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-契- 現代陰陽師奇譚  作者: KUMANO
六章 前世を知る者

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私の過去世は陰陽師、安倍晴明です

 

「では……、差し支えなければ、名前を教えてもらっても?」

安倍晴明(あべのせいめい)

安倍晴明(あべのせいめい)?」

「の、晴明(せいめい)と書いて晴明(はるあき)。と申します」

「な、なんだ、びっくりした……」

「母が陰陽師の大ファンでして……」


 晴朗が過去の自分の名前を名乗ると、周囲は驚いたように目を丸くした。だが、漢字の例えを教えてくれたのを知ると、ホッとしたように胸を撫で下ろしていた。

 

「なるほど、いい名前だね」

「恐縮です」


 月読は、保憲や智尋にもしたように、じっと晴朗の瞳を見つめ始めた。晴朗は相変わらず爽やかな笑顔を貼り付けたまま、見つめ返している。だが時々、視界の隅で智尋が小声で「ミジンコミジンコ……」と謎の念を送っている時は少しだけ気が散った。そんな智尋は、保憲によってすぐに引っ込まされた。


「君は……人間……だね」

「ほう……」

「……着物を着て……祭壇の前で舞っている……」

「(舞……、神楽(かぐら)のことか……? 流石に陰陽師と言うか……?)」


 月読は2人を鑑定していた時とは異なり、結果が出るまでに少し時間がかかっていた。

 晴朗は月読が何を言ってくるか、静かに待った。


「…………君の前世は……巫女さん……かな」

「!?」


 その衝撃の回答に、晴朗、そして保憲の目が再び点になった。


「巫女って……」

「晴朗の過去世って女の子なの!?」

「ばか声がでけぇ!!」

 

 智尋も思わず大きな声が出てしまうほど驚き、晴朗は公開処刑を受けているような気分になってしまい、その恥ずかしさでちょっぴり顔を赤くして、智尋に負けないくらいの大きな声で叱責した。

 そんな2人の視界の隅では、耐えきれなくなったらしい保憲が噴き出していた。


「あ〜なんとなくわかる、かも……」

「顔可愛いしね」

「前世女の子って言われても確かに違和感はないっすね」


 たぬたぬや呪呪原、そして遅瀬も、晴朗の幼さが残っている顔を見て、月読の鑑定結果にどこか納得していた。


「……って、これで終わりじゃないぞ! 答え合わせが残ってる!」


 だが、すぐにたぬたぬが期待した視線を、今度は晴朗に向けた。


「さて、合致するのか……!?」


 たぬたぬに続いて、他の配信者たちの視線も、晴朗に注がれた。

 

 注目を浴びている晴朗は、一息おいてから、クスリと笑いながら、


「そのまま、ですよ」


 そう一言だけ、返した。

 

「そのまま、と、いうのは……?」


 晴朗の回答の真意が掴めず、ノボルがその詳細を問うと、晴朗はその笑みを崩さずに


「名が表す通り、私の過去世は陰陽師、安倍晴明です」


 堂々と宣言したのである。

 

 そんな晴朗の告白に、周囲が一瞬だけ、シン……と静まり返った。


「え〜〜〜!?」

「うっそだぁ〜!」


 しかしすぐに、晴朗の周囲は笑いに包まれた。

 保憲は心配そうに晴朗を見つめているが、彼は笑われているにも関わらずシレッとしながら呑気にお茶を飲んでいた。


「じゃあ何、式神が使えたりするの?」


 呪呪原は笑いながら、まるで晴朗を馬鹿にしているかのような口調で質問を投げかけた。

 

「それは伝説上におけるフィクションです。史実における晴明()が、式神を自在に操ったという記録はありません」

「呪術は?」

「同様です。陰陽師本来の職掌(しょくしょう)は占いですから」

「鬼退治は?」

「鬼退治もやりませんでしたが……、鬼という名の疫病を、平安京に近づけさせないための儀式なら行っていましたよ。それは記録にも残っています」


 呪呪原に続いて、ノボル、そしてたぬたぬの質問にも、晴朗は淡々と答えていく。

 全て偽りのない事実ではあるのだが、彼らの表情から疑惑という感情は拭えず、「えぇ〜……」という、戸惑いの声が漏れ出ていた。


「……おや、先ほど『輪廻転生』についてあれほど熱弁されていたのに、信じていただけないとは……」

「いや〜そう言われても……」


 たぬたぬは「そんな、さ……都合よく現れるとは……ねぇ……」と、歯切れ悪く喋りながら、近くにいた呪呪原やノボルに同意を求めた。するとノボルは困ったように愛想笑いを浮かべ、呪呪原もうんうんとたぬたぬに賛同するように頷いていた。

 

「ここに賀茂保憲もいるというのに……」

「? ど、どういうこと?」

「これはこれは……、陰陽師をお好きと公言していたのに、あの、賀茂保憲をご存知でない? それは実に残念、……ですね」


 そんなどっちつかずな反応を続けるたぬたぬに対して、晴朗が挑発しながら嫌味ったらしい笑みを見せると、そんな彼の言い方にカチンと来たのか、たぬたぬの眉がぴくりと不快そうに動き、笑顔も引き攣っていた。

 

「……て、ていうか、お母さんが陰陽師好きだったんでしょ? てことは毎日否が応でも陰陽師の言葉は目についていただろうし……私からしてみれば、ただの『自認』にしか思えないんだけどなぁ」

「先ほど君が教えてくれた式神や呪術も、現代の研究者が調べた論文の内容をそのまま披露しているようなものだからね……」


 呪呪原の反論に、月読も同意している。

 

「もっと確固たる証明が欲しいなぁ〜、歴史書とかには載っていないけど、君だけが知っている安倍晴明の秘密とか、情報とか……そういうのがあればなぁ〜」


 そして呪呪原は机に両肘をついて、顎を乗せて小首を傾げながら、あえて猫撫で声を出し晴朗を挑発した。

 

「……なるほど……」


 晴朗はそんな呪呪原の挑発に対して、表情を変えることなく、片手で口元を覆って少し考える仕草を見せた。



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