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-契- 現代陰陽師奇譚  作者: KUMANO
七章 禍福は糾える縄の如し

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約束できるか?


「おそば美味しかった〜! 賀茂さんご馳走様です!」

「ご馳走様」

「どういたしまして、また行こうな」

「うん!」


 お蕎麦を食べ終えた3人は蕎麦処を出て、そろそろ帰路に着こうと、駅方面へと歩き出した。右手に目を向けると車が忙しなく行き交い、道路を挟んだ向こうの歩道では、午後になっても神社へ向かう参拝客がちらほらと歩いているのが見受けられた。


 晴朗は、何気なく反対側の歩道に視線を向けた。


「(去年、あんな建物あったか……?)」


 すると、真新しい3階建ての建物が視界に入ってきた。

 昨年保憲と二人でこの場所にきた時は、まだ何もない更地だったはず。


 このあたりも土地開発が進んでいるのだろうと、晴朗はありきたりなことを予想しながら再び進行方向に視線を戻そうとした。だが、


「……!」


 忙しなく行き交う車と、神社へ向かう参拝客の隙間。

 その真新しいビルの入り口から中へ入っていく一人の人影。その一瞬を、晴朗の目は見逃さなかった。


「(アイツは……!)」


 頭で考えるより先に、晴朗の体は動き始めていた。


「お、おいどうした晴朗!」

「なに!? どこ行くんだよ!」


 突然進行方向とは逆に走り出した晴朗に、保憲と智尋は驚きながらも慌てて後を追おうとした。しかし晴朗が渡った歩道の信号は、晴朗が渡り終えたと同時に赤信号になり、二人は取り残されてしまった。


「晴朗! おいって!」

「アイツはまた……!」


 智尋が大きな声で呼ぶも晴朗は止まらず、真新しい建物の中へと姿を消してしまった。

 ようやく信号が変わり、少し遅れて二人は晴朗の後を追った。


「ここだよね? 晴朗が入って行ったの?」

「ああ……」


 二人が見上げたその建物は、白を基調にした3階建て。1階にはお洒落なカフェが、2階はネイルサロン、そして最上階には『占い』と書かれていた。


「占い……3階かな?」

「……とにかく入ってみようか。晴朗を探そう」

「うん」


 二人は建物へ入ると、階段で3階へと登った。

 階段を登り切ると、お店の玄関の前で慎重に中を伺っている晴朗がいた。


「晴朗! なんだよお前! いきなり……」


 智尋が晴朗に詰め寄るが、晴朗はまるでに相手にせず、ただ店内を神妙な面持ちで見つめていた。

 

「一体どうしたんだ」


 保憲が語りかけると、晴朗は一息置いてから、


「……アイツがいた」


 と一言だけ、低く唸るように呟いた。


「アイツ? って、誰だよ」


 智尋が問いかけると、晴朗は怒りを堪えているような、ひどく顔を顰めた状態で、再び低い声でその名前を口にした。

 

「……雨隙(あますき)

「!!」


 その人物名を聞いた瞬間、保憲の表情も一気に強張った。

 同時に二人の脳内には、昨年末に河原毛村という小さな村で起きた凄惨な出来事が、鮮明に蘇った。


「それは……本当か」

「ああ、……一瞬だったが、間違いない……。忠行様を裏切り、天野を手にかけたあのクソ野郎が、ここにいる……!」


 晴朗は強く拳を握りしめて、怒りの感情を露わにしたまま薄暗い店内を睨みつけている。

 

「ね、ねぇ……なんの話してんの?」


 一人蚊帳の外となっている智尋は、誰のことだと首を傾げている。


「……智尋、お前は先に帰れ」

「はぁ!? なんで!」

「お前には関係ないからだ」

「そう言われて「はいそうですか」ってなれるか!」


 晴朗から一方的に帰宅を促されたが、智尋は断固反対した。


「よく分かんないけど……! ここまで来ちまったからには俺も一緒に行くからな!」

「子どもの遊びじゃないんだぞ。いいからさっさと帰れ」

「やだ!」

「こんな時に駄々をこねるな!」

「はいそこまで」


 二人の声が次第に大きくなり始め、店内にも聞こえることを危惧した保憲によって止められた。


「……智尋」

「な、何がなんでも絶対行くかんな!」


 先ほどまでの温かく穏やかな表情からは一転し、真面目で真剣な表情でみろしてくる保憲に、智尋は少しだけ怯んだが、それでも負けじとまっすぐ見つめ返した。


「……晴朗の言うとおり、これは俺たちが抱えている問題だ。詳細を話すことは絶対にできない」

「別にいい! 2人の邪魔は絶対にしないから!」

「邪魔しないのができるんなら、家にだって帰れるだろうが……」

「うっせ!」

「……勝手な行動は慎む。俺の言うことには絶対に従う。……約束できるか?」


 条件付きとはいえ、保憲から同行することを許されると、智尋はパッと笑顔になり元気よく「うん!」と頷いた。そんな二人の様子を見ていた晴朗は呆れと諦めが混ざった、小さなため息を一度ついた。

 


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