ぶっ飛ばして差し上げますよ
「晴朗、新幹線のチケットは3枚分な」
「は?」
「京都駅から伏見稲荷までは少し距離があるから、レンタカーも借りちゃおう」
「えっ」
戸惑う晴朗を無視して、保憲は手元のタブレットで宿泊予約サイトを、忠行はレンタカーをノートパソコンで検索し始めた。
「確かお前の邸宅があった場所、今はホテルになってるらしいな。どうせだからそこに泊まるか!」
「ちょ……」
「ついでに観光もしようか。晴明神社と陰陽寮跡地がどうなっているか、行ってみたかったんだ」
「はい! 私は大将軍八神社と梅小路に行きたいです!」
「待てって!」
ごく自然に当日のスケジュールを組み始めた親子を静止しようと、晴朗が声を上げた。
「ん?」
「別に……ついてこなくても」
「何言ってんだ。一千年ぶりの里帰りだぞ。行かない理由がないだろ」
保憲は当然だと言わんばかりに、安倍晴明邸宅跡に構えられているというホテルの宿泊プランを確認していた。
「でも……、忠行様だって、仕事……」
「その呼び方やめなさい。その三連休なら私も休みなんだ。だから気兼ねなく行ける」
「せっかくのお休みなのに……」
「私が付いて行きたいだけだよ」
そして当事者である晴朗よりもウキウキとした様子で、京都旅行のスケジュールを組み始める忠行。まだ少し戸惑っていた晴朗に保憲は「それに……」と言いながら晴朗の肩に腕を置くと、不敵な笑みを浮かべながら、
「お前の名前を騙っている奴のご尊顔を是非、拝んでみたいんでね」
と、表面上はにこやかな笑みを浮かべてはいるが、その声のトーンは僅かに低い。内面では、勝手に親友の名を使って商売をしている人物への、静かな、しかし確かな憤りが煮え立っていた。
「……仕方ないな……。よし、一千年ぶりに行くか。京都へ」
これはもう、何を言っても付いてくるだろう。
そう腹を括った晴朗は、新幹線のチケット枚数を1枚から3枚に、変更したのだった。
「……それにしても……」
三人がそれぞれ新幹線やホテルの予約をしている時、ふと、忠行が素朴な疑問を投げかけた。
「あの時現場に居合わせたのは私たちだけなのに、一体いつどこで伝説として流布され始めたのだろうか?」
「……」
忠行の言葉に、保憲の手が止まる。彼はゆっくりと首を巡らせ、すぐ隣に座る「情報源」であろう人物――晴朗に向かって、じとりとした冷ややかな目線を送った。すると晴朗は、露骨に泳いだ視線を逸らし、不自然なほど熱心にスマホの画面を見つめ始めた。
「……お前だな?」
「……」
沈黙を貫く晴朗だが、そのこめかみには隠しきれない冷や汗が、一筋流れ落ちている。
「……」
保憲は「さっさと白状しろ」とでもいいたげに、晴朗をじっと見つめて無言の圧力をかけていく。すると彼は堪忍したように、渋々と口を開いた。
「……俺は、ただ……こういうことがあったんだぜ……、っていう思い出として、吉平たちや道長に話しただけだ! 決して誇張して自慢したりとかはしてないからな!」
「…………それで伝言ゲーム形式で、様々な人々に語り継がれていくうちに尾ひれがついて、現在のような形になったのか……。……ほんっとに……、お前なぁ……」
晴朗は語気を荒げ必死に釈明をしているが、誰がどう聞いても言い訳にしか聞こえない。保憲は一応納得しつつもため息まじりの呆れた言葉が漏れ出た。
「私なんて……、陰陽道を研究している人によっては……、百鬼夜行が迫っているっていう時に……、呑気に眠りこけてたへっぽこ……。扱いされてるから……」
一方で忠行は、しょんもりとした表情になると「そうなんだけど……ハッキリ言われるとやっぱりちょっと凹む……」とポソポソと消えそうな声で呟きながら肩を落とした。すると晴朗と保憲は途端に怒りの形相になり、
「どこのどいつですか、そんなことを抜かす野郎は。私が代わりにぶっ飛ばして差し上げますよ」
「あの時父上は今でいう社畜のごとき忙しさで大変お疲れだったんですから! 仕方がないではありませんか!」
『労働基準法』など存在しない平安時代の中で、身を賭して朝廷に尽くした忠行を全力でフォローしたのだった。
『今昔物語集巻ノ二十四、第十六話。安倍晴明、師に従って道を習う』
安倍晴明を語る上では絶対に欠かせないと言っても過言ではない有名なエピソード。
このエピソードには忠行プロとの交流のほか、ある日突然喧嘩を売ってきた智徳法師を返り討ちにする話や、葉っぱ一枚でカエルを呪殺する話などが収録されております。
で、実はこの一個前のエピソード。第十五話には、賀茂保憲のエピソードも収録されているのです。
それが「賀茂忠行、息子・保憲の才を知る」です。内容は、「幼い保憲が鬼の存在を認知し、父忠行がその才能を見出す」という、晴明と内容がかなり似通っているのです。
ここからは書いている人の推測なのですが……おそらく後世になって、晴明の子孫が保憲のエピソードを丸パクリして創作した話が『第十六話。安倍晴明、師に従って道を習う』なんじゃないかなぁ〜と思っております。だってあまりにも内容が似過ぎている。忠行に居眠りをさせたのも、安倍氏による意図的な賀茂氏sageが伺えるような…
他にも、次のエピソード第十七話には『賀茂保憲と安倍晴明、射覆(箱の中身を当てるゲーム)をする』という、内容は失われたものの、題名だけが伝わっているものもあります。
確か安倍晴明と蘆屋道満が似たようなことをしているエピソードが伝わっているような……?
まぁそれはそれとして、この物語では二つのエピソードをがっちゃんこして、両方とも実際にあった出来事として進めていきます。
あくまで書いている人の根拠なしの推測なので、話半分でどうぞ。




