私はもう、認知しておりますので
「予約していた田貫です」
「あ、はい! お待ちしておりました〜! ご案内しまーす!」
新しく来店してきた団体客の足音が、3人が使用しているテーブル席の近くまでやってくる。
「あ!」
最初に気づいたのは智尋だった。
「あれ? さっきの長身イケメンさん!」
智尋の声に反応して振り返ったのは、先ほどまでイベントの進行司会を務めていた、たぬたぬだった。服装は浴衣姿からカジュアルなものに着替えていた。さらには他の配信者たちも揃っており、どうやら打ち上げにこの店を選んだのだろうことが予想できた。
「あの野郎……!」
そして打ち上げのメンバーのには、過去世が見えるという占い師、月読もいた。
月読の姿を見た途端、晴朗の表情が険しくなった。
「うわっ! めっちゃ奇遇〜!」
「先ほどは、どうも……」
「ねぇ! 良かったらちょっとお話ししません?」
「えっ」
呪呪原は保憲の返答を聞く前に、彼の隣に腰をおろした。
「ちょっと、呪呪さん……」
「いいじゃんいいじゃん! お連れの2人もいいよね??」
「オレは賛成〜!」
「キミノリいいねぇ〜!」
たぬたぬが申し訳なさそうに呪呪原を止めるが、彼女が席から立ち上がる様子はなかった。
智尋も好きな配信者たちと一緒に会話できるのが嬉しいのか、呪呪原の提案を即座に賛成した。
「君はど〜お?」
「……どうする?」
呪呪原は更に味方を増やそうと晴朗にも聞いた。すると彼自身は答えず、保憲に判断を仰いだ。
「……えぇ、私たちも、構わないですよ」
「……はい決まり〜!」
保憲はどうしようか迷ったが、智尋が子犬のような瞳で、彼らと食事を共にしたいと訴えてくるので、半ば諦めたように了承した。
すると呪呪原はテンション高く、早速「何食べます〜?」と言いながら保憲と共にメニュー表を見始めた。
たぬたぬは申し訳なさそうに「すいません……」と一言謝ってから、空いている席に腰を下ろした。
「__へぇ〜明後日成人式なんだ! じゃあお祝いに先立ってお酒奢ってあげよっか!」
「すみません、実はまだ、飲めなくて……」
「もしかして誕生日がまだっていうオチ?」
「仰るとおりです」
「そうなんだ〜、ちなみにいつ〜?」
「ノボルさん! 動画めっちゃ見てます!」
「ありがとうね」
「廃神社に行った時の動画が一番好きで〜、あと某旅館に行った時の動画も好きです!」
「廃神社って結構初期にあげた動画だよね?」
「だってオレ、『ドドド』のチャンネル登録者数がまだ100人行ってない時から見てるもん!」
「まじ? ありがたいな〜。いい年したおじさんしか出てないのに」
「それがいいんじゃん!」
「遅瀬さんは、いつからそういった曰くの物を集めるようになったのですか?」
「5.6年くらい前かな〜。海外旅行に行った時、お土産屋さんで偶然見かけた、とある部族の呪物を見た瞬間『これは買わなあかん』って思っちゃったのが始まりかなぁ」
「ほう……、確か、たぬたぬさんにも呪物を贈られていますよね? 大丈夫なのですか?」
「あの幽霊画の掛け軸ね。時々掛け軸からお線香の香りがしてくるくらいだよ」
「お線香……」
飲み物や料理も届き、それぞれが会話に花を咲かせており、ちょっとした宴会のような状態になっていた。
そんな中、月読はただ1人、周囲を見守りながら静かにワインを嗜んでいた。
「ねぇ晴朗」
「どうした?」
「なんかあの女の人、すごい賀茂さんにグイグイいくね……」
「……」
定期的に相手を変えながら会話を楽しんでいたメンバーたちに対して、呪呪原はずっと保憲の隣をキープし続け、彼女が質問攻めを行なっている状態だった。智尋は小声で「やっぱり顔か……顔なのか……」と呟く中、そろそろ助けてやるべきか。と考えた晴朗が2人の近くに移動した。
「呪呪原さん。先ほどトークの中で見せていただいた木製の人形。あれはどこで手に入れたのですか?」
「え? ……あれはね。視聴者さんが譲ってくれたんだよ〜。心霊スポットに行った時に、偶然見つけたんだって」
「左様……ですか……」
「そういえば、保憲くんは心霊スポットとか行くの?」
「いえ、そういった場所にはあまり……」
「そうなんだ〜意外〜」
呪呪原は晴朗との会話を手早く終わらせると、すぐに保憲との会話を再開してしまった。
まるで「邪魔をするな」と言わんばかりの対応の違いに、晴朗は少しだけイラついた。
「あの、右近さん!」
「なんだい?」
一方、智尋は1人で静かにお酒を飲んでいる月読に話しかけていた。
「オレの、過去世も見てもらえませんか!」
「もちろん。いいよ」
月読の快い対応に智尋は「やった〜!」と無邪気に喜んだ。
「じゃあ……、差し支えなければ名前を教えてもらっても?」
「智尋です!」
「ありがとう。では……」
月読はたぬたぬや保憲の時と同様。智尋の顔をじっと見つめ始めた。
智尋は目をキラキラさせながら見つめ返している。
近くにいたノボルやたぬたぬも、そんな彼の様子を暖かく見守っている。
「……う〜ん、君も人間……」
「本当!?」
「江戸時代の飛脚さんかな……走っているイメージが……見える……」
「飛脚!? まじかぁ〜! オレ走るの早いからそうなのかも!?」
智尋は「ボルボックスじゃなくて良かった〜!」と言いながら晴朗に向かって、へへんと胸を張った。晴朗はそんな嬉しそうな彼を見ると、やれやれといった雰囲気のまま「はいはい良かったな」とだけ返した。
「良かったら君も見ようか?」
すると、月読の方から、晴朗にも鑑定を勧めてきた。
「いえ……、私は……」
「遠慮しなくてもいいよ」
「いえ、そういうわけでは……ただ……」
「ただ?」
「私はもう、自分の過去世を認知しておりますので……」
「え!?」
晴朗の回答に、月読や配信者たちはもちろん、智尋と保憲も驚いていた。
「へ〜、別の人に教えてもらったってことっスか?」
「いえ……、昔、ちょっとした事故で……その時に」
「マジっすか!? どこで!? どんな感じで!?」
たぬたぬと遅瀬が興味津々に聞いてきている。
特にたぬたぬは動画配信者としてのネタ探し的な意味もあるのか。かなり前のめりになっている。
対して、智尋は「うっそだ〜! 賀茂さんもなんか言って……」と笑いながら保憲の顔を伺うと、彼は不安そうな表情をして、晴朗を見ていた。
「じゃあ、右近さんと過去世が合致するかどうか、見てもらうってのはどうです?」
「いいね! 面白そう! 右近さん! どうです!?」
遅瀬の提案に、たぬたぬはかなり興奮した様子のまま賛同した。
対して月読は冷静なまま「……君はどう?」と晴朗にも意見を仰いだ。
「私は構いませんよ」
そうして、晴朗は爽やかな笑顔を顔に貼り付けたまま、月読の対面まで移動し、座り直した。




