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-契- 現代陰陽師奇譚  作者: KUMANO
六章 前世を知る者

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祝福と呪詛は表裏一体


「あ、あの……」


 その時、保憲が控えめに声を上げた。


「わ、私も……」


 自分も過去世の記憶があると告白し、晴朗を助けようとした。

 一助になるかは分からないが、先ほど話した娘の記憶のように、2人が共有している記憶を話せば少なくとも晴朗だけが矢面(やおもて)に立たされることはなくなると考えたからである。


 だが晴朗は、そんな彼の主張を遮るように「でしたら」と話を切り出してきた。


「『今昔物語集』の中に、安倍晴明とその師匠賀茂忠行様が、百鬼夜行に遭遇するという話があります? ご存知ですか?」


 配信者たちは「それなら……」といった具合に、軽く頷いた。

 

「百鬼夜行……つまり常人には視えないモノを見る力なら、引き継いでいますよ」

「幽霊が見えるってことっスか」


 晴朗に告白に対し、最初に興味を示したのは遅瀬だった。

 

「はい、あと他にも……、呪物が本当に呪物であるかそうでないか。の判別もできますよ」

「マジっスか?じゃあ、僕の『コレ』も?」


 食い気味に喋りながら遅瀬が取り出したのは、あの『呪われた櫛』だった。

 

「はい。それは正真正銘の呪物ですね。かなり強い負の念が込められています」

「僕、コレ持ってて大丈夫ですかね?」

「普通はアウトです。ですが……遅瀬さんはなぜか持っていても問題ないみたいです」


 晴朗の抽象的な表現にたぬたぬが「なぜか……というと?」と疑問を持った。


「なんというか……ちょっと形容し難いのですが……非常に強い力を持ったナニカが遅瀬さんを守っている……そんな気がします」

「は? 何それ? どういう……」


 曖昧な言い方に、呪呪原が不満そうな文句を漏らすと、それを遮るように遅瀬が「お、すごい!」となぜか嬉しそうな声を上げた。

 

「何がですか?」

「いや実はね。以前別の霊能者に会った時も同じこと言われたんですよ。『遅瀬さんの周囲に、強い力を持ったナニカがまとわりついてて、それが守ってくれている』って……」


 「すごいねぇ〜きみぃ〜」と晴朗を評価し始めている遅瀬に対して、いまだ認められない呪呪原は、「え……動画で公開したのを観た、とかじゃ……」と、反論するも、「いえ、動画にはしてないっス」と遅瀬に一蹴されてしまった。


「なので、遅瀬さんに関しては。呪物を持っていても特にさわりはないかと思います」


 晴朗はニコニコ微笑みながらそう言うと、遅瀬は「いいねぇ〜お墨付きもらっちゃった〜」とカラカラ笑っていた。


「遅瀬さんに関しては……?」


 そんな中、不穏な言葉を聞いた呪呪原の顔色が、明らかに悪くなっているのが分かった。


「呪呪原さんですが……まずは、あなたが持参されていた木製の人形。あれば呪物ではありません」

「は? そ、それの根拠は?」


 晴朗の全てを見通してくるような瞳に押され、呪呪原は少しだけたじろいだ。

 

「あなたは先ほど、『平安の陰陽師が実際に使っていた』とおっしゃいましたね」

「そうよ。だって視聴者さんから譲ってもらった後、ちゃんとネットで調べたもの」

「平安時代に陰陽師が使っていたことに間違いはありません、誤りなのはそのあと、あの人形(ヒトガタ)は本来、相手を呪うためではなく、受けた呪いを相殺(そうさい)するために使用していた形代です」

「え、嘘……?」

「本当ですよ。おそらくその視聴者は、川の近くでそれを見つけたのではありませんか?」

「!」


 どこにも流していない情報を突きつけられ、呪呪原は完全に口を閉ざしてしまった。

 

 ある日呪呪原のもとに届いたメッセージ。送り主は、公にしていない私的な関係を持った人物からだった。


 その人物はよく、心霊スポットに出かけてはその場に投棄されていた『呪物っぽい物』を拾っては、ネタとして呪呪原に提供してくれていた。今回もらった人形(ヒトガタ)もその中の一つだった。


 近畿地方のとある山中にあるという、有名な廃村。そこに肝試しへ出かけた時、川の下流で見つけたのだという。

 

 ネットで詳細を調べてみると、『陰陽師が使っていたものらしい』といった結果が出てきたから、それにちょっとだけ怖いと思える情報を追加した。


 最初はバレるか、と危惧していたものの、多くの視聴者たちが持つ『陰陽師は呪術師』といったイメージのおかげか、バレることは無かった。

 

「……かつて、陰陽師は貴族が受けた呪いを人形(ヒトガタ)に移し、川に流して呪いを相殺する(みそぎ)を行なっていました。これを『解除(げじょ)』というのですが……」

「……」


 それをこんなにもあっさりと『自認、安倍晴明』が暴いてしまったのである。

 

「ちなみに、アカリちゃんでしたっけ? その人形にはしっかり人の念……というか、魂がガッツリ入っています」

「え、そっ、そんな」


 呪呪原は思わず素っ頓狂な声が出てしまった。


 あの人形は偶然目についた骨董品屋で偶然手にした人形であり、店員も「なんの曰くもないただの人形」だと言っていたのである。そして見た目がかなり呪物っぽかったから、という軽い理由で購入し、適当に曰くをつけたもの。


「本当です。名前も『アカリ』ではなくて『ナホコ』というそうです。今後はそう呼んであげてください。あとりんごジュースが好きみたいなので、定期的にお供えしてあげてください。喜ぶと思いますよ」

 

 一番安全だと思っていた人形が、実は本物だったと言う事実を目の当たりにし、呪呪原は顔を真っ青にしてしまった。

 

「……呪物とやらを集めるのは大いに結構です。ですがそれらは全て、人の手によって作られています。ましてやまだ、機械が普及していない古代のものは、一つ一つに人の想いや念が込められた、唯一無二の物でもある。祝福と呪詛は表裏一体、扱い方を誤れば、そのしっぺ返しは所有者へと向きます。櫛で他者を呪った、愚かな民間陰陽師のようにね」


 晴朗はにっこりと爽やかな笑顔を浮かべたまま、配信者たちを見回す。配信者たちが晴朗の見た目や年齢らしからぬ言葉の重みと、射抜いてくるような視線に、呆気に取られていた。


「……なんてね。どうでしょう、そろそろ信じて……って、ん?」


 配信者たちが閉口(へいこう)している中、晴朗が、ある異変に気付いた。


「あのインチ……月読さんはどちらへ?」


 月読が、忽然と姿を消していたのである。


「あのオッサンなら、さっきコソコソと出て行ったっすよ」


 遅瀬はその場を見ていたのか、しれっと答えた。

 何も言わずに出て行った月読に対し、晴朗は怒りで額に青筋を浮かべ、


「あんのインチキクソ野郎……逃げやがったな……!」


 と悪態をついた。

 この場で何も言わず、逃げるように退散して行ったところを見ると、自らの部が悪くなってしまったからなのか。はたまた別の理由か。それは誰にも分からない。

 だが分かることは、つい数時間前まで、嬉々として月読を紹介していたたぬたぬの表情が、真っ青になっていたことである。


「それにしてもキミぃ、面白いねぇ」


 そんな中、遅瀬は相変わらず飄々とした様子で、晴朗に話しかけた。

 

「ありがとうございます。恐縮です」


 晴朗は鬼の形相から、スッといつもの営業スマイルへと切り替えた。

 

「ハルアキくんだっけ?」

「はい」

「君、今度僕の動画に出てくれへん?」

「へっ?」


 遅瀬の突拍子もない提案に、晴朗も予想だにしていなかったのか、間の抜けたような声が出ていた。

 

「君になぁ、僕の自宅にある呪物たちの鑑定をお願いしたいんだわぁ」

「え、いや、でも、顔出しとかは……」

「そんなんせんでええ! あれや、天の声みたいな感じで喋ってくれればええから! せやなぁ……動画のタイトルは、『呪物鑑定士現る!!』なんておもろいかもなぁ! で、どや!? 受けてくれるか!?」

「え〜っと……い、いったん持ち帰って検討しますね」

「それ断るやつやん!! とにかく連絡先だけでも教えてや! あとメッセージアプリは? やってる? 今君みたいな人間を逃したらあかんと、僕の勘が言うとるんや! この通りや! 頼む〜!」

「は、はぁ……」


 怒涛の早口で迫られ、普段は会話で平静を崩すことはほとんどない晴朗が、たじたじになっている。智尋も「すげぇ……あの晴朗が押されてる……」と少し引き気味に呟いた。


「お前は……、____……」


 収拾がつかなくなっている中で、保憲が晴朗に向けて放った言葉は、店内の喧騒にかき消された。

 

 

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