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-契- 現代陰陽師奇譚  作者: KUMANO
八章 もう一人の晴明

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ややこしいことになってる……

 


「『安倍晴明』の……生まれ変わり……だって……?」


 明彦と浩史が研究室を出て行った後、晴朗は動揺を隠せず頭を抱えていた。

 

「……だめだ。検索しても出てこない」

「地元の人しか知らない。大々的な宣伝はせず、静かに営んでいるんだろうね」


 保憲はタブレットで(くだん)の占い師についての情報を探った。『京都』『占い』『安倍晴明』『伏見稲荷』などをキーワードに入力しては、あらゆる検索エンジンを駆使して調べ回ってみたものの、それらしい情報は一切出てこなかった。


「じゃあ、俺は……一体……?」


 晴朗は混乱しているあまり、自分をも見失いかけていた。

 保憲はそんな晴朗の両肩を掴むと、以前誤った過去世を伝えられ、同じように混乱していた自分に対してしっかりとフォローしてくれた恩を返すべく、必死に語りかけた。


「落ち着けって! 安倍晴明(あべのせいめい)はあくまで伝説上のお前だろう! 逸話の中のお前しか見ていない不届者が勝手にお前を騙っているだけだ!」

「伝説上の『安倍晴明()』……? てことは『安倍晴明()』は……? 何者……だ……?」

「いつもの威勢の良さはどうした! お前は『安倍晴明(あべのはるあき)』! ちょっと口が悪くて態度はでかいけど、誰よりも面倒見が良くて男気のある俺の、一番弟子! そうだろう!?」

「『晴明』の読みが違うせいでややこしいことになってる……」


 伝説上に語られている安倍晴明(あべのせいめい)と、賀茂親子がよく知っている安倍晴明(あべのはるあき)。名前の読み仮名が伝説と実際で異なっているせいで、晴朗は余計混乱の渦に巻き込まれてしまった。


 親子二人もどうやって晴朗を正気に戻すべきか、あたふたと慌てふためいた。

 

「そ、そうだ! 晴朗! 昔、百鬼夜行……という名の、死霊たちの存在を私に教えてくれたことがあっただろう」

「それだ!『今昔物語集巻ノ二十四、第十六話。安倍晴明、師に従って道を習う』あれは実際のところどうだったんだ! 言ってみろ!」


 すると忠行が、かつての思い出を共有することで正気を取り戻させようと試みた。保憲もそれに同調し、改めて晴朗に語りかけた。

 

「……あれは……確か……」


 晴朗は取り乱していた心を落ち着かせるように、少しづつ、かつての記憶を掘り起こしていった。

 


 *******



 延長五年(927年) 十二月


 

 冷たい風が吹き付ける夜。

 月明かりに照らされた平安京。


 真っ暗な夜道を、わずかな松明の明かりを頼りに、一台の牛車がカラカラと音を立てながら走っていた。


「……本日もお勤め、お疲れ様でございました。父上」


 牛車の中には、ピシリと背筋を伸ばし、まるでお手本のような正座をしている童子が一人。

 賀茂保憲(かものやすのり)、この時10歳である。

 まだ元服は迎えておらず、生成色(きなりいろ)の長く、少々癖のある髪を角髪(みずら)型にまとめている。


「あぁ、突然同行したいと願い出た時は驚いたが……、どうであったか?」


 対して、保憲と向かい合うように座り、柔和な笑みを浮かべている男。

 賀茂忠行(かものただゆき)、この時30歳。陰陽寮の権陰陽博士(ごんのおんようはかせ)の任に就いている。

 

 この日、忠行は依頼を受けて、占いと祭祀を執り行うべく貴族の家へと行っていた。

 本来は一人で赴くのだが、なぜだか今回は息子の保憲が、進んで同行させてほしいと願い出ていた。


「はい、とても良い経験をさせていただきました。願いを聞き入れてくださり、ありがとうございます」


 保憲はハキハキと喋りながらぺこりと頭を下げた。


「そうか、それは良かった。……きっとお前は、良い陰陽師になれるだろうな」

「必ず父上のご期待に添えるよう、今後も精進いたします」


 ぽっかりと浮かぶ月が、そよそよと吹く風に乗って流れる雲によって、わずかに姿を隠した。

 カラカラと走る牛車は、大宮大路を北上していく。

 時刻はすでに子の刻。生き物の気配はなく、外を歩く共たちの足音と息遣い。そして牛車のカラカラという音が聞こえるばかりである。


「……」


 コクリ、と、忠行の頭が一度大きく動いた。


「大丈夫ですか。父上」

「ああ……」


 胡座をかき、腕を組んだままじっとしていた忠行であったが、どうやらうたた寝をしていたらしい。

 

「お疲れでしょうから、どうかそのままお休みください。家に着いたら私がお知らせいたします」

 

 ここ最近の忠行は、午前は陰陽寮で仕事、午後は貴族のもとで占いと祭祀をこなし、時には今日のように夜遅くまで及ぶこともあり、多忙な一日を過ごしていた。本人は決して顔には出さなかったが、実際かなり疲労が溜まっているはず。少し辛そうに、摘むように眉間を抑える忠行を見て、保憲はそのまま眠るように勧めた。


「すまない……では……、少し……だけ……」


 忠行は申し訳ないと思いつつも疲労からくる睡魔には抗えず、最後まで言い終える前に、目を閉じて眠りへと落ちていった。


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