これ以上は面倒見きれん
「賀茂さんはさ、普段はどこに初詣行ってんの?」
密集状態の電車の中、かろうじて会話ができる智尋と保憲が、目的の駅に着くまでの間他愛もない雑談に興じていた。
「俺はちょっと遠方にあるお寺まで家族と行ってる。それとは別に晴朗と二人で、毎年ここに来てお参りしているんだ」
「へ〜。いつから二人って一緒にいるの?」
「そうだな……、もうずっと、昔から……、一緒にいる」
そう言って奥の小さな車窓から見える、流れる風景を見つめ柔らかく微笑む保憲の表情からは、遠い過去を懐かしんでいるような憂いを帯びていた。
「幼馴染かぁ。いいなぁ〜……」
「智尋はいないのか?」
「うん。友だちは結構いる方だと思うけど、子どもの頃からずっと一緒なヤツはいないんだよなぁ〜……きょうだいもいないし……。あ! でもね」
そう言うと、智尋はジャケットのポケットからスマホを取り出し、ある画面を保憲に見せてきた。
「子どもの頃から飼ってる犬ならいるよ!」
「お、可愛いな。なんていうんだ?」
「『将軍』! じいちゃんが名付けたんだ!」
「はは、強そうな、かっこいい名前だな」
「でしょ! 見てみてこの、もっこもこでふっわふわな真っ白い毛! 抱き心地吸い心地抜群!」
智尋のスマホの画面には、綿あめのように白く、ふわふわな体毛を持った犬に抱きついて満遍な笑顔を浮かべている、智尋の写真が表示されていた。
「ふわふわな動物の毛を見てると、吸いたくなっちゃうよな」
「分かる! ……賀茂さんも動物飼ってるの?」
「ああ、ウサギを一羽」
「見せて見せて!」
保憲もロングコートのポケットからスマホを取り出すと、一枚の写真を智尋に見せた。
「これ……おじさん?」
「そう」
その写真には、リンゴを頬張っている小さな白いウサギの背中に、顔を埋めている忠行の写真が映し出されていた。
「最初、父さんが『お迎えしたい』って提案してきてな。でもウチは男4兄弟だから『これ以上は面倒見きれん』って、母さんが反対したんだ」
「おじさんが言い出したんだ……意外」
「なんか、動画配信サイトを何気なく見ていたら偶然ウサギの動画が流れてきて、あまりの可愛さに心臓をぶち抜かれたらしい」
「あぁ……その気持ちスッゲェ分かる」
「それで、どうしても諦めきれなかったらしくてな、自分でウサギについての生態やら何やらを徹底的に調べ上げて、『お世話は自分が責任持ってやる!!』……といった学会さながらのガチプレゼンを家族の前で披露して、それで母さんが折れた」
「熱意すげぇな……」
「お迎えしたらしたで、家族全員ぴょん丸の可愛さにやられて……。なんだかんだみんなでお世話させてもらってる」
「ぴょん丸っていうんだ……。なんか、カエルにそんな名前のキャラ……」
「それは『吉』の方な。……ん? どうした、晴朗」
二人がお世話をしている動物談義で盛り上がっていると、保憲の背中に潰されてそのままの晴朗が、再びモゴモゴと何かを主張し始めた。
智尋が耳を寄せ、何を言っているのかを聞き取った。
「賀茂さん、晴朗が今寿命5年くらい縮んでるって」
「もう着くから……」
「ちなみに晴朗はなんか飼ってたりすんの? …………え? 猫飼ってみたいけど猫アレルギー? あー……、それは、どんまい……」
3人の間に微妙な空気が流れたところで、やっと電車は目的地近くの駅へと停車した。
微妙な空気を一掃するかのように、冷たい外気が車内に吹き抜けた。
「ぶはぁ! ……俺の大事な寿命が10年縮んだ。どうしてくれる」
「さっきより増えてるじゃねぇか。どうもしねぇよ」
電車に乗っていたほとんどの乗客は、この駅で降り、目的地となる神社へ歩き出している。
3人も他の客たちに続いて、神社へと歩き出した。
ど根性……




