表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
-契- 現代陰陽師奇譚  作者: KUMANO
六章 前世を知る者

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

117/181

普通の人間として自由に生きるって決めたから

 

 

「……ハァ〜〜〜疲れたぁ〜〜〜……」


 家族との食事も終え、完全に陽が暮れた後に無事帰宅した保憲は、皺や汚れがつかないよう慎重に袴を脱いだ。化粧も落として、顔を洗うついでに一番風呂へ入り、湯船に肩まで浸かることでやっと一息つくことができた。

 

「やってみたいこと……か……」


 保憲は風呂場の白い天井をじっと見つめながら、今一度忠行から言われた言葉を反芻(はんすう)した。

 昔は親の後を継ぐのが当たり前だったから、今回も自然と、忠行が教員として働いている大学を選び、忠行が専門としている民俗学を専攻した。

 

 もちろん、民俗学を学ぶのも面白い。平安時代から現代に至るまでに紡がれた伝承や文化の変遷を、『過去を知っている』からこそ見えてくる視点から、更に深掘りしていくのは実に興味深いからだ。


 このまま父と同じように大学院へと進み、父と共に研究していくものだと、思っていた。


 だから忠行に、『やってみたいこと、好きなことを自由にやってろ』と言われても、自分が他の分野に力を注ぐイメージが全くと言っていいほど浮かばないのだ。


「……父上と同じ道じゃ……ダメ……なのか……?」


 保憲は髪を洗っているときも、風呂から上がってドライヤーで髪を乾かしている時も、寝巻きに着替えて半分こにしたアイスを母と食べながらテレビを視聴している時も。


「……う〜〜〜ん。頭がパンクする……」


 アイスを食べ終えて歯も磨いて、自室のベッドに潜り込んだ後も、彼の頭の中はずっと、将来へのことで頭がいっぱいになっていた。

 

 すると、枕元に置いていたスマホが静かに振動した。

 画面を見てみると、メッセージアプリを通じた晴朗からの着信だった。


《たぬきTVの新着動画、みてみて》


 晴朗からきたメッセージには、動画のリンクが一緒に貼り付けられていた。


 動画を視聴してみると、『陰陽師、安倍晴明の裏の姿に迫る!!』というタイトルの元、たぬたぬが陰陽師の歴史を、史実ベースでかなり細かく解説していた。


 その中には、安倍晴明の師匠という名目で賀茂忠行、そして保憲も紹介されていた。


 動画を視聴し終えると、ほぼ同タイミングで再び晴朗からメッセージがあり、


《及第点だな》


 という一言とともに、ニヒルな笑みを浮かべるカラスのスタンプが送られてきた。

 保憲はクスリと笑いながら、

 

《何様だお前は》


 と返すと、


《スーパー陰陽師安倍晴明様だが??》

《威張るな。ファンが泣くぞ》


 その小柄な体からは似つかわしくないくらい、大きな態度をとっている晴朗に、保憲は再びやんわりと笑った。

 それからしばらく二人は、メッセージアプリでダラダラと他愛もない雑談を続けた。


 晴朗によると、あれから呪物蒐集家(しゅうしゅうか)の呪呪原は突然動画内で引退を表明し、その後すぐにチャンネルも削除。そして晴朗曰く『インチキクソ野郎』こと月読も、あの日以来、彼が運営していた過去世鑑定の受付フォームへアクセスしようとしても一切繋がらなくなり、そのまま失踪していた。


 そのことを受け、たぬたぬは、『【謝罪動画】先日のトークイベントに参加してくださった皆様へ』といったタイトルで、月読がインチキだったことを正式に認め、謝罪している動画も投稿されていた。

 インチキを紹介してしまったことで、コメント欄もそこそこ炎上しているのかと思いきや、《いつもの巻き込まれ体質が発揮》や《騙す方が10悪い》《4万円パクられなかっただけ良かったね》といった、普段のたぬたぬの人柄を評価し、彼を擁護するコメントの方が圧倒的に多かった。


 そして、晴朗を個人的に評価した遅瀬だが、結局彼の動画出演は見送ったのだという。

 理由を聞けば、


《俺はもう、そういうのはやらない》

《報酬だって出るんだろ?》

《今世は平凡に、普通の人間として自由に生きるって決めたから。だからやりたくないものはいくら積まれてもやらない》


 過去世で公卿のため、帝のため、そしてお家再興のために粉骨砕身し、死した後も陰陽師の顔として伝説になった彼だからこそ出てくる、心からの願いだった。


「……自由に……か……」


 その時、再び忠行に言われたことを思い出した。

 

 そういえば晴朗は将来何をするのか、決まっているのだろうか。


 早速聞いてみようとメッセージを作成していると、新しいメッセージが届いた。

 送り主は晴朗ではなく、智尋からだった。しかも個人ではなく、晴朗、保憲、智尋の3人のグループメッセージに入っていた。


「……智尋?」


 保憲は作成していたメッセージを中断し、グループメッセージを開いた。そこには、

 

《初詣行こう!》


 というメッセージと共に、散歩している白い犬の可愛いスタンプが添えられていた。

 すぐに晴朗の既読も付き、《賛成》の一言ともに、飛んでいるカラスのスタンプも付いてきた。


「初詣か……」


 保憲はすでに、元旦に家族と毎年お参りしているお寺へ参拝済みだったが、そういえばまだ晴朗とは行っていなかったことを思い出し、

 

《行こうか》


 という一言を、人参を頬張っているデフォルメされたウサギのスタンプと共に返した。

 

「……今度聞いてみるか……」


 将来のことを聞きそびれてしまった保憲は、次会った時にでも直接聞いてみようと思い、二人に《おやすみ》のメッセージを送ってから、眠りについたのであった。


 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ