラスはいつの間にかいなくなり、風音以外の音は聞こえない。


 たが間違いなく、この先に『いる』。


 そう確信した晴朗はまるで(いざな)われるように、風が吹いているその階段を降り始めた。

 


以下どうでもいい安倍晴明裏話

安倍晴明といえば「狐」というイメージが強いですが、実はカラスともそこそこ縁深かったりします。

安倍晴明物語では、カラス同士の会話を聞き取って、天皇の病気を知ったり。

古事談では、晴明は俗人ながら那智の滝(和歌山県にある凄い滝)で修行を行っていたとされていたり。

東京の葛飾に、唯一晴明が勧請したとされている熊野神社があったり。(熊野神社における神の使いは「八咫烏」)

カラスというか、熊野神社と縁深かったのかもしれないっすね。


あとこれもどうでもいい余談ですが、京都にある上賀茂神社、下鴨神社のご祭神は賀茂建角身命かもたけつぬみのみこと。この神様も別名「八咫烏」です。

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