自由にやってみなさい
「お久しぶりです。晴朗さん」
「あけおめ、晴朗くん」
「あぁ、久しぶりだな、そしておめでとう」
保章と保遠は、久しぶりに顔を合わせた晴朗に対して和やかに挨拶をした。晴朗もそんな2人には自然な笑顔を浮かべている。
いつも何か、別の思惑が含まれたような造られた笑みではない。その穏やかな笑顔に、隣にいた智尋は「(なんだ。普通に笑えるんじゃん)」と思ったが、口に出したら間違いなく文句が返ってくるので、心の中に留めておいた。
「保胤も、久しぶりだな」
「……」
晴朗は保胤にも挨拶をしたが、彼はずっとスマホを操作していて一瞥すらしなかった。
「こら、保胤」
保憲が少し強めの口調で諭すも、それすらも無視して近くの自販機まで歩いて行ってしまった。
「何アイツ、感じわるっ」
「……」
思わず智尋の口からは不満がもれたが、すぐにでも言い返してきそうな晴朗は何も言わず、ただぎこちない雰囲気のまま、彼の後ろ姿を見つめていた。
「お待たせ」
そんな中、混雑していた駐車場にやっと車を止められた忠行が、小走りでやって来た。
「保憲、よく似合っているよ」
「……ありがとうございます」
今日、保憲はまだ陽が昇る前に、着付けのため会場近くの服屋へと一人で先に向かっていた。
忠行はかつて自らが袖を通した晴れ着を、見事に着こなしている息子の姿を見て、自然と表情が綻んだ。
「お父さんと兄ちゃんでツーショット撮ってあげようか」
「俺に任せろ」
ウキウキした様子で保章が自分のスマホを取り出したと同時に、晴朗も待ってましたとばかりに、どこからともなく一眼レフを取り出して自らカメラマンを名乗り出た。
「晴朗くん。どうしたのそれ? 買ったの?」
「写真が趣味の友だちに借りた」
一人本格的なカメラを持ち込んだ晴朗に、保章はほんのちょっぴり引いた視線を向けた。晴朗はそんな保章の視線などものともせずに、プロカメラマンさながらの眼光で、被写体となる保憲と忠行をレンズ越しに見つめていた。
「こうしてまた、お前の晴れ姿を見ることができるなんてな……」
保遠と和泉で二人の立ち位置を決め、晴朗が凄まじい勢いで連写している中、忠行はカメラを見たまま呟いた。
保憲は照れくさくて返す言葉が見つからず、代わりに嬉しそうにはにかんだ。
「保憲」
「はい……はぃ!?」
予想だにしなかった忠行の行動に、保憲の声が大きく裏返った。
忠行が体の向きを正面から保憲へ動かし、保憲もそれに合わせて向かい合おうとした時、忠行が両腕を広げて正面から抱き締めたからである。
一挙一動を見逃さずカメラに収めていた晴朗は目を見開き、保章と保遠は兄弟らしく「わぁ」と声を揃えた。
当の保憲は顔を赤め、どこに置けば良いのか分からない両手は、ワタワタと忙しなく動いている。
すると耳元で、父の心地よい声が響いた。
「また……私の息子として、生まれてきてくれて……ありがとう」
その言葉に、保憲は宙に浮いていた両腕を父の背中に回して強く抱き締め返しながら、
「……私こそ……、再び貴方の子として、生を授かったこと……。心から嬉しく思います……。本当に、ありがとうございます……!」
瞳に涙を溜めながらもしっかりと応えた。
「今度は……今度こそは……! 貴方をさい……」
「保憲」
「は、はい?」
時を超えた親子の絆を堅く確かめ合った後、忠行は保憲の台詞を遮るように再び話しかけた。
「将来の目標は決まっているのか?」
「あ、……いえ……、正直……」
忠行に将来のことを聞かれ、保憲の表情がわずかに曇った。
そんな息子を案ずるように、忠行は保憲の両肩を軽く叩く。
「昔のように、また私と同じ道を歩む必要はない。お前のやってみたいこと、好きなことがあれば自由にやってみなさい」
「やってみたいこと……」
保憲は俯き、忠行の言葉を自分に言い聞かせるように反芻した。
親子の視界の端では、冷たい地面になぜか溶けるように倒れ込み、今にも消えてしまいそうなほどの小さな声で「てぇてぇ……」と囁きながらプルプル震えている晴朗を、和泉と智尋がツンツンと突いていた。
そしてそんな彼らの様子を、遠く離れた自販機のそばで、保胤は温かいミルクティーを飲みながら、まるで舞台上で演技をしている演者を見ている観客のように、静かに見つめていた。
賀茂親子強火ヲタ 安倍晴朗




