戦う者と逃げる者
午後9時55分
男は腰を屈ませてビルの屋上から道路の真ん中に止まっている3台の車を双眼鏡で眺めていた。
彼の胸には銀色にに光るバッチが付いている。
『警察庁隠密局ブレーン対策部』
彼の所属しているところだった。土井敦、彼の名前だ。
「何だあいつ・・・」
双眼鏡から目を離し土井は呟いた。
5分前・・・予定通りにトラックがこの場所を通過しようとするといきなりトラックに丸い穴が開き、中から少女を抱いた男が飛び出した。
そして男はビルとビルの間の路地裏に入って行った。
その後車から降りてきた男達は何やら騒いでいるようだった。
「あの男、サンプル持ち出しやがったな・・・。いやこちらの方がサンプルを手に入り易いか?」
土井の仕事はサンプルが無事に目的地まで運ばれるのを確かめるのだった。土井の所属しているところもサンプルを目的地で奪取しようとしていたのだった。
「あいつが何でサンプルの事を知っていたかはどうでもいい・・・が、BEOから奪取するよりは楽になっただろう」
土井が独り言を言っているとジジジーと耳に付けている無線機から雑音が聞こえてきた。
「土井!サンプルが目的地まで来てないけど何か知ってる?」
「あー途中で誰かに奪われたよ」
土井が間の抜けた声を出すと無線機から怒声が聞こえてきた。
「あんた何してるの!サンプルを奪取するのが今回の目的でしょ!サンプル奪った奴追いかけなさいよ!」
彼女・・・相川紗羅は無線担当、というか後方から援助するのが仕事だ。土井みたいな能力者は直接戦いをするが相川みたいな無能力者はほとんど後方からの援助だった。
「あー俺、今ビルの屋上にいるんだよ。どうやって追いかけるの?屋上からノーバンジーしろってか?」
予定通りこの場所をトラックが通過するのを見るのが仕事の為、土井は現在7階のビルの屋上にいた。それを追いかけろと無理な注文してきたので土井は顔をしかめながら無線に応答した。
すると相川も分かってくれたようだ。
「分かったわ。でも、どうやってサンプル取り返すの?またリーダーに怒られるわよ」
「サンプルは銀髪に青色の目をした少女だぞ。そんな奴、目立ってすぐに見つかるさ。しかも、BEOから奪うよりはましになっただろう?」
無線から「うう・・・」と反論できずに相川が黙ってしまった。
「とりあえず本部に戻ってきて・・・。あんたからリーダーには言い訳しなさいよ」
土井が「あいよー」と言う前にブツッと無線は切られてしまった。
「全く素直じゃないんだから」
一人呟きながら土井は立ち上がり下に降りる階段がある方に歩いて行った。
同時に道路ではブルルゥとエンジンの音が鳴っていた。3台の車がサンプルを奪取した犯人の元に行こうとしているなんて土井には到底分からなかった。




