慈悲深くはねぇぞ
最寄り駅から5分ほど歩くと、目的地となる神社にたどり着く。
その神社は1000年以上もの歴史があるとも言われており、開運、厄除けに大きなご利益があるとして、全国的にも有名な神社となっている。
大きな木製の鳥居の前に来た3人。そのまま通ろうとした智尋とは異なり、晴朗と保憲は一礼してから鳥居の下を潜った。それを見た智尋も、見様見真似でぎこちなく礼をしてから、改めて鳥居の下を潜って参道を歩き出した。
長い参道を抜けて、手水舎で心身を清めてから御社殿へと向かう。
たくさんの参拝客が拝殿前で、お賽銭箱にお金を入れてから手を合わせ、祈りを捧げている。
3人も静かに並んで順番を待ちながら、お賽銭箱に入れる小銭をお財布から取り出した。
「よし! 大学合格祈願……!」
智尋は今年大学受験を控えており、良い所へ進学できるよう、握りしめた百円玉をお賽銭箱に投げ入れようとした。だがその時、その手を保憲の手が制した。
きょとんとした表情のまま見上げると、保憲はにっこりと笑って、
「お金は投げないで、静かに入れような」
智尋の手を持ったまま導くように、静かにお賽銭箱の中に小銭を入れた。
「神社さんは二礼二拍手一礼だ」
智尋は隣でお手本のように綺麗な礼をしている晴朗を見ながら、礼をして手を合わせた。
その後、3人はご祈祷を受けるため、長蛇の列が形成されている最後尾に並んだ。
「ねぇ、なんでお金投げ入れちゃダメなの?」
受付の順番を待っている間、智尋は素朴な疑問を二人に投げかけた。
「他の人だって、後ろからお金投げてたじゃん」
「お前は接客でレジ打ちのバイト、したことないのか?」
「あるけど?」
それがどうした?と言いたげに首を傾げている智尋に対して、晴朗は小さなため息を一度つくと、
「会計の時に、トレーに小銭を投げ入れてくる不届者がいたら、お前はどう思う?」
「イラつく」
「だろ? 神様も仏様もその感覚は一緒だ。物に対して敬意を払えない者、乱雑に扱う者に、ご利益を与えてやろうと思うほど、慈悲深くはねぇぞ」
智尋は素直に受け取ったのか「確かに……」と呟くと、拝殿に向かって小さく「すみませんでした!」と謝った。
どんよりとした曇り空。日差しが当たらないせいで、今日の各地の気温は昼間でも10度に届かないほど、凍てつく寒さを記録していた。しかし時間が進むにつれ参拝客はどんどん増えていき、その活気のおかげか3人の体は、常にポカポカとした温もりを持っていた。
智尋は首に巻いていたマフラーを外し、晴朗と保憲も、手に装着していた手袋を外して、素手でスマホをいじりながら受付までの時間を潰していた。
境内には多くの屋台も出店しており、時折吹く冷たい風に乗って、濃厚なソースの香りや、鉄板の上で料理をしている音が、3人の五感をくすぐっていた。
「ねぇ、今更な質問していい?」
ご祈祷が終わったら何を食べようか。そんな話をしていると、ふと智尋が再び素朴な疑問を口にした。
「神社とお寺の違いって何?」
「神道か仏教か。神様か仏様か。の違いだな、大まかにいえば」
智尋の疑問に、晴朗がすんなりと答える。
「神様と仏様って何が違うの?」
「神様は自然そのもの『八百万の神様』って聞いたことないか?」
「それはある! お米には一粒につき10人の神様がいるんだよね!」
「そんな感じだ。昔の人たちは、森や山、岩などに神様が宿っていると信じて、その場所に神社を創建し、祀ったんだ」
「対して仏様は、悟りを開いた人のことをいう」
「へ〜」
ここで再び、列が動き出した。
長い間列に並び、やっとご祈祷の受付を終えた3人は、暖房が効いた屋内の控え室でご祈祷の時間が来るまで待っていた。
周りには家族づれや友だち同士、あるいは恋人同士など、さまざまな参拝客が同じように待機している。中にはもう飽きてしまったのか、親に「帰りたい」と泣きながら駄々をこねている幼い子どもたち、広い待機室で自由気ままに走り回っている子どもを必死で宥めている親など、その様子は十人十色だった。
「二人は何をお願いすんの? ちなみにオレは受験&入試合格!」
「俺は身体健全」
「俺は家内安全だな」
そんな中で、3人が願う内容も三者三様だった。
「智尋、お前はどこの大学を受けるのか、もう決まってるのか?」
「特に決まってない。近ければ別にどこでもいっかなーって思ってるから、ここ行きたい! ……って場所がなければそのまま大学も同じ場所になるかなー」
かなり楽観的な考えでいる智尋に、晴朗はまた呆れたようなため息をついた。
「お前なぁ……そんなんじゃ将来路頭に迷うぞ」
「はぁ? 高校生なんてみんなそんなもんだろ。むしろ高三の時点で、将来の目標決まってる奴の方がレアだって」
「欲がねぇなぁ」
晴朗の馬鹿にしたような態度に、智尋はムッと頬を膨らませると、晴朗にくってかかった。
「そういうお前はどうなんだよ」
「まぁ、ある程度はな」
「なんだよ、言ってみろよ」
「心理カウンセラーの中でも唯一の国家資格である公認心理師。それを取ろうと考えてる。そのために心理学科を専攻したんだ」
「……意外としっかりしてるな」
「意外とは余計だ」
「……へんだ! 無駄に達者なそのお口で、お客サマに嫌味を飛ばさないようにせいぜい気をつけろよ!」
想像していた以上に、真面目に将来のことを考えていた晴朗に対して、ちょっと負けたような悔しさを感じた智尋は、虚勢を張るかのように晴朗の両頬を摘んで引っ張った。
思いもよらない方法による反撃に、晴朗の口からは「むいっ」という、少々間の抜けた声が漏れていた。
「ほにょやろ……!」
しかし晴朗もすぐに仕返しをすべく、智尋の両頬を摘んで引っ張り始めた。少々強めに引っ張っているせいか、「いででででで!」という悲痛の叫びが上がる。
「ほまえほほ、まふぁへんなやふにひゃまされてみひおはやまふなほ!(※お前こそ、また変な奴に騙されて道を誤るなよ!)」
「ふぁにいってふかふぁかんねぇお!!(※何言ってるかわかんねぇよ!!)」
「こら、やめなさいって……」
まるで子猫同士がじゃれ合いをしているかのような、小競り合いをしている二人に、保憲は「またか……」と心の中で呆れながらいつものように仲裁したのだった。
お米一粒に宿る神様は、正確には7人です。
以上、どうでもいい補足でした。




