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戦う者と逃げる者 (Ⅱ)

ギギィーと赤屋はゆっくりとドアノブに手を掛けて玄関のドアを少し開けた。

隙間から外を見ると道路に黒い軽自動車が2台、トラックが1台止まっていた。

その前には黒いスーツを着た男達が8人いた。なにやら話し込んでいるようだった。

この時間帯、さらにここ東京はブレーンがよく出現するので一般人はまず夜になると外に出ない。


(とすると、やはりあいつらリリスを運んでいたやつらか・・・)


ふと赤屋の頭にある言葉が過ぎった。


『無能力者相手なら一人で戦うだけだ』


ッフと赤屋は苦笑いを浮かべる。

昔・・・4年前ならたぶん狭間やリリスに自分だけで戦うと赤屋は言わなかっただろう。

一人で戦えば誤って相手を殺すかもしれない。それが嫌だったのだ。


『人を殺すかもしれない』


あの日狭間に問いただしていなかったら今この瞬間に言葉の重みに耐えきれず赤屋の心は潰れてしまってたかもしれない。


(いや、俺の心は潰れないか。どうせ俺は・・・)


ギチギチと血が出るくらいの勢いで下唇を赤屋は噛んだ。


そう・・・あの日



――回想――


2028年2月10日


その日は狭間に拾ってもらってちょうど8ヶ月が経とうとしていた。

今と同じアパート・・・8ヶ月もすると嫌でも住み慣れている。

赤屋は畳に座りながらテレビでニュースを見ていて、狭間は一人新聞を読んでいる。

ニュースでは殺人事件の話題が上がっていた。その犯人は能力者だという。

能力者が生まれて8年、別に能力を使い殺人をする奴がいてもおかしくはなかった。

だけど赤屋はそんなニュースを何回を見て、ある疑問が生まれた。


「師匠。少し変な話になるが、俺達能力者は周りから化け物扱いされてるよな・・・そこで人を殺したら俺達は本当の化け物になるのかな?」


軽く聞いてみただけだった。

赤屋は自分が無理やりつけられてしまった力で『化け物』と言われるのが心底嫌だった。


「確かに本当の化け物になるかもしれないな。だけどな赤屋、能力者は普通そんなこと考えない生き物だぞ?」


予想外の答え。赤屋は狭間がそんな事を言うとは全く考えていなかった。


「なら師匠は化け物扱いされてもいいのか?」


少し反発気味に言ってしまった。次の瞬間には狭間の右手が赤屋の胸倉を掴んでいた。


「お前・・・本当におかしいぞ。能力者になって今何ヶ月経った?」


「は、8ヶ月」


赤屋の声は少し震えていた。


「8ヶ月でそこまで感情が芽生える・・・いや、心が豊かになっている能力者は今まで見たことないな」


ゆっくりと掴んでいた手を放してくれたが赤屋は後ろに倒れてしまった。


「心・・・?どういうこ―――」


赤屋が全て言い終わる前に狭間は指を指してきた。



「今まで言わなかった俺の責任かもしれないが・・・赤屋。俺達能力者に心なんて存在しない」



存在しない と狭間はためらいなく言った。

そして赤屋が何かを言う前にまるで前から暗記していた事を言うようにスラスラと狭間は話を続けた。


「赤屋は能力者になってから一度でも喜びや怒り、悲しみ、楽しみ・・・人が本来持っている感情を出したことがあるか?」


ッ・・・ 赤屋は言葉に詰まらせた。


(8ヶ月前のあの日、能力者になってすぐは心にポッカリと穴が空いていた気がする。だけど・・・)


「だけど、俺やあんたはこうして普通に会話が出来ている。本当に感情がなかったら唯の機械だ」


否定をしたはずだが、赤屋の声は徐々に弱まっていた。


「確かにお前の言ってる事は正しく、俺の言ってる事は矛盾してるかもな。しかし人間は無くなったものを自己修復しようとする生物だ。いや、『元人間』だな」


『元人間』・・・その言葉だけ狭間の言い方にとげがあった。


「能力者は人間と交流を深めると相手の喜怒哀楽を覚える。だから、お前は俺から習ってるんだろうが・・・8ヶ月にしては妙に感情が豊かだ。ま、物覚えがいいことにしておこう」


狭間は全部言いたい事は言い切ったようだった。しかし、赤屋はまだ疑問があった。


「なら能力者はまた心が取り戻せ―――」


「無理だ」


ピシャリと部屋の温度が下がったのは赤屋でも分かった。全く考えない。もう希望が少しもないみたいだ。


「一度喰われた心は戻らない。所詮人間から覚える程度、偽物の心だ。・・・心は何処に―――俺達にピッタリの言葉だ」


最後の言葉は何処か寂しいそうな雰囲気が出ていた。


「そう・・・か」


赤屋の出した言葉がそれだった。感情のない目・・・狭間が拾った時と赤屋は同じ目になっていた。

能力者のなり立ては誰でも心は空っぽだから仕方ないといえば仕方ない。


「そう落ち込むな。代わりにお前の最初の問いに答えてやるよ」


反応はなし。下を向いてしまったから余計に何を考えているか分からない。

若干15歳の少年には少しきつい話だったかもしれない。


「俺は人から化け物扱いされても良いと思っている。俺達は人と掛け離れた力が使えるからな。そしてお前はその力を誇りに思えばいい」


「何でだ・・・」


赤屋は独り言のように呟いた。


「こんな人殺しの力なんて俺はいらない!誇ればいい?この力のどこが誇れるんだ?」


『人殺し何かなりたくない』


結論から言うと赤屋はそれを考えていたのかもしれない。


「確かに人殺しにしか使えないなら俺だっていらない。だけど、守りたい者を守れる力なら誇っても良いと思わないか?」


「え・・・」 赤屋は思わず声を出した。


「自分を犠牲にしてでも守りたい者。お前の力なら守ることも出来るだろ?だったらそれを誇りに思って何が悪い?」


赤屋が何かを言う前に狭間がさらに話しを続けた。 


「その力を使えるから化け物扱い?なら俺は化け物でも良いよ。人殺しは嫌だ?だったら、殺した奴のぶんだけ生きればいいだろ。俺達の心は偽物、だから良心も偽物だろうな。だけどそれは偽物だろうと今のお前の良心だ。『自分の良心に従い、邪魔する者がいれば倒すだけ』。その過程で人殺しをしてしまっても後悔しなくていいんだよ」


狭間はポンポンと赤屋の頭を叩いた。


「さて、今日はひさしぶりに飯を作ってやるよ」


狭間は赤屋の前に座っていたが立ち上がり、台所に向かった。

一人取り残された赤屋は何も話そうとしなかった。いや、話せなかったのかもしれない。


(だから、この人は嫌いだ・・・。人をこんな気持ちにするから)


赤屋が能力者がなければ頬に何かが流れていたかもしれない。何でこんな気持ちになるのか・・・その時の彼にはまだ理解出来なかった。



――回想終了――



「今俺は自分の良心に従えているよな、師匠」


ポツリと赤屋は呟いた。すっかり昔の事を思い出してしまった。


「従えている。だからまずは邪魔するあいつらを倒すだけだ」


決意を固め、赤屋はドアを開けた。

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