これ以上は営業妨害だよ
「いい加減にしてください」
普段感情に任せた行動は絶対にとらない保憲による、凄みが感じられる態度に智尋はもちろん、長年忠行の隣で彼を見てきた雨隙も、目を丸くして驚愕した。
「良き友として……、あなたと長年付き添った我が父を裏切ったあなたが、先月あの村で行った悪逆無道たる行為。決して許されたものではありません。にも関わらず……! あなたは知らぬ存ぜぬとシラを切り、あまつさえここで更なる悪行を重ねるおつもりですか……!」
憤然と抗議する保憲に対して、雨隙はスラリと目を細め挑発するかのように笑った。
「証拠は?」
「は……?」
そしてここまで諭されても罪を認めないどころか、開き直った態度をとる雨隙に二人は愕然とした。
「僕が悪いことをしたという証拠は、どこにある?」
「お前……! 厚顔無恥もいい加減に……!」
ついに堪忍袋の緒が切れた晴朗が勢いよく立ち上がった。その衝撃で椅子が倒れてしまったが二人は目もくれない。
「確かに、僕はあの村に行った。大学教員という狭っ苦しい肩書きに飽き飽きしてね。けど、あの村は不運にも、不審火によって大規模な火災に見舞われた。そして、山ごと消滅している。僕は幸運にも助かったけれど……今やあの村には何も残されていない。そんな中で、僕がしたという悪行とやらを、果たしてどうやって立件するつもりかな?」
雨隙は表情ひとつ崩さず、まるでするすると抜け道を通るかのように、あくまで自分は無関係の身である。という姿勢を貫いた。
「当時の様子を、撮影か録画でもしたのかな? してないよね? それなのに寄ってたかって悪者扱いされたんじゃ……溜まったものじゃない」
「この野郎……!」
「むしろ……君たちさえ来なければ……、あの村は今も再興にむけて頑張っていたはず……」
「責任転嫁も甚だしいな……。お前たちがあの村でコソコソと怪しいことをしていたのがそもそもの発端だろうが!」
「晴朗、やめろ」
今にも殴りかかりそうな剣幕になっている晴朗を、保憲の一言が止めた。「お前はそれでいいのか」と言いたげな顔をした晴朗が振り返ったが、保憲の隣にはまるで不始末をしてまった子犬のように怯えている智尋の姿が視界に入った。
いつもは元気そうに上がっている眉も、不安そうなハの字に下がっており、そんな彼の表情を見た晴朗はバツが悪そうに俯き、握りしめていた拳も緩めた。
「……そういうことだから、用がないのならさっさと出て行ってくれないか。これ以上は営業妨害だよ」
相変わらず雨隙は飄々とした態度で、彼らに帰るよう促した。
晴朗は一度大きな舌打ちをすると、椅子とともに床に落ちた自分の黒いダッフルコートを乱雑に拾い上げ、「智尋、帰るぞ」と言いながら彼の手を掴んで足早に店を出ていった。
店内に残された保憲は、やっと面倒な仕事が終わったとでも言いたげに、立ち上がって腰に両手を当て、上半身を左右に揺らしている雨隙を静かに睨んだ。
「あなたは本当に……我が父を裏切ったのですね……」
「……裏切る? なんのことやら……」
ストレッチを終えて、大きく深呼吸してから、雨隙は振り返り、
「僕は最初から、彼のことを友だと思ったことはないよ」
そう言い残して別室へと繋がる扉のドアノブに手をかけた。
「……あぁ、そうそう」
次来た時には必ず捕まえてやろうと、その後ろ姿を恨めしい視線で見つめていた保憲に気づいてか、雨隙は扉を開けたと同時に声を上げた。
「またここに来ようとしても無駄だからね」
まるで思惑を見透かしているかのような言い方に、保憲の顔が僅かながら不快そうに歪んだ。
「今日僕がここに来たのは、エリアマネージャーとして巡回しに来ただけだから」
最後に雨隙は再び振り返ると、不気味なほどに屈託のない笑顔のまま、「それじゃあね」と言い残し扉の向こうへと消えていった。




