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-契- 現代陰陽師奇譚  作者: KUMANO
六章 前世を知る者

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4兄弟の長男


 一月八日 辛未(かのとひつじ)

 

 この日、今年度に20歳を迎える青少年たちを祝う式典、成人式が全国で行われた。

 元旦に能登半島で発生した地震の影響を(かんが)みて、場所によっては一部内容を縮小して行なった場所もあるが、日本の未来を担う若者たちは各々煌びやかな着物やスーツといった礼服に身を包み、式典に望んでいた。


「賀茂さんカッケェ〜!」

「ありがとうな」


 もうすぐ20歳を迎える保憲もまた、快晴となった地元の成人式に袴姿で望んでいた。

 かつて父である忠行が20歳の時にも着用していたという袴。大事に保管されていたのか、譲ってもらった時も皺や汚れなどは一切見られない。新品同然の状態だった。


 白を基調に、双葉葵の紋をあしらった羽織と長着をまとい、袴は腰元の白から足先へ向かって黒へと溶け込むような美しいグラデーションが施されている。

 顔にはほんのりと化粧がのせられ、普段は後ろでゆるく一つに束ねている髪も、この日は編み込みを加えたハーフアップに結い、一本の簪で上品にまとめていた。


 式典が無事に終わり会場の外に出ると、晴朗と智尋が保憲を出迎えてくれた。


「冠はいいのか?」

「浮くだろ流石に」


 平安時代の成人式、元服(げんぷく)は現代とは様相が大きく異なるため、当時のことを思い出しながら晴朗が軽く茶化すと、保憲も軽く突っ込みながら爽やかな笑顔を浮かべた。


「賀茂さ〜ん!」

和泉(いずみ)! なんでここに……」

「えへへ……賀茂さんの晴れ姿をどうしても見たくて……来ちゃいました!」


 すると3人が会場前で賀茂家の到着を待っていると、以前忠行の研究室で実資(さねすけ)や学長と共に歌合せをした、古典文学を専攻している小江和泉(このえいずみ)が満遍の笑みでこちらに手を振りながらやってきた。

 彼は事前に晴朗と連絡を取り、会場の場所や時間を教えてもらい、今回保憲には内緒でやって来たのだ。


「誰?」


 これまで和泉とは面識の無かった智尋が和泉を指さすと「人を指差すな。お行儀が悪いぞ」という晴朗からの叱責が飛ぶ。

 

「あぁ、智尋は初めましてだったな」


 保憲は軽く、互いの紹介をした。


「古典文学一年の小江和泉(このえいずみ)

「こんにちは」

「で、和泉。コイツは高等部2年の播磨智尋だ」

「どうも!」


 紹介もそこそこに、和泉は瞳をキラキラさせながら、袴姿の保憲を見上げた。


「賀茂さんとっても素敵です!」

「ありがとうな」

「賀茂さんってもうお酒解禁なんですか?」

「実はまだなんだ、誕生日が3月なもんで」

「え!? い、いつですか!?」

「14日」

「ホワイトデーなんですね! じゃあ当日はプレゼント持っていきますね!」

「!! オレもオレも!」

「わかった、わかったから。一旦離れよう。な」


 右手側に和泉、左手側に智尋と、まるで幼い兄弟が母親を取り合っているような構図に、晴朗は少し離れた所から温かい目で見守っていた。

 

「賀茂さん、この後どうすんの?」

「ん? この後は家族とご飯……」

「兄ちゃ〜ん!」

「話をすれば、来た来た」


 声のした方を向くと、保章やすあきが大きく手を振りながら走ってやってきた。

 後ろには保遠と保胤もついてきている。


「お待たせ兄ちゃん!」

「賀茂さんにそっくりなのが3人もきた……!」


 智尋は顔が似ている兄弟たちを見て少し驚いている。


「賀茂さん……もしかして、4兄弟の長男?」

「そう。まだ言ってなかったか」


 和泉の問いに対して、保憲は先ほどと同じように弟たちの紹介を和泉と智尋に向けてしてくれた。


「次男の保胤(やすたね)


 保胤はここに来る途中も、そして現在もずっとスマホをいじっていて会釈もなく、2人に興味すら示していない様子だった。


「三男の保章やすあき

「初めまして」


 保章は元気に挨拶をし、


「末弟の保遠(やすとお)だ」


 保遠はぺこりと軽くお辞儀をした。


「……4兄弟の長男……」


 兄弟たちの名前を聞き終えた和泉はかつて、賀茂保憲女かものやすのりのむすめについて色々と研究していた際に見つけた、賀茂氏系図に記されていた名前を思い出していた。


 そこには、今紹介された名前がそのまま記されていたのである。


「お父さんの名前が忠行、さん……」


 そして、そんな4兄弟の名前の上には、彼らの父親の名前も『忠行』と、記されていた。

 

「……安倍……晴朗、くん……」


 最後に和泉は、晴朗を見た。


 和泉が読んだ、ある資料にはこう記されていた。

 

 保憲の弟子である安倍晴明について、現代において彼の呼び名は『あべのせいめい』が一般的であるが、当時の名前は音読みではなく、訓読みで読むのが一般的とされている。

 よって晴明の存命時は『せいめい』ではなく、『はるあき』または『はれあきら』と呼ばれていたものと推測される。

 

 と論じられていた。


 賀茂保憲と安倍晴朗(晴明)。

 果たしてこれは偶然なのか。

 それとも……。


 和泉は保章、保遠と仲良さげに会話をしている晴朗を見ながら、柔らかく微笑んだ。



 

安倍晴明の名前の読みについては、現状「確実にこう呼ばれていた」という決定的な証拠は残っていません。

ちなみに書いている人は『はれあきら』が最有力だと個人的には思っています。


根拠としては晴明の子孫たちが『晴』を名前に冠した際、全員『はれ』と読んでいること(晴親(はれちか)晴道(はれみち)など)

『明』については晴明と同時代を生きた公卿、『源高明』が『たかあきら』と読むこと。

などが挙げられます。


ただ、あくまで推測の域を出ないうえ、じゃあなんで今日に至るまで『せいめい』がメジャーだったん?と聞かれると「……さぁ?」としか答えられないため、話半分でどうぞ。


名前だけでここまで考察ができるのも安倍晴明の魅力の一つ。だと個人的には思います


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