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-契- 現代陰陽師奇譚  作者: KUMANO
八章 もう一人の晴明

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人の振り見て我が振り直せ


「失礼いたします」

 

 研究室の扉を開けると、温かい空気が3人の体を包んだ。室内は部屋の主人である忠行は不在だったが息子の保憲が一人、タブレットを開いて小論文の作成に取り組んでいた。

 

「おー晴朗、お疲れ……と、友だちか」

「こんちわーっす」


 友人らは保憲に対して軽く会釈をしてから防寒着を脱ぎ、空いている椅子に腰掛け、晴朗は保憲の隣に腰を下ろした。

 

「で、相談したいことって?」

「それがさ〜……」


 明彦はため息まじりに相談内容を話し始めた。

 要約するとこうである。

 

 明彦には昨年の10月ごろから付き合い始めた彼女がいるのだが、最近とてもそっけないのだという。前までは積極的に連絡をくれたのに、今は既読、未読スルーは当たり前。返答も《ふーん》や《また今度ね》のみで、関係がかなり冷え込んでしまっている。

 

 といった内容だった。

 

「……____俺なんにもしてないのに! 酷くね!?」

「……ふうん」

「そう! まさにそんな感じ! なぁ、どうすればいいと思う?」


 晴朗は興味なさげに頬杖をつき、お茶を飲みながら答えた。明彦は焦ったように答えを急かした。成り行きでついてきた浩史は明彦の隣に座り、口を挟むわけでもなく静かにスマホをいじっている。


「残念ながら相手方は、もうお前に興味ないんじゃないか。遅かれ早かれ、関係終了の連絡が来ると思うぞ」

「は!? なんで!」

「そうなる原因を作ったお前がその様子じゃあ尚更だ」

「全部俺が悪いって言いたいわけ?」

「そういった極端な考えも原因の一つだろうな」


 同調されるどころか淡々と(さと)され、明彦は言い淀んだ。

 

「……で、でもさぁ、何も言わないっていうのもどうかと思うけど?」

「というと?」

「俺はちゃんと『なんか最近そっけなくね?』って聞いたんだぞ! それなのに向こうは『そう?』だけで終わり!言いたいことがあるなら言えばいいだろって!」

「その言葉、付き合ってまだ間も無くの頃のお前自身に言ってやれ」

「え」


 明彦は、まだ現在の彼女と関係を始めた頃のことを思い返した。

 

 ____このあとさー……げ、

 ____どうした?

 ____……彼女からの連絡

 ____なに、新しい彼女できたんだ

 ____うん。連絡してくれるのはいいんだけど、ちょっと頻度が多くて返すのダルいんだよねぇ

 ____返ってこないよりはよくね


 見た目が可愛いくていい子そうだから。と、明彦からアプローチして付き合い出した。だが明彦は、その女性と付き合うこと。を最終目標にしていたせいで、その後の向き合い方が疎かになっていた。何度か周囲の友人から態度を改めた方がいいと咎められたものの、彼は『向こうも文句言ってこないし別に問題ないだろう』と甘く考え、結果その報いが今、回ってこようとしていた。

 

「『人の振り見て我が振り直せ』以上。美味い抹茶スイーツ、期待してるぞ」


 そして晴朗のトドメとなる一言を受け、明彦は自らの行為を大いに反省することになったのだった。


「……晴朗ってさぁ」


 晴朗のお説教を受けて、反省し落ち込んでいる明彦を横目に、ずっとスマホをいじっていた浩史が視線を晴朗に移し、おもむろに口を開いた。

 

「ん?」

「なんていうか……本当、同い年に見えないんだよなぁ。……過去世の記憶でもあんの?」

 

 晴朗は以前からも、友人らの相談にはよく乗っていた。少々口は悪いものの、良くも悪くもハッキリと物申す姿勢と、要点を的確に突いた助言を信頼してのことだった。

 それを理解した上で、あくまで浩史は冗談で言っているハズなのだが、その的を射た発言に思わず晴朗と、隣で話を聞いていた保憲の肩がギクリと跳ねた。

 

「そ、んな訳ねぇだろ。何いってんだ」


 晴朗はなんとか平静を保ちながら笑って受け流したが、内心は冷や汗を垂れ流し、なんとか紡ぎ出した言葉はどことなくギクシャクとしていた。浩史はそんな晴朗の動揺には気づかず、壁に陳列されている沢山の本を眺めながら再び口を開いた。

 

「いやさ、ちょっと話変わるんだけど……、元旦に彼女と京都に行ってきたって、前言ったじゃん?」

「ああ、言ってたな。お土産の抹茶ブラッ○サンダー美味かった」

「それは良かった。でさ、彼女が占いやりたいっていうから、伏見稲荷付近にある適当な店に入ったんだ。そうしたら、色々とズバズバ言い当てられてさ、彼女も俺もびっくり」

「ふうん……、例えばどんなことを言い当てられたんだ?」

「え〜っと確か……、俺たちが出会った場所とか、付き合い始めた時期とか……」


 晴朗は本当にその占い師が本物なのか、それとなく探りつつ興味津々に浩史の話に聞き入っている。隣に座っている保憲も、視線はタブレットに向けながらも聞き耳を立てていた。

 浩史曰く、その占い師は二人の基本的な性格はもちろん、お互いの関係や、最近こんな場所に行った。といった、SNSにも公開していない、二人にしか知り得ない情報を次々と当ててきたのだという。

 

「……でね、その占い師が『君たちは過去世でも仲睦まじい夫婦だったから、今世も互いを尊重する気持ちを忘れなければ、きっと過去世以上に良い関係を築けるだろう』……って言ってくれて」

「なるほど、それで過去世の記憶か。……にしても、中々良い占い師に当たったな」


 晴朗はここ最近、インチキで人を欺く不届者たちしか見ていなかったからか、まだその占い師が本物かどうかの判断はできなかったが、聞いている限りのその的中率に、純粋にとても興味が湧いていた。

 

「それはそう。だからさ、ついでになんとなく聞いてみたんだよ、その占い師に。『あなたの過去世も占い師だったんですか?』……って。そうしたら……」


 浩史は一息おいてから、当時その占い師が言った言葉をそのまま再現した。


「『____あまり表立っては言っていないから、内緒だよ。実は私は……『安倍晴明』の生まれ変わりなんだ』……って」

「ほぉ〜……………………ほぉ??」

 

 浩史による衝撃的な言葉に、晴朗は頭で理解するのにワンテンポ遅れ綺麗な二度を見をし、保憲は飲もうとしていたカフェラテを溢し盛大にむせ返し、ちょうど良いタイミングで研究室に入ってきた忠行は鞄を落とし、呆然とした様子で入り口に立ち尽くしていた。


「最初何言ってんだって思ったけどさ、見た目の印象がかなりっぽかったから、なんか説得力あったんだよね〜……。って、やべ、内緒だっつう話だったのに言っちゃった。まぁ本当かどうかはともかく……、この話は内緒でよろ」


 大いに混乱している3人を他所に、爆弾を投下した浩史はなんてことない様子で、再びスマホをいじり始めたのだった。


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